くじら図書館 いつかの読書日記

本の中 ふしぎな世界待っている

「ガラスの麒麟」加納朋子

2012-05-07 21:07:43 | ミステリ・サスペンス・ホラー
 痛い。胸がきしむような少女たちの思春期が、ガラス細工の繊細さで描かれて、かつて少女だった自分や周囲の友人の痛みが蘇ってくるように思いました。また、仕事の面でもかなり近い場所にいますから、非常に親近感があります。でも、それはちょっと苦しい甘さではあります。登場人物たちの不安定さが、いたましくもありもどかしくもあり……。
 加納朋子「ガラスの麒麟」(講談社文庫)。かなり初期の作品です。推理作家協会賞をとった作品ですね。でも、このころの感受性の強さが、当時のわたしが加納作品から離れてしまった根本のような気もします。
 通り魔事件の被害者となり、亡くなった安藤麻衣子。裕福な家庭で育った美少女で、学友からも人気があった彼女は、なぜ殺されなければならなかったのか。友人だった野間直子、その父親、担任教師、それぞれのもつ麻衣子への感情が養護教諭神野菜生子の謎解きとともに綴られていきます。
 この本がなかなか図書館になくて、やっと仙台の古本屋で発見したんですが。
 個人的に所有するよりも思春期の少女たちに読んでほしいような気がしました。
 麻衣子はちょっとひねくれている少女です。なかなか素直になれないのでしょうね。そういう女の子たちは実は少なくない。直子にしても由利枝にしても、そういう側面から手痛い後悔を抱いています。また、非常に頭の切れる神野先生も、かつてはそういう女生徒だったのです。そんな不安定な彼女たちを見つめる大人の目があるのがいい。
 麻衣子は童話を書いており、イラストレーターの野間(父)の気持ちを揺らします。童話と小説世界は呼応しており、ネメゲトザウルスの道を間違う比喩が効いています。
 麻衣子自身も、道を間違えたという思いはあったのでしょうか。それとも、死をもって彼女の願いはかなったのでしょうか。
 そういうやりきれないような思いが、わたしには少しつらいのです。
 「ダックスフントの憂鬱」が楽しかった。少年のひたむきさが胸を打ちます。同じように「暗闇の鴉」も湿っぽさを吹き飛ばす山内さんが格好いいです。由利枝がまだ二十歳というのが驚きでしたが。大人っぽいような。
 加納さんの未読本もあと数冊……。なんだかもったいないような。