語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【メディア】“愚者の砦”と化したNHK(1) ~強行採決を中継しない不作為~

2015年08月21日 | 批評・思想
 (1)戦後70年の夏、NHK放送センターは、ついに(やはり)“愚者の砦”と化してしまった。
 7月15日、「安全保障関連法案」に関する衆議院特別委員会の最終日、強行採決が予想されたもっとも重大な日に、NHKはテレビ中継をしなかった。これは、国民の知る権利を大いに侵害する愚挙だった。
 55年前(1960年5月19日)、安倍首相の祖父(岸信介・首相)は日米安保条約改定の強行採決を行った。それを上回る暴挙が予想されたにもかかわらず、新聞のテレビ欄に9時開始予定の「安保法案特別委員会・中継」の文字はなかった。

 (2)実際には、正午過ぎの強行採決の瞬間だけが生中継された。
 実は、委員会では長妻昭・議員が、安保法案の前提として首相の歴史認識を尋ねる場面があった。長妻議員が「先の大戦を過りと認めるか」となんど問うても、安倍首相は「先の戦争の反省に立って」としか答えなかった。
 反省の前提となる「なにをなぜ過ったか」という歴史認識にふれることを徹底して避けたのだ。
 首相は、「まだ十分に理解されていないかもしれないが、今後も丁寧に説明していきたい」と受け流し、さっさと強行採決を断行した。
 かくて、「丁寧に」は「押しの一手」の同義語となり果てた。

 (3)90%以上もの憲法学者が「違憲」または「違憲の疑い」を指摘し、1万人もの学識者が法案に反対している。
 しかし、首相とその取り巻きは、「学者と政治家の責任は違う」と、まったく聞く耳を持たない。
 200年以上も昔、カントは<実務にたずさわる政治家は、理論的な政治学者を(中略)机上の空論家と蔑視>すると書き(『永遠平和のために』)、学者の意見を聞かない政治家たちが、戦の種を残す平和条約を結んでは戦争を繰り返す愚を批判した。
 中谷防衛相は、答弁を二転三転、時間を空費し、安倍首相は軽薄なヤジを飛ばし、自分の出番には長広舌をふるい、時間を潰す。場外では、アベ親衛隊がメディアを「懲らしめろ」「潰せ」などと喚き、その収拾で貴重な時間を横奪した。
 浜田委員長は、消化試合をこなした後、「法律10本を束ねたのはいかがなものか」と記者団に答え、「十把一絡げ」を認めた。

 (4)中継しなかった理由を、NHK広報は「総合的判断」による、と答えた。答弁に窮した首相がよく使う遁辞だ。
 かくて、「政府が右と言うことを左と言うわけにはいかない」籾井会長の任期も長引く。
 後代の史家は、NHKが安倍政治の“惨劇”をメディアウォールで覆い隠すという愚かな選択をした日と記述するであろう。

 (5)深夜の「NEWS WEB24」は、画面下に視聴者のツイートを載せる。SNS連動型のニュースだ。
 昼間の強行採決に対する視聴者の反応は、特筆すべき意見も情報もなかったが、採決の瞬間、野党議員たちが怒号とともに「アベ政治を許さない」などのプラカードを掲げる映像が流れると、ツイートに変化が生じた。
 「政治家が国会でプラカードで主張って、なんか違うと思う」
 「テレビカメラを意識したパフォーマンスに見えちゃって」
などと冷ややかな反応が目立った。
 世論の傾向と微妙にズレている。
 次に、国会を取り囲む人びとの夜の空撮が流れると、
 「国民の声なき声に耳を傾けてもらいたい」
と誰かがツイートした。これは60年代安保の強行採決のとき、岸首相が連日のデモの「声ある声」に対して、プロ野球に興じ、銀ブラを楽しむ男女の「声なき声」に耳を傾けたい、と言ったのを髣髴させる。
 55年前は、プラカードを持ったデモ隊が国会正門を破って議事堂前に乱入、血を流した。
 今度は、人びとのプラカードが大量にコピーされ、委員会室に溢れた。民衆は、映像によって“国会乱入”を果たしたと言えなくもない。

 (6)メディアとしてのNHKは何をしたか。
 大量のツイートを流すことで、見せかけの民主主義を装いながら、自説を絶対に述べない政治部記者が、「なぜ国会の議論がかみ合わなかったのか」という問いに答えた。
 答その一、「自衛隊の機密に関わることなので、具体的に語ることはできなかったから」
 答その二、「憲法との整合性というそもそも論が出て、個別具体的な部分に議論が進まなかったから」
 結局何も答えていない。
 記者が自信を持って語ったのは、「60日ルール」【注】だけだった。
 NHKは、視聴者参加型ニュースを演出しながら、「もはや何をしても無駄」という政治的アパシーを撒き散らした。これは、「声なき声」につけこんだ「不作為の作為」に他ならない。

 【注】参院で60日たって採決されない場合、衆院の3分の2以上の賛成で再可決し成立できる。

□神保太郎「メディア批評第93回」(「世界」2015年8月号)の「(1)“愚者の砦”と化したNHK」
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【詩歌】財部鳥子「西湖風景 --白娘子に」

2015年08月21日 | 詩歌
 うつしみは苦を忘るべし
 ここはもう人が水に還るところ
 それなら地獄だろうか いえ いえ

 ここの人の心は水と区切りがなく
 あまく霧たち
 やわらかに日に幾度もながれだす
 だからあなたは飽きもせず
 わたしたちの恋の話をしているのだろうか
 山水の絵を模した景色は夏の霧のあいだから
 人魚のようにかがやき
 湖は龍船を浮かべて
 人を苦しい記憶から連れ去ろうとするけれど
 さらに声になる
 うつしみは苦を忘るべし

 ほの白く明るい空に真向かい華やいでいる水の
 水に浸かされているわたしたちなのに
 不安の砂を積まなければ洪水が起きるとは
 だからあなたは濡れた項をのばし
 恋の終りの話をしているのだろうか
 やわらかなあなたの舌を感じると
 私も水棲の生きものだったことを思い出す
 蛇の姿にも戻らずに生き延びてきた
 あなたはそのことを言う そのことを恨む
 くどいほどそのことを言う
 湖水の面の化粧にたぶらかされ
 水に委せた心を引き裂かれ洪水が起こり
 ついに苦しみと恋をしたこと
 洪水がくりかえしくりかえし起きて恋をしたこと

 うつしみは苦を忘るべし
 ここでは絡み合った蛇の腕をといて
 白堤の柳条の緑の水に沿って
 この世をすりぬけることができる? かも
 傷ひとつない湖にいく筋かのひびを入れて
 金木犀の香りの風が人々の心を酔わせているうちに
 あなたもわたしも龍船の上から消え失せ
 あとはたとえようもなく水の
 世界になる
 *白娘子は「白蛇伝」の主人公

□財部鳥子「西湖風景 --白娘子に」(『中庭幻灯片』、思潮社、1992)
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 【参考】
【詩歌】財部鳥子「龍 --杭州で」
【詩歌】財部鳥子「凍りついて」
【詩歌】財部鳥子「いつも見る死 --避難民として死んだ小さい妹に」

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【片山善博】違憲と不信で立ち枯れ ~安保法案~

2015年08月20日 | ●片山善博
 (1)安倍政権は、安保法制を強引に成立させようとしている。衆議院では、特別委員会と本会議のいずれも与党だけで強行採決した。
 衆議院の審議は100時間を超え、論点も出尽くした、というが、国会の審議は単に時間をかければよいというものではない。しかも、実質的には11本もの法案を強引に一本化しているから、本来の一本当たりに換算するとせいぜい10時間程度に過ぎない。その一つ一つが重大な意味と内容を持っているのに、これでは審議時間がが少なすぎる。
 衆議院での審議は焦点を絞れないまま漂流した感があるし、法案への疑義は深まるばかりだ。
 国民の理解は一向に進んでいない。法案の成立に反対する意見が賛成を大きく上回っている【新聞各紙の世論調査】。むしろ、ここにきて国民の理解がかなり進んできたからこそ、反対する声が強くなったと見るべきか。

