宮下さんの作品って、読むのがもったいないような気がする。買ってから本棚に入れたまま、はや文庫も出てしまった作品集もあり……。今回は本屋大賞にもノミネートされましたよね。
「田舎の紳士服店のモデルの妻」(文藝春秋)は、図書館で立ち読みしたら止まらなくなってしまい、そのまま借りてきた本。読んでいて思うのは、これは読者に「わたし」を感じさせる小説だということ。主人公梨々子のもつ孤独とか憂鬱とか、旦那さんへの思いとか子どもたちへの眼差しとか、いろいろな面でそのときの自分の悩みと共感できる。
彼女は東京出身で結構モテるタイプ。一目惚れした同僚の竜胆達郎にアプローチしてめでたく結婚し、二児の母となるのですが、彼がうつ病を理由に退職して郷里に帰ると言いだす。それからの十年を、二年ごとに描いていくのですが、次第に梨々子の心情に変化があらわれていくのです。
東京との価値観、地区運動会への取り組み、元アイドルの林マヒナへの思い、運動会で走らなかった長男の潤はピアノが好きで、次男の歩人は我が道を行くタイプです。
この歩人、おそらく自閉的傾向があると思われるのですが、そのために梨々子はよく学校に呼び出されます。毛虫を四匹描いて「かぞく」だという。給食に手をつけない。学校関係者としてはそんな理由で呼び出すか疑問ですが。
梨々子としては度重なる苦情の電話に謝罪をするのが癖になってしまいます。でも、歩人の世界を認めている。彼が唯一心を許す友人「きよち」(キヨシとでもいうのかな)のことも、受け入れる気持ちがあります。それなのに、梨々子の母は拒絶する。言葉ではなく目で。
母とのやりとりの中で東京にいた頃の自分とは考え方が変わったことに気づいていきま す。お受験についての話題が出るのですが、環境が違えば一律ではないということに母は納得しません。麻婆豆腐の調味料にこだわっていた梨々子も、わざわざ東京で買うということをやめてしまっている。つまり、達郎の好みに合わせるのをやめてしまったのですよね。友人から「田舎」のイメージを語られてお互いに気まずい感じをしたことも、後半はあっけらかんと受け入れたように思います。潤が東京の先生にピアノを教わることにも、夫婦だけでは結論が出ない。「東京」は遠いのですよね。でも、自分のすみかとしとの町に愛着を感じ、方言も使ってみる梨々子。言葉って大事だな、とラストを読んで感じました。地元にいながら方言を避ける達郎が、ふと「あ?」という場面、うまいよなあ。
紳士服店のチラシモデルを依頼されていた達郎が、意外な人物が昔モデルをしていたことを告げるところも伏線が効いています。妻としての梨々子が、「ひとり」を自覚しながら、自分の存在の確かさについて納得するラストがとてもいいですよ。
「田舎の紳士服店のモデルの妻」(文藝春秋)は、図書館で立ち読みしたら止まらなくなってしまい、そのまま借りてきた本。読んでいて思うのは、これは読者に「わたし」を感じさせる小説だということ。主人公梨々子のもつ孤独とか憂鬱とか、旦那さんへの思いとか子どもたちへの眼差しとか、いろいろな面でそのときの自分の悩みと共感できる。
彼女は東京出身で結構モテるタイプ。一目惚れした同僚の竜胆達郎にアプローチしてめでたく結婚し、二児の母となるのですが、彼がうつ病を理由に退職して郷里に帰ると言いだす。それからの十年を、二年ごとに描いていくのですが、次第に梨々子の心情に変化があらわれていくのです。
東京との価値観、地区運動会への取り組み、元アイドルの林マヒナへの思い、運動会で走らなかった長男の潤はピアノが好きで、次男の歩人は我が道を行くタイプです。
この歩人、おそらく自閉的傾向があると思われるのですが、そのために梨々子はよく学校に呼び出されます。毛虫を四匹描いて「かぞく」だという。給食に手をつけない。学校関係者としてはそんな理由で呼び出すか疑問ですが。
梨々子としては度重なる苦情の電話に謝罪をするのが癖になってしまいます。でも、歩人の世界を認めている。彼が唯一心を許す友人「きよち」(キヨシとでもいうのかな)のことも、受け入れる気持ちがあります。それなのに、梨々子の母は拒絶する。言葉ではなく目で。
母とのやりとりの中で東京にいた頃の自分とは考え方が変わったことに気づいていきま す。お受験についての話題が出るのですが、環境が違えば一律ではないということに母は納得しません。麻婆豆腐の調味料にこだわっていた梨々子も、わざわざ東京で買うということをやめてしまっている。つまり、達郎の好みに合わせるのをやめてしまったのですよね。友人から「田舎」のイメージを語られてお互いに気まずい感じをしたことも、後半はあっけらかんと受け入れたように思います。潤が東京の先生にピアノを教わることにも、夫婦だけでは結論が出ない。「東京」は遠いのですよね。でも、自分のすみかとしとの町に愛着を感じ、方言も使ってみる梨々子。言葉って大事だな、とラストを読んで感じました。地元にいながら方言を避ける達郎が、ふと「あ?」という場面、うまいよなあ。
紳士服店のチラシモデルを依頼されていた達郎が、意外な人物が昔モデルをしていたことを告げるところも伏線が効いています。妻としての梨々子が、「ひとり」を自覚しながら、自分の存在の確かさについて納得するラストがとてもいいですよ。