エルナーニは観たことあるけどナブッコは初めて。
ストーリーが大きく、拡散傾向である。シモン・ボッカネグラではないがヴェルディはこのような話は苦手ではないのであろう。
バビロンの空中庭園がどのように舞台化されていたか、記憶にない。ただ、非常に色彩豊か、美しいステージであったことは記憶している。
序曲は非常に魅力的。わりと長い曲だが幕の曲をうまく表現している。また序曲だけではないが、ヴェルディ特有の、ダ・ッダダ、という音型がこの初期の曲から武骨にしかし魅力的な推進性となってあらわれ効果的である。
この舞台は4回。うち1回はこんな感じ。
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1988年9月10日(土)18:30NHK HALL
ヴェルディ/ナブッコ
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ナブッコ、レナート・ブルソン
イズマエーレ、エッチオ・ディ・チーザレ
ザッカリア、パータ・プルチュラーデ
アビガイルレ、ゲーナ・ディミトローヴァ
指揮リッカルド・ムーティ
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壮大すぎてバブル時代にはあっていたのかもしれない。強く印象に残っていたのはあの歌である。
「ゆけ、わが思いよ、金色の翼に乗って」
イタリアの第2国歌、と大げさに言われることもあるぐらい超有名合唱が第3部にでてくる。ラ・スカラの合唱団のベラボーなうまさも手伝って、この曲を歌い終えてからものすごい拍手が始まりそれはやむことがなかった。
いつかやんだはずであるが、河童の感覚では10分ぐらい続いたような気がした。拍手がウェーヴのようになり、一度小ぶりな拍手になり、やむかと思われたが、聴衆が余韻に浸っていたいのか、また拍手がぶり返すのである。拍手が終わる時、曲は進むわけであり、その時点で感動も過去のものとなってしまう。それを惜しむかのように海に押し寄せる波のように弱くなり強くなり果てしもなく続いた。
この場合、日本人の悪癖フライング・ブラボーでもないわけだし、素直に許せる部分がある。どこに音楽の共感が潜んでいるのかわからないものだ。
アビガイルレのディミトローヴァ。ナブッコのブルソン。と役者はそろった。あとはその日のコンディションまかせ。これがイタオペの醍醐味。いい日もあれば悪い日もある。双方とも良いときもあるし、片方のみのときもある。
ブルソンの少しななめにずれた音程が、進むうちに矯正されてきて丸みを帯びてきた。だんだんよくなってくるのだろうか。いつものことか。
ディミトローヴァは今回、どこに焦点をあててコンディションを整えてきたのか。トゥーランドットかそれとも今晩か。でも彼女の馬力は無尽蔵。我々が余計な心配をすることもない。女の底力は恐ろしい。圧倒的、タイトルロールは彼女の役のほうに変えたほうがいいのではないか。
その彼女も馬力を使いすぎたか、まだ逝く年でもないのにpass awayしてしまった。
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