 (2)国民の理解が得られない最大の理由は、この法案が憲法違反だからだ。
 国会が制定する法律は、憲法に適合していなければならない。憲法違反の法律は無効だ。
 むろん、憲法には解釈の余地があって、安保法案はその余地の範囲内だから違憲ではない、と政権は強弁する。しかし、この政府見解は、ほんのわずかの例外を除いて、ほとんどの憲法学者から一蹴されている。
 政府が「合憲説」の根拠に持ちだしたのが、いわゆる砂川判決(1959年)だ。ただ、これは米軍の駐留が憲法上容認されるかどうかが争われた事件であって、わが国の集団的自衛権行使とは無縁の判決だ。牽強付会というより、片言隻句を頼りに幼稚なレトリックを弄している。

 (3)しかも、砂川判決そのものの「合憲性」に強い疑いを抱かざるを得ない事情と曰くがある。
 判決を出した田中耕太郎・最高裁判所長官(当時)は、驚くべきことに、判決前から駐日米国大使と面会し、判決に係る情報を提供するなど内通していたのだ【米国政府が公開した在日米国大使館の機密文書】。
 これが事実ならば、この判決は憲法違反だ。「すべて裁判官は、その良心に従ひ独立してその職権を行ひ、この憲法及び法律にのみ拘束される」【憲法76条3項】のだが、報じられた田中長官の言動は、国(この刑事裁判の当事者)ないしその背後の米国から何らかの指示を受けていたことを疑わせるに十分だからだ。

 (4)しかも、さらに、砂川判決では「統治行為論」を持ちだし、日米安全保障条約(米軍が駐留する根拠)のような高度に政治的な問題について司法は判断しない、としたのだ。
 この統治行為論は、最高裁が憲法によって課せられた職務を怠り、その責任を放棄したものだ。
 「最高裁判所は、一切の法律、命令、規則又は処分が憲法に適合するかしないかを決定する権限を有する」【憲法81条】
 ならば、裁判で法律が憲法違反かどうか争われた場合には、最高裁はその憲法適合性について判示しなければならないはずだ(違憲立法審査)。
 ところが、田中長官の最高裁は、砂川判決においてその判示を避け、逃げてしまった。
 本来「一切の法律、命令、規則又は処分」が憲法に適合するかしないかを決定すべきなのに、「一部」については例外的に審査の対象から除外した。いわば、政府や国会のやることに「お目こぼし」の余地を作ってしまったのだ。
 これでは、国家権力に対し憲法が箍(たが)をはめるという立憲主義の原理は、実質的に大きく毀損される。憲法の番人たるべき最高裁が自ら憲法を蔑(ないがし)ろにするようなことがあってはならない。

 (5)もっとも、砂川判決は、単なる最高裁の職務怠慢ないし責任放棄というわけではない。
 そもそも最高裁が憲法適合性に疑問を抱かなければ、単純に合憲だと判示すればよかっただけのことだ。
 それをそうしなくて、統治行為論などという怪しげな理屈を持ちださざるを得なかったのは、とても合憲だと言えないし、さりとて違憲だとも言い辛い政治的事情ないし圧力があったのだろう。
 それを裏打ちするのが、(3)の田中長官の不可解な言動だ。
 統治行為論とは、違憲の疑いが極めて濃厚な事件をカモフラージュするための、苦し紛れの詭弁だ。

 (6)このたびの安保法案について、その合憲性を弁証するには、こんな曰くつきの判決に頼らざるを得なかったこと自体、既にこの法案が憲法に支えられていない事情を物語っている。

 (7)安保法案について、子育て中の女性の関心が高いという。
 特に、自衛隊が海外に展開するようになれば、いずれ徴兵制が敷かれるのではないか、と懸念している。
 これに対して自民党は、徴兵制などあり得ない、と防戦に努めている。
 では、ありえないとする根拠を示せ、と迫られると、「憲法上徴兵制は禁じられているとの解釈が定着している」と応じているが、まったく説得力を持っていない。
 なにしろ、自民党はこれまでの長い間、「集団的自衛権は憲法上行使できない」と言い続けてきた。その解釈は、それこそ定着しているはずだったが、安倍政権はあっさり「集団的自衛権は憲法上認められている」とまるっきり逆の解釈を打ち出した。そんな政党のことだから、今後いつ「徴兵制は憲法上禁止されていない」と言い出すかしれたものではない。
 こう詰め寄られると、もはや自民党に返す言葉はない。
 憲法を踏みにじる者が、都合のいい時だけ憲法を自説の補強材料に持ち出そうとする。その胡散臭さに国民の不信は高まりこそすれ、減じることはない。

 (8)国立競技場建替えをめぐるドタバタ劇も、安倍政権への不信に追い打ちをかけた。
 これまで建築の専門家や多くの国民から、杜撰な計画は見直すべきだ、とさんざん批判されていたのに、政権は「このデザインはオリンピック招致の際の国際公約だから変えられない」と言い張っていた。
 しかし、安部総理が計画を白紙撤回する頃から、デザインは重要なことではない、とするIOC会長の考えが伝えられた。
 国際公約説は、いったい何だったのか。この疑問は、一連の不始末を点検するために設けられる第三者委員会で追求されるべきだが、それとして、このたびの安保法案への不信を抱かせる要素を十二分にもっている。
 政権は、法案が必要なことの根拠に「国際情勢の変化」を持ちだすが、それは国立競技場建替えの国際公約説と同様、国民を騙しているのではないか。
 ここでも、政権は説得力の基盤を失っている。

 (9)衆議院で強行採決された後、安部総理は「国民に丁寧に説明する」と称して、いくつかのテレビ番組に立て続けに出演し、消火活動や戸締まりの譬えを用いて得々と説明していた。
 しかし、何が言いたいのか、よく理解できない話だったし、憲法違反ではないという説得的な説明はゼロだった。
 そもそも法案の内容に無理があるから説明できないのだ、と知るべきだ。

□片山善博(慶應義塾大学教授)「違憲と不信で立ち枯れの安保法案 ~日本を診る第70回~」(「世界」2015年9月号)
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【詩歌】財部鳥子「龍 --杭州で」

2015年08月20日 | 詩歌
 四千年の修練をして、水の上に紅い寺を浮かべている見えない龍は、強い口調でいっている。たましひの話は嫌いだって。
 わたしだって龍の髭を抜くのは嫌だ。

 空の外にも空がある。たましひの外にもたましひがある。
 それなら空はない。たましひはないのだと龍はいう。
 しかし、わたしたちは乾いた笛の音のように龍を宙空に追いやって、あえて雲の上に浮かべておく。
 龍はどんなものなのか。たましひはどんなものなのか。
 今も、終にも、分かろうとせずにいたいのだ。

 白雨はたちまち止んで、みずうみをめぐる山の上の茶店で、わたしたちは喜々として蓮の実をたべた。
 おそろしい来世が必ずある。そのことを龍に言いあてられまいとして、熱い茶をすすり、目をつぶって笑う。

 黄龍洞のなかでは琵琶を弾く女が龍のことばを歌っている。木犀の香りがただようしめった琵琶歌を聞くうちに龍に謀られたのか、水の穴から、ふいに水に浮かびあがるわたしたち。

