語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【食】回転寿司の息の根を止める ~「魚」の買い負け・気候リスク~

2015年08月28日 | 社会
 (1)魚介類の自給率は、113%(1964年)をピークに減少し、いまや60%にすぎない。近年は買い負け、気候変動リスクが高まって、魚は大衆食ではなく「高級食材」と化しつつある。

 (2)回転寿司チェーンのくら寿司に、7月末に「シャリカレー」が登場した。酢飯にぴりっと辛いカレーソースがかかった新商品だ。1杯350円という手頃な価格設定のせいか、この奇抜なメニューを注文している客が意外と多い。
 くら寿司に限らず、最近の寿司チェーンの「サイドメニュー」は充実している。しょうゆラーメン、イベリコ豚丼、フライドポテト、チョコケーキ・・・・。サイドメニューだけ見ると、居酒屋やファミリーレストランのメニューと見まがう。
 寿司チェーンがこぞってサイドメニューに力を入れる最大の理由は、「原価率の低減」にほかならない。

 (3)ことほど左様に、寿司ネタに使用される魚の高騰が深刻になっているのだ。
 2000年代初頭に牛肉の牛海綿状脳症(BSE)問題が発生したことなどが契機になって、それまでタンパク源を肉で摂取していた欧米や中国の人びとが魚を食べるようになった。逆に、日本人は魚食から肉食へシフトしてきたため、欧米や中国に比べて小ロットの魚を高値でつかまされる「買い負け」が常態化した。
 2013年に円安に転じてからは、日本の買い負けの実態はよりシビアになった。日本の水産物輸入量は、過去最高の382万トン(2001年)以降、低下傾向にあり、2014年に258万トン(32%減)まで落ち込んだ。
 その一方、同時期に、価格は200円/kgもアップしている。サケマス、冷凍サバ、冷凍アジ、冷凍シシャモ、冷凍マグロ、冷凍タコ、エビ類、カニ類・・・・すべての主要魚種において輸入量が激減し、1kg当たり価格はつり上がっている。
 寿司チェーンの客単価は、せいぜい1,200円程度。うち原価率4割で利益が出ると仮定すると、食材に500円しか掛けられない。200円/kgもアップする魚主体のメニューでは経営危機に陥ることが明らかだ。

 (4)では、どんどん養殖魚を増やせばよいのか。
 この10年で世界の漁業生産量は増え続けている。その増加分は、養殖業によるものだ。ただし、養殖業生産量の伸び率が鈍化している上、その6割に相当する5,700万トンは中国で占められる。中国で養殖された淡水魚は内需に回され、国際マーケットには出てこないのだ。 
 植物性由来のタンパク源を養殖魚の餌に使うなど、養殖技術は日進月歩だが、基本的はマグロを1kg太らせるためにサバなど15kg分の魚が必要だ。そこまでして養殖マグロを育てるべきなのか、という議論があるのは確かだ。 

 (5)魚を取り巻くリスクは、買い負けにとどまらない。
 魚の生態は、気候変動の影響をまっこうから受ける。近年の地球温暖化による海水温の上昇は、魚の回遊する海域に変化をもたらしている。
 北欧サバ戦争・・・・海水温の上昇により、サバが北上、伝統的な漁場であるノルウェーのみならず、アイスランドやフェロー諸島でもサバが獲れるようになった。厳格な漁獲量管理をしてきたノルウェーを尻目に、アイスランドなどは乱獲しまくったことから国際問題に発展している。
 サバの調達先をノルウェーに依存してきた日本も、対岸の火事ではいられない。ただでさえ入手しがたくなっているサバをリーズナブルな価格で調達することは難しくなるだおる。
 もはや、魚は庶民的な食べ物ではなくなってしまった。

□記事「回転寿司の息の根を止める「魚」の買い負け・気候リスク」(「週刊ダイヤモンド」2015年8月29日号)
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