河童メソッド。極度の美化は滅亡をまねく。心にばい菌を。

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OCNから2014/12引越。タイトルや本文が途中で切れているものがあります。

2593- =女と男の愛の生涯= アラベスク、女の愛と生涯、テレーゼ、アデライーデ、エリーゼのために、遥かなる恋人に、中嶋彰子、小菅優、2018.8.2

2018-08-02 23:46:12 | リサイタル

今宵は、女性・男性、それぞれを通して恋人への想いや愛に想いを馳せます。シューマンは、「女の愛と生涯」という歌曲集を通して、女性(妻)が夫(未来、空想)と出会い、結婚し、最後に死別するまでのことを想い描き、ベートーヴェンは、「遥かなる恋人に」を通して、ベートーヴェン自身が死ぬまで愛した女性へのラブレターを想い描いたと言われています。
時代を経ても変わらない、「女と男」の「移ろいゆく恋」、「変わらない愛」をお聴きください。
中嶋彰子


2018年8月2日(木) 7:00pm ヤマハホール

シューマン

アラベスクハ長調Op.18  7
  ピアノ、小菅優

女の愛と生涯op.42 (字幕付き)  3-3-2-3-2-4-2-5
  ソプラノ、中嶋彰子  ピアノ、小菅優

Int

ベートーヴェン

ピアノ・ソナタ第24番ヘ長調op.78テレーゼ  5-3
  ピアノ、小菅優

アデライーデop.46 (字幕付き)  7
  ソプラノ、中嶋彰子  ピアノ、小菅優

バガテル エリーゼのためにイ長調WoO.59  3
  ピアノ、小菅優

連作歌曲 遥かなる恋人にop.98 (字幕付き)  15
  ソプラノ、中嶋彰子  ピアノ、小菅優

(encore)
シューベルト 野ばらop.3-3 D257
ソプラノ、中嶋彰子  ピアノ、小菅優

恋心、お互いの人生、メッセージが素敵な中嶋さんプロデュース、女と男の愛と生涯、と銘打ったリサイタルは、この洒落た副題に2曲目のシューマンにおのずと重心がいくかと思いきや、それはリサイタル全編に塗りこめられたものだったなあと、終わってふーと一息つきながら顧みる。


前半シューマン、後半ベートーヴェン。1曲目、何は無くともまずはプレイ。小菅さんの弾くアラベスク。今晩の作品の副題を眺めてみるとこの曲だけ副題に中嶋さんのメッセージが表にあらわれていないけれども、ヴィークへの思いが伝わるものなのだろう。
小菅さんのコンセントレーションは第1音の前に既に曲が始まっているかのようだ。始まる前のざわついた心を一気に鎮めてくれる。素晴らしい集中力でいつものピアノのさばきがとっても素敵。曲想の変化はメリハリ有り、強く透明。

中嶋さんが登場して小菅さんとトーク。そのあと、女の愛と生涯。
全8曲約25分。ステージ後方に字幕が出るので、ジックリと詩を眺めながら中嶋さんの歌に浸る。
この歌詞の意味合いや色合いを思い浮かべながら、だからこそできる歌による人生の一面を心底描写、歌と想いとテクストが一体化したもので深い。声色が自在に変化、そしてパースペクティヴの効いた彫りの深い歌い口が味わい深い。深いに過ぎる。
若いときの心ときめく、デリカシー滴るシューマンの音楽のアヤ。中嶋さん歌は端々まで神経がゆきわたっていて、シューマンの細胞が透けて見えるようだ。
7曲目まで暗さは無いテクストにもかかわらず、独特の憂いのようなものが全体にそこはかとなく漂う。
苦しみは最後の8曲目だけにあらわれる。それまでは終わりの始まりではなかった、人生を過ごしてきたのだと、過ごす人生を描いたものだと知る。心を込めた最終ピースにはなにか、こう、明るさのようなものが漂った。歌い終えて目に手がいった中嶋さんの、苦しくも、少し先が見えてくるような歌だった。
伴奏の小菅さんはいつもよりやや引き気味モードの伴奏。中嶋さんの歌に寄り添うプレイ。歌によく絡まる。そして各ピース、中嶋さんが歌い終えた後のエンディングまでのピアノ。これが実に味わい深い。なにひとつおざなりにせずじっくりと余韻を聴かせてくれる。これもまた素晴らしい。
いやあ、シューマンの神髄を見たような気がした。


後半はベートーヴェン。まず小菅さん十八番のベトソナから。
熱情と告別に挟まれたうちの一つ、テレーゼ。オンリー2楽章の10分に満たないソナタ。まずはいきなり小菅さんの本領発揮。頭4小節のアダージョカンタービレ序奏を始める前の深くて長い間。合わせて10小節分もあったのではないか。長い序奏だった。この序奏が効きました。作品の全体像がものすごく大きく見えた。
序奏から気分は流れるような第1主題と3連符の第2主題。自在なアゴーギク、ベートーヴェンだ。さばきが鮮やかで美しい。惚れ惚れするプレイだ。
第2楽章は練習曲のような雰囲気は一切なくて前楽章の第2主題のモードをさらに高揚させていく。休符の間と、細かい音符の動きの息づかいが素敵でした。
聴けば聴くほどに深いテレーゼ、良かったですね。

また、二人でちょっとしたトークがあって、次はアデライーデ。
男声がアデライーデに呼びかける歌。中嶋さんの一色の声色で通したモースト・ビューティフル・ベートーヴェン、ややキーンな中にザラリとした肌触りの質感を漂わせて歌う絶品の歌唱。ベートーヴェンのアデライーデは、もはや、ワーグナーの源流を聴く思い。本日の白眉。なんて素晴らしいんだ、アデライーデ。
小菅さんの伴奏はベートーヴェンになってややエキサイティングになりつつも、ここは飽くまでも中嶋さんの歌唱と心得ていましたね。
本当にいい演奏だった!!

コクのあるエリーゼのために。均質で情に流されない。譜面の中からベートーヴェンの情感がにじみ出てくる。溢れ出るメロディーメーカー・ベートーヴェン。

遥かなる恋人に。
連続歌唱の6ピース。なにかちょっと身体か軽くなり浮いたような気持ちとなる。ワーグナーの源流節はアデライーデほどには無い。諦めの昇華なのだろうか。いつでもベートーヴェンはその時々の悟りのようなものを感じさせてくれるものだ。
中嶋さんの入念な歌唱にはしびれましたね。小菅さんは演奏の間のトークよりも早く弾きたいという気持ちがアリアリと。ピアノでトークしたいんです、そんな感じが溢れていましたね。

とっても素敵なリサイタルの夕べ、満喫。
満を持して、色紙とCDを持ってうかがいましたが、サイン会は無いとの事で空振り。女の愛を語りにギンブラだったのかしら。ご一緒したかったわ。

好企画、素敵な佳演、ありがとうございました。
おわり