 空の外にも空がある。たましひの外にもたましひがある。
 水に浮かぶ紅い寺では偽物の龍の髭を展示している。
 やっとの思いでそこへ泳ぎ着く。龍はいない。龍はいる。

□財部鳥子「龍 --杭州で」(『中庭幻灯片』、思潮社、1992)
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 【参考】
【詩歌】財部鳥子「凍りついて」
【詩歌】財部鳥子「いつも見る死 --避難民として死んだ小さい妹に」


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【古賀茂明】【TPP】の漂流と「困った人たち」

2015年08月19日 | 社会
 (1)TPPの7月末の合意が流れ、8月中の合意も難しくなった【注】。
 大統領選が本格化する米国の事情もあって、最終合意ができない可能性まで出てきた。

 (2)TPP合意の遅れで、安倍政権が困っている、という報道がある。
 TPP最終合意への農家の反発が、来夏の参議院選挙に影響を与えないように、早めに合意して時間を空ける作戦に狂いが生じたからだ、というのだが、かなりピント外れな見方だ。
 第一に、マスコミの報道には根本的な誤りがある。なぜなら、現在予想されている合意内容なら、農家から見てほとんどダメージはないからだ。
 1ドル=80円の時(安倍政権誕生前)と比べて、現在は1ドル=120円超の円安だ。つまり、日本に入ってくる輸入品は、ドル建てなら50%の関税を追加したのと同じだ。
 <例:牛肉>関税を現行38.5%から9%程度にするという。しかし、3年前に比べればまだ20%増税したのと同じ状況だ。しかも、関税引き下げには15年もかけるから、ほとんど影響はない。
 <例:豚肉>現状、安い部位の肉の関税482円/kgを10年程度かけて50円引き下げ、高い肉の関税の4.3%を廃止するという。しかし、現在も、業者は高級部位と低級部位を組み合わせて輸入することで482円の高率関税を回避しており、実効的な関税率は4.5%でしかない。為替レートのことも考えれば、こちらも楽勝だ。
 <例:コメ>全銘柄平均は60kg当たり11,943円【農林水産省発表、2015年3月】。一方、3月の米国産米の政府から民間への売渡価格は60kg当たり13,483円と、国産米より高い。TPP合意で主食コメが7万トン程度の輸入枠拡大となっても、国産米価格に与える影響は限られる。
 国産のコメの需要は、
   1996年産米 943万トン
   2013年産米 786万トン
   2015年産米 770万トン
と2割近く減少する見込み。こちらの方がはるかに深刻な問題だが、これはTPPとは無関係な話だ。

 (3)いずれにしても、予想されるTPPの合意内容は農業団体も概ね了解だという。
 では、安倍政権が参院選への影響を恐れる本当の理由は何か。
 7月中の最終合意を前提に、利権狙いのスケジュールが組まれていたからだ。
   7月に最終合意すれば、農業団体が、「日本農業は壊滅だ!」と大騒ぎする。
   ここで生きてくるのが、TPP交渉に入る前に農水省が出したいい加減な数字「TPPによる農業の打撃は3兆円」。
   8月末の2016年度予算要求締め切りに合わせて、3兆円とまではいかないが、少なくとも数千億円の「TPP対策予算」の要求を出す。
   年末の予算編成で農業予算の大盤振る舞いを決定。
   翌年3月までに予算を通す。
   4月からバラマキ開始。
   7月の参院選では、その恩恵を受けた農家の票を集める。
 ・・・・というシナリオだ。
 しかるに、万が一TPPが漂流すれば、農業予算バラマキの大義名分を失う。
 TPP合意先送りで一番困っているのは、実は、農水族議員、農水省、農業団体なのだ。

 【注】「【TPP】漂流する可能性が出てきた ~大筋合意見送り~

□古賀茂明「TPP漂流と「困った人たち」 ~官々愕々第166回~」(「週刊現代」2015年8月29日号)
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 【参考】
【古賀茂明】安保法案の裏で利権拡大 ~原子力ムラ~
【古賀茂明】東芝の粉飾問題 ~「報道の粉飾」~
【古賀茂明】「反安倍」の起爆剤 ~若者たちの「反安倍」運動~
【古賀茂明】維新の党の深謀遠慮 ~風が吹けば橋下市長が儲かる~
【古賀茂明】腐った農政 ~画餅に帰しつつある「日本再興」~
【古賀茂明】読売新聞の大チョンボ ~違法訪問勧誘~
【古賀茂明】「信念」を問われる政治家 ~違憲な安保法制~
【古賀茂明】機能不全の3点セット ~戦争法案を止めるには~
【古賀茂明】維新が復活する日
【古賀茂明】戦争法案審議の傲慢と欺瞞 ~官僚のレトリック~
【古賀茂明】「再エネ」産業が終わる日 ~電源構成の政府案~
【古賀茂明】「増税先送り」「賃金増」のまやかし ~報道をどうチェックするか~
【古賀茂明】週末や平日夜間に開催 ~地方議会の改革~
【古賀茂明】原発再稼働も上からの目線で「粛々と」 ~菅官房長官~
【古賀茂明】テレビコメンテーターの種類 ~テレ朝問題(7)~
【報道】古賀氏ら降板の裏に新事実 ~テレ朝問題(6)~
【古賀茂明】役立たずの「情報監視審査会」 ~国民は知らぬがホトケ~
【報道】ジャーナリズムの役目と現状 ~テレ朝問題(5)~
【古賀茂明】氏を視聴者の7割が支持 ~テレ朝問題(4)~
【古賀茂明】氏、何があったかを全部話す ~テレ朝「報ステ」問題(3)~
【古賀茂明】氏に係る官邸の圧力 ~テレ朝「報道ステーション」(2)~
【古賀茂明】氏に対するバッシング ~テレ朝「報道ステーション」問題~
【古賀茂明】これが「美しい国」なのか ~安倍政権がめざすカジノ大国~
【古賀茂明】原発廃炉と新増設とはセット ~「重要なベースロード電源」論~
【古賀茂明】改革逆行国会 ~安倍政権の官僚優遇~
【古賀茂明】安部総理の「大嘘」の大罪 ~汚染水~
【古賀茂明】「政治とカネ」を監視するシステム ~マイナンバーの使い方~
【古賀茂明】南アとアパルトヘイト ~曽野綾子と産経新聞~
【古賀茂明】報道自粛に抗する声明
【古賀茂明】「戦争実現国会」への動き
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【古賀茂明】自民党が犯した最大の罪 ~自民党若手政治家による自己批判~
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【古賀茂明】再生エネルギー買い取り停止の裏で
【古賀茂明】女性活用に本気でない安部政権
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【古賀茂明】イスラム国との戦争 ~集団的自衛権~
【古賀茂明】「地方創生」は地方衰退への近道 ~虚構のアベノミクス~
【古賀茂明】【原発】原子力ムラの最終兵器
【古賀茂明】【原発】凍らない凍土壁に税金を投入し続けたわけ
【古賀茂明】【原発】勝俣恒久・元東電会長らの起訴 ~検察審査会~
【古賀茂明】安倍政権の武器輸出 ~時代遅れの「正義の味方」~
【古賀茂明】またも折れそうな第三の矢 ~医薬品ネット販売解禁の大嘘~
【古賀茂明】「1年後の夏」に向けた布石 ~集団的自衛権~
【古賀茂明】法人減税で浮き彫りにされる本当の支配者 ~官僚と経団連~
【古賀茂明】都議会「暴言問題」の真実 ~記者クラブによる隠蔽~
古賀茂明】集団的自衛権とワールドカップ
【古賀茂明】野党再編のカギは「戦争」
【古賀茂明】電力会社の歪んだ「競争」 ~税金をもらって商売~
【原発】【古賀茂明】規制委員会人事とメディアの責任
【古賀茂明】医師と官僚の癒着の構造
【古賀茂明】電力会社「値上げ救済」の愚 ~経営難は自業自得~
【古賀茂明】竹富町「教科書問題」の本質 ~原発推進教科書~
【古賀茂明】安部総理の「11本の矢」 ~戦争国家への道~
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【古賀茂明】「武器・原発・外国人」が成長戦略 ~アベノミクスの今~
【古賀茂明】マイナンバーを政治資金の監視に ~渡辺・猪瀬問題~
【古賀茂明】東電を絶対に潰さずに銀行を守る ~新再建計画~
【古賀茂明】「避難計画」なき原発再稼働
【古賀茂明】「建設バブル」の本当の問題 ~公共事業中毒の悪循環経済~  
【古賀茂明】安倍政権の戦争準備 ~恐怖の3点セット~
【原発】【古賀茂明】利権構造が完全復活 ~東日本大震災3年~
【古賀茂明】アベノミクスの限界 ~笑いの止まらない経産省~
【古賀茂明】労働者派遣法改正前にすべきこと
【古賀茂明】時代遅れな、あまりにも時代遅れな ~安部政権のエネルギー戦略~
【古賀茂明】森元首相の二枚舌 ~オリンピックの政治的利用~
【古賀茂明】若者を虜にする「安部の詐術」 ~脱出の道は一つ~

