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書籍之海 漂流記

看板に掲げているのは「書籍」だけですが、実際は人間の精神の営みすべての海を航海しています。

仲原善忠 『仲原善忠選集』 上中下

2011年05月31日 | 日本史
 著者は伊波普猷にわずかに遅れて出た沖縄学の大家。その学問は全体的にかなり古くなっているが、しかしいまだに後世の継承者を見いだせない分野もあること、伊波と軌を同じくするようである。
 たとえば「たまおどん(玉陵)の研究」(中巻、545-552頁。もと『沖縄文化』第9号、1962年掲載)など、そうではないか。
 私も先日沖縄を訪れた際に参拝したが、玉陵は、首里城西に位置する、第二尚氏の墓所である。論文はそこに建てられている碑文の紹介と分析である。
 碑文は、上段に第二尚氏初期の九名の王族の名が刻まれ、下段には「上記九名の子孫以外、何人といえども此処に葬ることを禁ずる。もし背く者あらば天を仰ぎ地に俯して祟るぞ」という旨がしるされているのであるが、著者は、これを以て「王家内の醜悪な斗争を露出」したものだとして、「庶民にも劣る」と断じている。
 今日でもふしぎなほど、琉球王家(もしくは一人一人の王)に対する評価は、良いも悪いも聞くことが少ない。琉球王朝全体については、人頭税その他の悪政をふくめ、評価は容易に目にすることができるのだが。
 なお本書は沖縄返還前の出版であり、よっていうまでもなく価格はドル建てである。

(沖縄タイムズ社 1969年7月)