くじら図書館 いつかの読書日記

本の中 ふしぎな世界待っている

「説得」大泉実成

2016-07-19 05:08:57 | 哲学・人生相談
 三十年前に書かれた作品の文庫化。当時講談社ノンフィクション賞を取ったそうです。
 大泉実成「説得」(草思社文庫)。今でも需要があるからこその出版なのでしょう。わたしもこのサブタイトルで買いました。「エホバの証人と輸血拒否事件」。
 輸血拒否事件といえば、事故にあった小学生の息子さんに教義から輸血をしないでほしいと結局死に至らせてしまった事故です。エホバの証人のイメージをマイナスにしたであろうとわたしは思っていたのですが、なんだか本人や周囲の人にはそうでもなさそうな……。

 大泉さんは、このとき少年が「生きたい」といったという報道を受けて、この言葉の意味を知りたいと感じます。その結果、遺族の属するエホバ会衆に接触し、行動をともにするようになります。
 というのも、大泉さんは幼少期におばあさんとエホバの集会に参加していたのですね。だから、結構教えや集団の考え方に慣れていた。そして、両親や兄弟とも親しくなっていく。
 その傍ら、輸血を説得し得なかった病院関係者にも取材を続けます。
 これまで渋る家族をなんとか納得させた経験がある医師たちも、みすみす死なせてはならないと努力するのですが、頑迷なほどのこだわりを見せられます。
 結局、輸血さえできれば助かるはずだった少年は亡くなってしまう。
 宗教について描いた本って、最終的には否定的なものが多いように思っていましたが、大泉さんは親密な感じがしました。なんとなく「潜入捜査」のようなイメージだったのですが、結構彼ら寄りというか。
 反対にいえば、会衆の目から見た大泉さんは間違いなく仲間に近い存在だと思うのです。
 なにしろ「未割り当て地域」の伝道にも同行したのですよ! 信仰心があると判じられていたことでしょう。
 「未割り当て」というのは、当時日本の「九十パーセント以上」を占めていたエホバの伝道割り当て地区に該当しなかった「山間部など数パーセントの区域」では、会衆が育たず伝道できなかったため、夏休みなどを利用して代わる代わる歩く行事なのだそうです。
 寝転がって読んでいたわたし、この地名に思わず起き上がってしまいました。どんなところかと思っていたら……二十年くらい前に勤務していた町ではないですか。
 すると、宿舎はあの旅館だろうかとか、このスーパー懐かしいとか、「あいさつ通り」あったあった! なんて記憶が蘇ってくるのです。
 しかし、実際にはそれ以前の出来事なのですね。
 
 この本を読み始めたあと、藤田美奈子の「ウチの母が宗教にハマりまして」(KKベストセラーズ)も買いました。こちらもおもしろい。
 宗教を選択するというきっかけとか心理を考えさせられました。