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【詩歌】財部鳥子「凍りついて」

2015年08月19日 | 詩歌
 冬がすべてをのみこんだ
 死者に痛みはないとロシヤの作家はいった
 庭の枯れたブナの木はどんな色をして
 匂わないで乾いたか
 わたしは知らなかった

 霜と北風がかこんでいる
 大過去はストーヴへしずみこむ
 呼びかえす声は
 冬の飾りに凍結しようとしている
 トナカイは姿を消す

 夢のなかで夢は凍りかたまった
 わたしは獣のように爪でひっ掻く
 戸の内側も外側もひっ掻く
 吠えろ吠えろ 戸をこわせ!
 ヒズメの激しい音はなりやまない

 閉ざされている部屋で薪はもえる
 オオカミのないている間に
 たき火は一握の灰になり
 わたしの髪の毛も灰色になり
 たちまち夢に封じこめられてしまう

 スンガリーが動かなくなる
 大地が凍りはじける
 まつ毛はかたまり日は傾いてみえる
 小さな死体が凍る
 恐ろしいマローズの到来だ!

□財部鳥子「凍りついて」(『腐蝕と凍結』、地球社、1968)
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 【参考】
【詩歌】財部鳥子「いつも見る死 --避難民として死んだ小さい妹に」



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【佐藤優】慌てる政府の稚拙な手法には動じない ~翁長雄志~

2015年08月18日 | ●佐藤優
 (1)菅義偉・官房長官は、8月4日、米軍普天間飛行場の名護市辺野古への移設に伴う新基地建設工事を
    1ヶ月間(8月10日から9月9日まで)停止
し、その間、沖縄県と集中的に協議する、と発表した。
 朝日新聞主催のシンポジウム(7月29日、於東京)で、翁長雄志・沖縄県知事が、埋め立て承認取り消しに踏み込むことを示唆した。
 さらに、「AERA」誌で翌30日に収録されたインタビューにおいて、翁長知事が佐藤優・作家に、「埋め立て承認取り消しは。タイミングの問題だけである」と述べた。
 かくして、知事の埋め立て中止がブラフではなく、本気であることが、日本世論に可視化された。
 新基地建設工事の1ヶ月間停止は、慌てた中央政府が、時間稼ぎをしているのだ。
 
 (2)首相官邸に具体的な戦略はない。
 とりあえずは、安倍政権に好意的なマスメディアと、日本に過剰同化した沖縄人を利用して、「このままでは普天間基地が固定化する」というキャンペーンを展開し、沖縄人を分断し、辺野古新基地建設に向けた流れを作ろうとするだろう。
 しかし、こんな稚拙な手法で分断されるほど沖縄人共同体は弱くない。

 (3)外務官僚、防衛官僚は、官僚の頭越しに首相官邸が沖縄県と極秘交渉を行ったことに衝撃を受けている。
 特に防衛官僚が、「このまま辺野古移設に努力しても、梯子を外されるのではないか」という恐れを強く抱いている。
 安倍政権の行動原理はポピュリズムだ。辺野古移設を強行することで、世論調査の支持率が下がり、政権の権力基盤が弱体化する危険がある、ということになれば、辺野古新基地計画を事実上放棄する可能性は十分にある。
 防衛省、外務省の関係者は、自分の身は自分で守るしかない。梯子を外されるのみでなく、「あいつは辺野古で頑張りすぎた。空気が読めない奴だ」と出世コースから外される危険がある。

 (4)懸念されるのは、沖縄県と首相官邸の間に入ってブローカーのような動きをする政治家が、緊急避難を口実に、
   ①普天間の海兵隊の嘉手納基地への統合
   ②下地島への移設
のような変化球を投げてくることだ。
 しかし、(1)の朝日新聞主催のシンポジウムの席で、翁長知事は、①のシナリオも②のそれも明確に否定している。
 いかなる形態であれ、米海兵隊普天間飛行場の県内移設というシナリオはない、ということを首相官邸、外務省、防衛省と東京のマスメディアに認識させることが今後の重要な課題となる。

 (5)仲井間弘多・前沖縄県知事による埋め立て承認について検証した沖縄県の第三者委員会は、承認手続きに「瑕疵が認められる」とする報告書を翁長知事に提出した。
 今回の集中協議が決裂しても、翁長知事は埋め立て承認取り消し、といった次の段階へ進めばよいだけのことだ。
 埋め立て承認取り消しは、沖縄の自己決定権を反映したものだ。
 この自己決定権を翁長知事は、沖縄にもっとも有利になるタイミングで発動することになろう。

