語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【古賀茂明】「1年後の夏」に向けた布石 ~集団的自衛権~

2014年07月19日 | 社会
 (1)7月1日、集団的自衛権行使容認が閣議決定された。
 しかし、関連法案は来年4月だ、という。
 あんなに急いだのに、この悠長さはどうしたことか。
 その裏にある安倍政権の「国民を馬鹿にした」戦略は、こうだ。
 
 (2)5月15日、赤ちゃんを抱く母親のパネルを使って、安部総理は躁状態で滔々と述べ立てた。
 「(集団的自衛権の議論は)期限ありきではない・・・・しっかり与党においても議論していただきたい」
 自信たっぷりにそう語ったのだが、予想外に反対論が強まると、前記発言の舌の根も乾かぬうちに、6月22日までの国会会期中という期限を設定。
 大嘘つきの安部総理のごり押しに、「与党でいたい病」の公明党は全面譲歩、7月1日の屈辱的閣議決定となった。
 
 (3)これだけ急いで強引に閣議決定したのに、今度は全関連法案提出を来春まで持ち越す、という。菅義偉・官房長官約1年かけて・・・・しっかり議論を進めていきたい」と言った。
 唖然とするしかない。
 閣議決定後の世論調査では、若者層を中心に支持率が下がった。

 (4)この秋には、吸収電力川内原発の再稼働で政府批判が強まるだろう。
 再稼働反対派と集団的自衛権反対派は心情的に近い。秋の臨時国会で集団的自衛権の議論を始めると、両者が共鳴して10月、11月の福島と沖縄の県知事選が危なくなる。
 そこで、来年通常国会提出へと変更した。
 その間に、公明党に予算と税制改正で大盤振る舞いをして、関係修復できる、という読みもある。
 法案審議は、予算成立後の4月以降となるが、4月は統一地方選だ。公明党はその直前の集団的自衛権の法案審議には絶対にノー。自民党も公明党の選挙協力を得たいので、審議開始は地方選が終わったゴールデンウィーク前後となる。

 (5)改正法案は10本以上だ。会期末まで2か月。法案成立は可能なのか。
 それを可能にする3点セットがある。「束ね法・担当大臣・特別委員会」だ。
 10本以上の法律。しかも、担当省庁が異なると、各法案を関係委員会で各々の担当大臣出席のもと審議する。各委員会の開催は週に2~3回。他の法案審議もある。十数本の法律を個別に審議するには2か月は短すぎる。
 そこで、3点セットの登場だ。
 共通する政策目標のために複数の法律を改正する場合は、「束ね法案」にして20本でも1本の扱いにする。安部総理が、「幅広い法整備を一括して行って」と述べたのは、このことだ。
 安部総理は同時に、「担当大臣を置きたい」とも言った。安全保障担当大臣を置けば、関係省庁の全大臣の代わりにこの大臣一人の出席で審議できる。
 さらに、安全保障問題を議論するための特別委員会を置けば、関係する委員会での審議を行わずに済む。
 官僚の経験則では、この3点セットで審議時間は大幅に短縮される。
 これを使って強引にやれば、会期末(6月下旬)までの法案成立は十分に可能になる。
 
 (6)北朝鮮の拉致問題に関する特別委員会(この7月に発足)の調査期間は1年以内。
 来年6月下旬の国会会期末と符合する。
 法案を強行採決して批判が高まった日に、安部総理が北朝鮮へ出発。2日後の羽田。十数人の日本人とともに安部総理が政府専用機のタラップを降りる。
 さらに、消費税増税が実施される来年10月を前に、直前の8月、9月は駆け込み需要で景気が盛り上がる。
 これで支持率は急回復。
 その勢いで9月の自民党総裁選での再選は確実だ。
 そんなシナリオを考える安部総理の頭の中にある鉄則は、こんなものだろう。
 「国民は健忘症で愚か。操縦法は二つ。時間をおく、他に目をそらす、それだけで十分だ」

□古賀茂明「「1年後の夏」に向けた布石 ~官々愕々第117回~」(「週刊現代」2014年7月26日/8月2日号)
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1 コメント

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姑息なシナリオ (武尊43)
2014-07-19 23:27:02
>安部総理が北朝鮮へ出発
これにアメリカが「まった」を掛けてしまいましたね。タラップを上る前に連絡しろ。行くんじゃねえって言って来ましたよ。シナリオに狂いが生じています。どうするんでしょうねェ?

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