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書籍之海 漂流記

看板に掲げているのは「書籍」だけですが、実際は人間の精神の営みすべての海を航海しています。

田中耕太郎 『法家の法実証主義』

2013年12月23日 | 東洋史
 田中氏は、道家は人為法を否定する自然法思想に立ち、儒家は自然法に類似した法思想を持つとする。
 そして表題ともなっている法家のそれであるが、法家は自然法を否定する法実証主義であると。

 法の権威を五倫即ち自然法的原理に求めず、之れを主権者の意思に帰せしめるに於ては、法の内容の決定は一つに其の政治的意図の如何に依つて決定せられることになる。管子に於ては法治主義と並んで自然法主義が採用せられてゐる結果、君主の立法権の行使に関しては当然自然法よりする制約が存在するわけであるが、一般法家に於ては此の制約が存しない結果として、一方法治主義自体が徳治を含む人治即ち私意に反対してゐるものの、他方法治の内容自体の決定に関しては多分に主権者の私意に堕する危険が存在するのである。 (「八 立法の基準、変法論」本書65頁。原文旧漢字、以下同じ)

 法家の法実証主義は一方に於て自然法を否定するに依つて実定法の自主性を確立すると共に、他方実定法の内容の決定即ち立法の標準に関しては客観的基準を欠如し、相対主義に陥つたのであつた。即ち其の法実証主義は法の形式的権威を極力維持し、此の意味に於て法的安定性の実現に貢献したのであるが、法の実質的権威に関しては必ずしも然るものとは云へなかつた。 (「七 法の権威の淵源」本書58頁)

 「自然法則と倫理原則の融合調和」(129頁)しているのが「支那社会」(同頁)の自然法であるというのが著者の見解。

(福村書店 1947年10月)

ハインリッヒ・ミッタイス著 林毅訳 『自然法論』

2013年12月23日 | 社会科学
 たかだか法律という〔いわば〕網細工には欠缺がありえても、法には決して欠缺はありえないのであります。更にまた、「 法律 Gesetz〔作られて現にある法〕に対する法 Recht〔あるべき法〕の闘争」ということがいわれます。しかしてこのことは、実定法の上に、われわれが正義の名においてそれに訴えることができる、より高次の法廷、すなわち、われわれのあらゆる質問に対して解答を知っており、実定法に対する批判の鏡を保持しているところのより高次の法、その中においてわれわれの法意識、つまり法と不法に関する直接的に明証な感情が実現されるところの「正しい」法、が存在しなければならないということを意味しております。このより高い位階にある法のことを、われわれは自然法と名づけるのであります。それは最高の意味における法であります。それはあらゆる実定法の上に存在しており、実定法の基準、実定法の良心たるものであります。それは法律の王たるものであり、諸規範の規範たるものなのであります。 (「序論」本書10頁。下線部は原文傍点、以下同じ)

 “首尾一貫性”とは何か?

 このようにしてわれわれは、首尾一貫性の中に人間的共同生活の基本原理を、そして同時に正義の根元現象 Urphänomen を見いだすのであります。首尾一貫性は、真に普遍的に、そしてあらゆる具体的な場合に適合した人間的行動、というものを表示するキーワードであります。 (「三 自然法の現代的意義」本書63頁)

 英語でいうintegrityのことだろうか。

(創文社 1971年6月第1刷 1973年1月第2刷)

ハンス・ケルゼン著 黒田覚/長尾龍一訳 『自然法論と法実証主義』

2013年12月23日 | 社会科学
 規範体系としての自然法と実定法という捉え方。

 実定法が強制秩序であるのに、自然法は強制のない無政府的秩序だということは、両者が――秩序として――規範体系であること、従がってどちらの規範も同じく当為によって表現されるという事実になんの影響も及ぼすものではない。自然法の体系ならびに実定法の体系が等しく所属しているのは必然の法則性、すなわち因果性ではなく、それと本質的に違う当為の法則性、すなわち規範性である。 「第1章 自然法の観念と実定法の本質」「当為、絶対的および相対的妥当」本書9頁。下線部は原文傍点、以下同じ)

 自然法の正義とは「形式的な秩序あるいは平等の思想」でしかないという認識。

 自然法の側から通常正義の本質と主張される平等の観念、等しきものは等しく取扱われるべし、との原則、また――これと同じであるが――等しき者に等しきを保証せよ(各人に彼のものをsuum cuique)との原則は、けっきょく同一性の論理的原則、したがって矛盾律を述べているのに他ならない。だからこれは秩序・体系的統一性の概念が意味するところと同じである。 (「第4章 認識論的(形而上学的)基礎と心理的基礎」「正義の理想の論理化」本書96頁)

 「根本規範」と言う考え方がよく解らない。

(木鐸社 1973年11月第1版 1976年6月第1版第2刷)