□佐藤優「慌てる政府の稚拙な手法には動じない・翁長雄志 ~佐藤優の人間観察 第124回~」(「週刊現代」2015年8月29日号)
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 【参考】
【佐藤優】安倍外交に立ちはだかる壁 ~ロシア~
【佐藤優】正しいのはオバマか、ネタニヤフか ~イランの核問題~
【佐藤優】日中を衝突させたい米国の思惑 ~安倍“暴走”内閣(10)~
【佐藤優】国際法を無視する安倍政権 ~安倍“暴走”内閣(9)~
【佐藤優】日本に安保法制改正をやらせる米国 ~安倍“暴走”内閣(8)~
【佐藤優】民主主義と相性のよくない安倍政権 ~安倍“暴走”内閣(7)~
【佐藤優】官僚の首根っこを押さえる内閣人事局 ~安倍“暴走”内閣(6)~
【佐藤優】円安を喜び、ルーブル安を危惧する日本人の愚劣 ~安倍“暴走”内閣(5)~
【佐藤優】中小企業100万社を潰す竹中平蔵 ~安倍“暴走”内閣(4)~
【佐藤優】自民党を操る米国の策謀 ~安倍“暴走”内閣(3)~
【佐藤優】自民党の全体主義的スローガン ~安倍“暴走”内閣(2)~
【佐藤優】安倍“暴走”内閣で窮地に立つ日本 ~安倍“暴走”内閣(1)~
【佐藤優】ある外務官僚の「嘘」 ~藤崎一郎・元駐米大使~
【佐藤優】自民党の沖縄差別 ~安倍政権の言論弾圧~
【書評】佐藤優『超したたか勉強術』
【佐藤優】脳の記憶容量を大きく変える技術 ~超したたか勉強術(2)~
【佐藤優】表現力と読解力を向上させる技術 ~超したたか勉強術~
【佐藤優】恐ろしい本 ~元少年Aの手記『絶歌』~
【佐藤優】集団的自衛権にオーストラリアが出てくる理由 ~日本経済の軍事化~
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【佐藤優】【沖縄】知事訪米を機に変わった米国の「安保マフィア」
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【佐藤優】日米安保(1) ~安倍首相の米国議会演説~
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【佐藤優】【沖縄】辺野古への新基地建設は絶対に不可能だ
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【佐藤優】「イスラム国」という組織の本質 ~アブバクル・バグダディ~
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【佐藤優】さりげなくテレビに出た「対日工作担当」 ~アナートリー・コーシキン~
【佐藤優】外交オンチの福田元首相 ~中国政府が示した「条件」~
【佐藤優】この機会に「国名表記」を変えるべき理由 ~ギオルギ・マルグベラシビリ~
【佐藤優】安倍政権の孤立主義的外交 ~米国は中東の泥沼へ再び~
【佐藤優】安倍政権の消極的外交 ~プーチンの勝利~
【佐藤優】ロシアはウクライナで「勝った」のか ~セルゲイ・ラブロフ~
【佐藤優】貪欲な資本主義へ抵抗の芽 ~揺らぐ国民国家~
【佐藤優】スコットランド「独立運動」は終わらず
「森訪露」で浮かび上がった路線対立
【佐藤優】イスラエルとパレスチナ、戦いの「発端」 ~サレフ・アル=アールーリ~
【佐藤優】水面下で進むアメリカvs.ドイツの「スパイ戦」
【佐藤優】ロシアの「報復」 ~日本が対象から外された理由~
【佐藤優】ウクライナ政権の「ネオナチ」と「任侠団体」 ~ビタリー・クリチコ~
【佐藤優】東西冷戦を終わらせた現実主義者の死 ~シェワルナゼ~
【佐藤優】日本は「戦争ができる」国になったのか ~閣議決定の限界~
【ウクライナ】内戦に米国の傭兵が関与 ~CIA~
【佐藤優】日本が「軍事貢献」を要求される日 ~イラクの過激派~
【佐藤優】イランがイラク情勢を懸念する理由 ~ハサン・ロウハニ~
【佐藤優】新・帝国時代の到来を端的に示すG7コミュニケ
【佐藤優】集団的自衛権、憲法改正 ~ウクライナから沖縄へ(4)~ 
【佐藤優】スコットランド、ベルギー、沖縄 ~ウクライナから沖縄へ(3)~ 
【佐藤優】遠隔地ナショナリズム ~ウクライナから沖縄へ(2)~
【佐藤優】ユニエイト教会 ~ウクライナから沖縄へ(1)~ 


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【詩歌】財部鳥子「いつも見る死 --避難民として死んだ小さい妹に」

2015年08月18日 | 詩歌
 いもうとは空色の服をきて
 草むらに見え かくれ
 いもうとは顔のような牡丹の花をもって
 あ 橋のしたを落ちていく
 その とおい深い谷川の底で
 わたしは目ざめている
 いもうとを抱きとるために目ざめている
 あおい傷が
 わたしの腕をはしる

 はしる野火にまかれて
 わたしもいもうともそこにいない
 バオミイの林のなかの
 大きな泣き声は わたしではない
 わたしは目ざめて
 気づく
 夢の巨きなおとがいに
 いもうとを捨てたことを
 もう戻れない
 戻れない

 でもはしれ はしれ
 はしるたびに 傷は大きくなりながら
 牡丹の色に裂けて
 わたしは死ぬ いくども死ぬ
 死ぬあとから
 いもうとは 鳥の巣のある草むらにまぎれこんだ
 いもうとは タワン河(ホー)のきいろい水勢に
 のまれてしまった

 そしてわたしは不意に目ざめる
 戻れない 泣き声ののこる夢のあわいで
 わたしは銃声を一発 ききたくない

 *

●中村稔(『財部鳥子詩集』(現代詩文庫、1997)裏表紙のことば

 『中庭幻灯片』に収められた作品はいずれも、措辞は堅固、情感は切実、興趣は芳醇である。だが、財部鳥子の詩人としての出発である絶唱「いつも見る死」から、詩集『西游記』をへて、『中庭幻灯片』まで読みすすむと、読者は『中庭幻灯片』の詩境が、この詩人の激情、慟哭を時間をかけて純化し、沈静化し、結晶させて到達したものであることを知るだろう。同時に、肉親の死を契機とした激情、慟哭が、普遍的な魂の探求にこの詩人を向かわせたことを読者は知るであろう。財部鳥子は魂の狩人である。この詩人は、過去をまさぐり、はじめての異郷で生者と、また死者と対話し、魂を追い求める。その辛い作業から珠玉のような詩編が紡ぎだされるのである。

□財部鳥子「いつも見る死 --避難民として死んだ小さい妹に」(『私が子供だったころ』私家版、1965)
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【TPP】漂流する可能性が出てきた ~大筋合意見送り~

2015年08月17日 | 社会
 (1)「大筋合意の確率は70%」
 という甘利明・TPP担当相の読みは、大甘だった。
 7月末からハワイで開催されていた環太平洋経済連携協定(TPP)の閣僚会合は、合意に至らないまま閉幕した。

 (2)甘利大臣が読み違えた理由は、“伏兵”の存在を軽く見ていたからだ。
 「日米交渉がまとまれば、あとは何とか決められると考えていたのではないか」【菅原淳一・みずほ総合研究所上席主任研究員】
 ところが、会合が始まると、ニュージーランドが日米などに乳製品の輸入拡大を求め、強硬な姿勢を最後まで崩さなかった。
 自動車や自動車部品の交渉では、日米は関税撤廃で合意する方向で進んでいた。しかし、メキシコとカナダが、原産性基準【注1】について、日本が主張する40%台では小さすぎるとして反対し、交渉が難航した、と言われる。
 また、医薬品の新薬承認に必要なデータの保護期間でも折り合いが付かなかった。

 (3)7月末からの閣僚会合で大筋合意が先送りされたことによって、TPPが漂流する可能性が出てきた。
 米国(来年に大統領選挙)の政治日程が厳しくなってきたからだ。
 現時点では、大筋合意が実現するのは、早くても9月、と目される。
 その場合、米国政府がTPPに署名できるのは12月となる。大統領貿易促進権限(TPA)【注2】には「90日ルール」【注3】があるからだ。
 しかし、
   12月にはクリスマス休暇がある。
   2016年2月からは大統領予備選挙が始まる。
 民主党内部ではTPP反対派が多く、予備選が始まると、TPPは蚊帳の外に置かれる可能性が高い。  

 (4)大筋合意に先送りは、日本の政治日程にも影を落とす。
 2016年夏に参議院選挙を控える自民党としては、その前にTPP法案を可決する手はずだった。大筋合意がずれ込めば、参院選でTPPが争点となる可能性がある。
 今年9月の自民党総裁選挙で安倍晋三・首相が再選されるのは確実、と言われる。が、支持率の低下が続けば、参院選前に農業従事者を茂樹するのは得策ではない。
 TPP法案可決を急ごうにも、党内から反撥者が出てくる可能性が高い。
 TPPは、日本でも停滞する可能性があるのだ。

 (5)TPPを輸出拡大や機構改革の起爆剤にしようとしてきた安倍政権にとって、7月に大筋合意できなかった打撃は、ボディブローのように大きく効いてくることになりそうだ。

 【注1】TPP圏内で一定の付加価値比率を累積で満たせば圏内原産と認定される基準。
 【注2】政府が他国と結んだ通商合意について、議会に修正なしで賛否の議決を求めることができる権限。
 【注3】議会に通知してから90日たたないと、政府は署名することができない、というルール。

