新書だから分量的には少ないし内容的にも古いのだろうが、読みやすいうえ、織田信長という人物を理解する上で鍵となる材料を押さえてあって良い伝記だと思う。
著者は織田信長とはこういうことを言い、した人物だったという紹介に徹している。例えば有名な比叡山の焼き討ちや伊勢長島の大虐殺は言うまでもなく、おのれに背いた荒木村重の家臣とその一家五百人を一挙に殺したり、安土城の留守居を仰せつけた女房たちが自分の不在中に自儘に城を空けたという理由で全員斬って捨てるなど、信長の狂気を窺わせる数々の行動が、彼のすぐれて先進的な政策や言行と特に区別されることなく同列に記述される。
全体的な人物評価(あるいは歴史的な位置づけ)を下すことに、著者は非常に抑制的である。個々の言動についてはもちろん、歴史学者として解釈や評価を行ってはいるが、そこには彼の“近代性”や“進歩的性格”への華々しい賞賛はなく(ちなみに著者は信長を天才扱いしていない)、かといって彼の示す残虐さへの人道主義的な批判もなされない。つまり後世の尺度を以てする評価を行っていないということである。それは読者に任せるというのが著者のスタンスらしい。
余談。私にとって映画・テレビにおける織田信長といえば先ず、NHK大河ドラマ『国盗り物語』(1973年)で高橋英樹氏が演じた信長であるのだが、この鈴木氏の著書を読んで、高橋氏の信長はこの本から浮かび上がる信長像に近いと思った。高橋信長は、正気と狂気の混淆した人格として造型されている(炎上する比叡山を麓からじっと眺めている魚のように無表情な顔の怖かったこと!)。
さらに余談。『戦国自衛隊 1549』で、鹿賀丈史氏が織田信長――正確には織田信長に成り済ました男――を演じていると聞く。テレビのスポット広告の映像を見る限り、鹿賀信長もかなり危なそうな目つきをしていて好さそうである。
(岩波書店 1974年2月第9刷)
著者は織田信長とはこういうことを言い、した人物だったという紹介に徹している。例えば有名な比叡山の焼き討ちや伊勢長島の大虐殺は言うまでもなく、おのれに背いた荒木村重の家臣とその一家五百人を一挙に殺したり、安土城の留守居を仰せつけた女房たちが自分の不在中に自儘に城を空けたという理由で全員斬って捨てるなど、信長の狂気を窺わせる数々の行動が、彼のすぐれて先進的な政策や言行と特に区別されることなく同列に記述される。
全体的な人物評価(あるいは歴史的な位置づけ)を下すことに、著者は非常に抑制的である。個々の言動についてはもちろん、歴史学者として解釈や評価を行ってはいるが、そこには彼の“近代性”や“進歩的性格”への華々しい賞賛はなく(ちなみに著者は信長を天才扱いしていない)、かといって彼の示す残虐さへの人道主義的な批判もなされない。つまり後世の尺度を以てする評価を行っていないということである。それは読者に任せるというのが著者のスタンスらしい。
余談。私にとって映画・テレビにおける織田信長といえば先ず、NHK大河ドラマ『国盗り物語』(1973年)で高橋英樹氏が演じた信長であるのだが、この鈴木氏の著書を読んで、高橋氏の信長はこの本から浮かび上がる信長像に近いと思った。高橋信長は、正気と狂気の混淆した人格として造型されている(炎上する比叡山を麓からじっと眺めている魚のように無表情な顔の怖かったこと!)。
さらに余談。『戦国自衛隊 1549』で、鹿賀丈史氏が織田信長――正確には織田信長に成り済ました男――を演じていると聞く。テレビのスポット広告の映像を見る限り、鹿賀信長もかなり危なそうな目つきをしていて好さそうである。
(岩波書店 1974年2月第9刷)