くじら図書館 いつかの読書日記

本の中 ふしぎな世界待っている

「気仙沼に消えた姉を追って」生島淳

2013-06-23 10:04:23 | エッセイ・ルポルタージュ
 なんといったらいいのか……。気持ちが、落ち着きません。わたしはどちらかというと冷淡なタイプだと思うんですが、この本に、揺さぶられて茫然としたような気持ちです。
 「気仙沼に消えた姉を追って」(文藝春秋)、先日まんが版を読んだので、実際に生島さんが書いた文章で読みたいと思い、借りてきました。
 大筋は知っていたので、まずはまんがに描かれていたプロローグ、第一章、第五章を読みました。高瀬さんはまんがを描くに当たって生島さんに取材したのでしょうね。こちらにはないこともあり(お兄さんたちのこととか)、反対に省略されていることもあります。
 そのなかで妙に印象深かったのは、生島さんのルーツを語る部分。おばあさんは結婚しないままに出産したのですが、相手はお寺の息子だった。その子どもが生島さんのお母さんです。生島さんのお父さんが病気で亡くなり、その葬儀で小学生だった彼が、「お坊さんになりたいな」といい、血は恐ろしいとぞっとしたというエピソード。
 お姉さんの葬儀を、遺体が見つからないまま行うことになり、殺伐とした気持ちが読経で落ち着いてきたという部分と重なってしまうのはわたしだけでしょうか。その先年に行われたお母さんの葬儀も、身内だけながらヒロシさんの司会でアットホームな感じだったといいますが。
 でも、この本は生島さんの自伝的なエピソードだけでは終わらないのです。まんがにも登場した同級生(面瀬中の櫻井先生だそうです)から気仙沼の様子を書いてほしいといわれ、被災した方々に話を聞きに行く、その様子が書かれています。
 まずは「金のさんま」という商品を作っていた水産加工会社。読んでいるうちに、震災直後の新聞でこの方のニュースを読んだと思い出しました。
 また、大島の中学校に勤める七宮先生。アメリカ軍との通訳をなさったそうです。
 生島さんの友人でもある、戸倉小学校の小松先生。そのお嬢さんの高校生として未来に想いを馳せる姿が、とてもよかった。
 戸倉小学校からは、震災から避難してきた方も多く、うちの子どもたちも仲良くしてもらいました。また、この娘の穂波さんは志津川中出身で妹さんもいるとのこと。当時の志津川中には知人もいて、なんだかわたしには他人事ではないように思ってしまうのです。
 気仙沼高校に進学したいけど、震災のあとは落ち着かないから、とわたしの母校に変更した生徒さんも多いと聞いています。
 だから、バレーボールで全国大会にいきたいと夢をもって、高田高校に進学した熊谷茜さんが、どうしても転校せざるをえなくなったエピソードには、泣けて泣けて仕方ありませんでした。
 チームメイトたちのやさしさ。帰ることができない茜さんを家に連れいってくれ、イベントにきた大山選手に「この子、誕生日なんです」と声をかけてプレゼントをもらってくれる。こんなに素敵な仲間と、離れなければならない。
 本当に、高校生として震災を迎えた彼女たちの想いを考えると言葉が出ません。
 わたし自身も、あのとき誰かに何かできたんだろうか、とふと後悔のようなものを、感じました。