□大坪稚子「想定外のTPP見送り 日本が読み違えた“伏兵”」(「週刊ダイヤモンド」2015年8月22日号)
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 【参考】
【メディア】とTPPの「壁」を突き崩す調査報道(2)
【メディア】とTPPの「壁」を突き崩す調査報道
【米国】が狙い撃ちする日本の自動車部品メーカー ~カルテル摘発続出~
【TPP】の最大の抵抗勢力 ~米国の議会と社会~
【TPP】というゾンビに食い荒らされる日本
【TPP】というドラキュラの死とTPPのゾンビ化
【食】【TPP】原産地表示の抜け道 ~食のグローバル化~
【食】「多古町旬の味産直センター」の試み ~農業経営の安定化~
【TPP】「限界農業」化の危機 ~農業の持続可能性~
【TPP】持続可能な農業を ~いま必要な政策~
【TPP】自民党の二枚舌、甘利大臣の無知
【TPP】国家主権の放棄 ~国民の知らないところで~
【TPP】条件闘争は不可、途中下車も不可 ~韓米FTA~
【TPP】1%の1%による1%のための協定 ~医療・食の安全~
【TPP】安部首相の二枚舌 ~信じがたい事態~
【TPP】医療制度崩壊を招くTPP参加
【TPP】その先にあるFTAAP ~国家ビジョンの不在~
【TPP】米国製薬会社の要求 ~日本医療制度の営利化~
【TPP】蚕食される医療保険制度 ~審査業務という盲点~
【経済】TPP>米韓FTAの「毒素条項」 ~情報を隠す政府~
【経済】TPPは寿命を縮める ~医療と食の安全~
【経済】中野剛志の、経産省は「経済安全保障省」たるべし ~TPP~
【経済】中野剛志『TPP亡国論』
【震災】原発>TPP亡者たちよ、今の日本に必要なのは放射能対策だ
【経済】TPPをめぐる構図は「輸出産業」対「広い分野の損失」
【経済】TPPで崩壊するのは製造業 ~政府の情報隠蔽~
【経済】中国がTPPに参加しない理由 ~ISD条項~
【社会保障】TPP参加で確実に生じる医療格差
【社会保障】「貧困大国アメリカ」の医療 ~自己破産原因の5割強が医療費~
【経済】TPPとウォール街デモとの関係 ~『貧困大国アメリカ』の著者は語る~
【経済】TPP賛成論vs.反対論 ~恐るべきISD条項~
【経済】米国は一方的に要求 ~TPP/FTA~
【経済】伊東光晴の、日本の選択 ~TPP批判~
【経済】伊東光晴の、TPP参加論批判
【経済】TPPはいまや時代遅れの輸出促進策 ~中国の動き方~
【震災】復興利権を狙う米国
【読書余滴】谷口誠の、米国のTPP戦略 ~その対抗策としての「東アジア共同体」構築~
【読書余滴】野口悠紀雄の、日本経済再生の方向づけ ~外資・外国人労働力・TPP・法人税減税~
【読書余滴】野口悠紀雄の、中国抜きのTPPは輸出産業にも問題 ~「超」整理日記No.541~


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【食】簡単にお酢料理が作れる「簡単酢」は本物のお酢か?

2015年08月16日 | 医療・保健・福祉・介護
 (1)酢は3~5%の酢酸を主成分とする酸性調味料だ。本物の酢は酵母菌や酢酸菌の働きで作られるため、完成までに日数がかかり、それに応じて値段も高くなる。
 そこで、市場では短期間で大量生産ができる
   「米酢」(原材料に醸造アルコールを添加)
   「穀物酢」(米以外の穀類から作られ、醸造アルコールを添加)
が売れ筋だ。

 (2)酢は体によい。それがわかっていても、酢に他の調味料を加えて調味酢を作るのは大変・・・・という人が多い。
 そこで、昨今、「カンタン酢」なるものが登場した。売り文句は、
   「砂糖、食塩などを合わせる必要がないので、これ1本で(中略)いろいろなお酢メニューが作れます」
 「合わせ酢」「マリネ液」など、酢は砂糖や塩などと合わせて調味料として使うことで、料理の幅がグンと広がるのだが、この手間を省いてくれたのがミツカンの「カンタン酢」だ。
 「カンタン酢」をひとふりすれば、マリネもピクルスもコールスローもあっというまにできあがる。
 だが、簡単で便利なものほど添加物の危険が多い。

 (3)「カンタン酢」は、原材料に醸造酢が使用されている。だから「本物の酢」で作られていない、という認識から出発する。
 醸造酢に使われる醸造アルコールは、食用に用いられるエタノールで、原料はサトウキビの搾りかす。これを発酵させて何度も蒸留するため、無味無臭の成分となり、多量摂取は脳の麻痺や中毒性が指摘されている。
 甘酸っぱさの甘さを演出するのは、果糖ぶどう糖液糖、水あめ、砂糖など。
 果糖ぶどう糖液糖は、安いでんぷんから作られる成分だ。酸味料と一緒に摂ると、さわやかな酸味が演出される。今では、清涼飲料を始め、使われていない商品を探し出すのが困難なほど多くの食品(とくに子どもや若者が好むもの)に使用されている。
 この成分は、最初からぶどう糖と果糖に分解されていて、腹部での体脂肪の異常増加、トリグルセリド(肝臓で作られる脂質の一種)の増加につながることが報告されている。飲料、パン、ヨーグルトなどの摂取量の多い若者層の健康被害が報告されている。

 (4)調味料の食品添加物表示は、大きく分けて4つ。
   アミノ酸
   有機酸
   核酸
   無機塩
 カンタン酢に使われている調味料は、アミノ酸だ。2つの商品の表記、
   ①「調味料(アミノ酸)」
   ②「調味料(アミノ酸等)」
の違いは、①はアミノ酸だけを使用、②はアミノ酸と他の調味料(イノシン酸など)を複合使用している。

 (5)アミノ酸でよく使用される
   グルタミン酸ナトリウム
は、グルタミン酸を水酸化ナトリウム(苛性ソーダ)で中和して作られ、うま味があり、塩味を和らげる作用がある。ために、果糖ぶどう糖液糖と同じく多くの食品に添加されている。
 問題はない、とされる一方、焦げたものから発癌物質が生じる。血液・脳関門が未熟な乳幼児の場合、脳細胞を損傷する、などの指摘も依然として根強く残っている。危険性が問題視されている合成添加物だ。

 (6)酢の歴史は古い。400年くらいに中国から伝わり、製造が始まったのは奈良時代。室町時代には、「合わせ酢」が紹介されている。
 「合わせ酢」の知恵は、伝承したいものだ。

□沢木みずぼ(薬食フードライフ研究家)「簡単にお酢料理が作れる「簡単酢」は本物のお酢なのでしょうか?」(「週刊金曜日」2015年8月7日号)
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【社会】大政翼賛社会の不気味さ ~東芝問題と「ゆう活」~

2015年08月15日 | 批評・思想
 (1)東芝が「不適切会計問題」で揺れている【注】。
 予算どおりの利益を上げられない事業部門に経営トップが「工夫しろ」と求め、損失の計上を先送りにしていたことが、7月の第三者委員会の調査報告書で露呈したからだ。

 (2)東芝は、2003年施行の商法改正で認められた「委員会設置会社」にいち早く移行、企業統治(コーポレートガバナンス)の先進企業という評価を得てきた。
 しかし、仕組みは機能しなかった。
 その原因として「上司の意向に逆らえぬ企業風土」を、報告書は指摘する。

 (3)「東芝過労うつ病労災・解雇訴訟」では、原告A(東芝深谷工場で液晶開発にあたっていた女性技術者)は、昨年3月、原告勝訴が確定した(最高裁)。
 厳しいノルマを課せられ、長時間労働、人員削減の中、過労うつ病で休職、労災申請した。
 しかし、2004年、休職期間満了で解雇された。
 チームの増員要求にも、体調不良の訴にも上司は耳を貸さなかった。チーム内では、半年間に2人が自殺した(うち1人は労災認定)。
 上司が体調不良の訴を真摯に受け止めていれば、犠牲者は出なかった、と Aは言う。この事件の背後にも、
   「上の命令に逆らえない企業風土」
がチラつく。

 (4)かかる硬直的な上意下達の労務管理は、7月から国家公務員を対象に始まった「ゆう活」にも見ることができる。
 8時半~9時半の始業を7時半~8時半に繰り上げ、その分早く退庁し、夕方の時間帯を趣味や家族との交流に使う制度だ(「ワーク・ライフ・バランス政策」)。
 施行から1ヶ月。庁内からは「疲れた」との声が相次いでいる。
 国会が大幅延長になり、待機のため早朝出勤を強いられ、深夜まで職場にいなければならない。早朝出勤で、
   保育園へ送るのに苦労する。
   子どもと朝食を摂れなくなった。
 ワーク・ライフ・バランス政策が目指すはずの子育てと仕事の両立とは逆の状況が発生しているのだ。
 7月26日、都内で開催された(国内外で働く)女性の交流会で、安倍首相が、「始業時間が早くなっただけだという批判も聞こえるが、何か始めなければ何も世の中は変わらない」と、「ゆう活」批判に反論。
 自民党の野田聖子・議員が、
   「『ゆう活』に参加できない人たちを知っているか。子育てしている人たちだ」
   「朝早く来なさいということは、子どもはどうするの、ということ」
と切り返し、話題になった。

 (5)いま日本では、労働組合の組織率が18%を割り、意思決定層への監視勢力が機能しなくなった。こうした社会では、
   経営陣の保身のための会計捏造
   働き手を無視した政権の人気取りの「働き方改革」
が横行する。
 事実を究明し、対策を立てるという経営や政治の基本が壊れつつある。

 (6)「対抗勢力がなくなると組織は弱くなる」【御厨貴・政治学者】。これが、今の自民党勢力だ。
 対抗勢力に鍛えられることなく、一線の声を聞く緊張感もなく、「今だけカネだけ自分だけ」に落ち込んでいく。
 そんな「大政翼賛」の不気味を
   「東芝問題」
   「ゆう活」
は浮き彫りにする。  

 【注】「【東芝】「不正会計」の主役は安倍ブレーン ~産業競争力会議の犯罪者~

□竹信三恵子「東芝問題と「ゆう活」が示す大政翼賛社会の不気味 ~経済私考~」(「週刊金曜日」2015年8月7日号)
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【英国】「ゼロ・アワー雇用契約」で鬱病急増 ~失業率減少の影~

2015年08月14日 | 社会
 (1)「ゼロ・アワー雇用契約」は、英国で1990年代の不況時に採用する雇用主が出始め、「柔軟に働ける未来型雇用」と絶賛された。ゼロ・アワー雇用者は、
   2005年 54,000人
   金融危機で急増
   2015年 180万人以上(推定)

 (2)「ゼロ・アワー雇用契約」は、労働者を苦しめている。
 <例>男性(39歳)、妻、子ども2人、ロンドン下町の賃貸住宅に居住。月給1,100英ポンド(約21万円)の職を解雇され、8年目。現在、安売り衣料店で働くが、仕事に出るのは店から出勤要請がきた時だけ。当日の午後3時間だけ入ってくれ、と突然連絡がくることもある。いつでも出勤できるよう自宅で待機している。待機時間に対しては賃金は支給されない。稼働時間分しか支払われない。妻も同様の契約でファスト・フード店で働く。稼働時間の少ない月の家計は苦しい。しかも、契約上、仕事のかけもちは禁じられている。

 (3)(2)の雇用形態が「ゼロ・アワー雇用契約」だ。定収保証のないスタンバイ雇用。「稼働保証はゼロ時間」という雇用契約書の一文からこう呼ばれている。
 雇用主は、国際企業、政府、医療機関、はては王室まで。役員と管理職以外はほとんど全員がゼロ・アワーという企業も少なくない。

 (4)同契約では、働く側は出動要請を断っても解雇されないことだけは保証される。大学生、リタイア組には便利な働き方で、雇用側は人件費を大幅に削減できる。
 だが、安定収入が必要な人には不都合な契約だ。定収入がないため、経済的信用はゼロで、クレジットカードや住宅ローンの申し込みなどは論外だ。
 失業者ではないから、福祉サービスは提供されない。

 (5)英国の失業者減少とゼロ・アワー労働者の増加とはほぼ並行している、と言われる。
 今春まで続いた連立政府は、ゼロ・アワーのマイナス面は認めたが、雇用主の味方をした。野党だった労働党は、総選挙で「当選したらゼロ・アワー契約を廃止する」とし、労働者や労働組合から厚い支持を集めた。しかし、結果は与党・保守党の圧勝だった。労働党議員も労組も、一部にゼロ・アワー雇用契約者を抱えていたのだ。
 この雇用形態は、もはや簡単には廃止できないほど社会に浸透している。
 希望のないゼロ・アワー生活からは、鬱病患者が急増中だ。
 保守党政権は、最低労働時間の導入など改善を約束している。しかし、早期実現は難しそうだ。

□冨久岡ナヲ(ロンドン在住ジャーナリスト)「失業率減少の影に英国の労働者の悲哀あり 「ゼロ・アワー雇用契約」という不安定な労働形態で鬱病急増」(「週刊金曜日」2015年7月31日号)
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【T・S・エリオット】荒地 ~5 雷神の言葉~

2015年08月14日 | 詩歌
 汗ばむ顔を赤く照らす松明(たいまつ)
 霜夜の静けさ
 岩地の苦悩
 その後あの叫び声あの泣き声
 牢獄、宮殿、反響
 遠くの山を越え春の雷の
 生きていた者は誰も死んでしまった
 生きていた我々は今は死にそうだ
 ここしばらく我慢して待つのだ
 ここは岩ばかりで水がない
 岩があって水がないあの砂路
 路は山の中をくねってのぼる
 水があれば、休んで飲むのだ
 岩の中では休むことも考えることも出来ない
 汗は乾く足は砂の中に
 岩の間に水さえあれば
 腐蝕した歯をもつ死の山の口では水が吐けない
 ここでは立つことも、ころがることも
 また坐ることも出来ないのだ
 山の静けさすらないのだ
 雨を降らさない不毛な雷が鳴るだけだ
 ただ赤い無愛想な顔が
 割れた泥壁の家の中から突き出て
 せせら笑い啀(いが)むのだ
     水があり
     岩がなかったとしても
     岩も水もあったなら
     また水も
     泉も
     岩間に水溜まりでもあったなら。
     蝉の声でもなく
     枯草の鳴る音でもなく
     水の音だけでもあったなら
     ポトッポトッポトポトポト
     と岩へと飛び散る水の音に
     聞こえる松林の中で鳴く隠者鶫(つぐみ)(*39)の鳴音でも。
     だがやはり少しも水がない。

 君達の傍にもうひとりの人がいつも
 歩いているがそれは誰だ?
 僕が数えると君達と僕だけだ
 あの白い路の先方を見ると
 いつももう一人いるのだ
 鳶色のマントに身をつつみ
 頭巾をかぶって音もなく歩いている
 男か女かわからないが(*40)--
 君達と一緒にいるあの人は誰だ?

 上空に響くあの音は何だ(*41)
 母性の哀悼の泣声
 群がるあの頭巾を被った群衆は
 一体何者だ
 ただ平坦な地平線に囲まれ
 地上の割れめにつまずきながら歩いて行く人々は。
 山の向こうのあの郡は何というところだ。
 つぶれてまた立て直り
 また紫の空に展開するのは
 倒れかかる諸々の塔
 エルサレム、アテネ、アレキサンドリア
 維也納 ロンドン
 空虚な

 或る女は長い黒髪を張りつめて
 それを琴糸にしてささやきの言葉をひいた
 菫色の夕空に赤ん坊みたいな顔の
 蝙蝠が囀り羽ばたきをし
 黒ずむ壁をさかさになって這いさがった。
 数々の塔はさかさに吊られ
 ミサの時間を告げる
 名残りの鐘を鳴らすのだ
 ひからびた貯水池や水のつきた井戸から
 歌う声がきこえてくる

 山の中の、この朽ちた谷間に
 かすかな月明りに
 礼拝堂をめぐるくずれた墓地の上を
 草はひゅうひゅうと鳴っている。
 あれは空(から)の礼拝堂、風の家にすぎない。
 窓がない、入口の戸は動揺する。
 枯れた骨は人には害をしない。
 ただ一羽の雄鶏が棟木(むなぎ)にとまって
 稲光のきらめきに啼くのだ
 コーコーリーコーコーリーコー
 それから、しめっぽい風が俄に吹く
 雨をもってくる

 ガンガ河は底が見え、うなだれていた
 木の葉は遠くヒマラヤ山に黒雲がかかるまで
 雨を待つのだ。
 密林は音もなく蹲ってしゃがんでいた。
 ダー
 ダッター、施せ(*42)。
 だが我々は何を施したのか?
 友よ、心を動揺させる血液を捧げよ
 一瞬の情慾にかられるあの恐ろしい冒険を
 分別ある年齢の人でも慎めぬ情慾を。
 このことによって、このことによってのみ
 我々は実存して来たのだ
 このことは死者略伝の中にも出ていない
 また慈悲深い蜘蛛が巣をかけた(*43)遣芳にも
 また死に絶えた家で痩せこけた弁護士が
 開封する遺言状の中にも出ていないのだ
 ダー
 ダーヤヅワム、相憐め。僕はかつて一度
 室に鍵がかけられるのを聞いたことがあった(*44)
 ただ一度だけ
 我々は皆自分の牢獄で鍵のことを考える
 鍵を考える時には我々は皆牢獄にいることを
 確認するのだ
 日暮れにのみ天使のささやきが
 コーリオレーナスのような没落の
 英雄をしばらくの間甦らせるのだ。
 ダー
 ダーミヤター、己を制せよ
 舟は帆と橈に熟練した人の手には
 調和して愉快に走るのだ
 海が穏やかな時には、人の心も乞われる
 ままに、統御の手に服して鼓動し
 楽しく調子を合したに違いない(*45)。

                     僕は岸に腰かけて
 釣をしていた。あの乾ききった野原に背を向けて
 せめて自分の土地だけでも規律を
 つけてみましょうか
 ロンドン橋は落ちそうそうだ落ちそうだおっこちそうだ。
 それから彼は浄火の中へ身をかくした(*46)
 わたくしはいつ燕のようになれるだろうか(*47)
 --おお燕 つばくらめ
 廃墟の塔にいるアキターニア公だ(*48)
 これ等の断片で僕は自分の廃墟を支えてきた
 そんならあなたのいう通りにいたそう
 ヒーロニモーはまた気が狂った(*49)
 ダッター ダーヤヅワム ダーミヤター
     シャーンティシャーンティシャーンティー(*50)

【原註】
 第五部の前の方で三つの問題を取扱った。エマオへの旅、「危険な礼拝堂」(ウェストン女史の書を参照)への山道及び東ヨーロッパの現今の廃頽。
 (*39) これは Turdus aonalaschkae pallasii というツグミの類でクェベック地方で私はその鳥の鳴声をきいた。英語で Hermit-Thrush という。チャァプマンはその書『西北アメリカの小鳥便覧』の中で「この鳥は人里はなれた森林地や藪の多い僻地に巣をくう。その鳴声は単調で声量もない。しかしその清美な調子や転調は天下一品である」その水の滴るような鳴声は正に褒美すべきものだ。
 (*40) この数行は或る南極探検の記事から暗示されたもの(忘れたが、確かシャクルトンのものだと思う)探検隊が極度に疲労すると、実際の人員数より一人だけ多く居るような妄想を絶えず受けるものだと語られた。
 (*41) ヘルマン・ヘッセの『混乱への一書』--「ヨーロッパの半分は既に混乱状態に向かっている、少なくとも東ヨーロッパの半分はそうである。神聖な妄想にかられ奈落のふちを歩きながらなお且つ歌っている。ドミトリ・カラマーゾフが歌ったように酔って賛美歌を歌っている。この歌を聖者や預言者は涙を流してきく、町人は侮辱を感じ笑っているのだ」
 (*42) 「ダッター ダーヤヅワム ダーミヤター」(施せ、同情せよ、自制せよ)。雷神の真義の寓話は『ウパニシャード』の5ノ1の「ブリハダラニヤカー」の中にある。この翻訳はドイセンの『ウェーダのウパニシャード60篇』頁489にある。
 (*43) ウェブスタの『白い悪魔』5ノ6。「うじ虫が屍衣を喰わないうちに、蜘蛛が碑銘にうすい膜をはらないうちに、彼等はすぐ再婚するだろう」
 (*44) 『神曲』地獄篇、33ノ46。「とざされた恐ろしい塔の開く音が下の方からきこえてきた」
 またエフ・エイチ・ブラッドレイはその『現象と現実』の頁346に言う。「私の外面上の感覚は自分の考えることや感じたことと等しく自分には個人的なものだ。いずれにしても、自分の経験というものは自分自身の圏内に属するのであって外面の世界と直接接している一つの圏内である。そして、圏は皆同等にそれ自身の要素から出来ているのであるけれども、どの圏も、それを囲む他の圏には互いに不透明なものである。・・・・簡言すれば、一個人の霊の中に現れる一つの存在物として見做される全世界というものは個々の人にとってはその人の心に独特のものであり、極めて個人的なものである」
 (*45) ウェストン女史の書『祭祀からロマンスへ』の「漁夫王」の章参照
 (*46) 『神曲』煉獄篇、26ノ148
 「『さて私は、私を階段の頂まで導いて下さった善に誓って祈るのだが、私の苦悩についてやがては考えて下さい』と言って、彼はその時彼を清める火の中へかくれてしまった」
 (*47) 『ヴィーナス前夜祭。』その第二部と第三部にあるフィロメーラの話参照
 (*48) ジェラール・ド・ネルヴァルのソネットの『エル・デスディカードー』
 (*49) キッドの『スペインの悲劇』参照
 (*50) シャーンティ(心の平和あれ)。『ウパニシャード』の終りにつく紋きり形の言葉であるが、ここにつけたようにくり返されている。英語でいう「理解を超越する平和」がこの言葉に当たる。

□T・S・エリオット(西脇順三郎・訳)『荒地』(『世界文学全集48 世界近代詩人十人集』所収、新潮社、1963)
□西脇順三郎『T・S・エリオット ~新英米文学評伝叢書~』(研究社、1956)
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 【参考】
【T・S・エリオット】荒地 ~4 水死~
【T・S・エリオット】荒地 ~3 火の説教~
【T・S・エリオット】荒地 ~2 将棋~
【T・S・エリオット】「荒地」 ~1 埋葬~

 *

V. WHAT THE THUNDER SAID

 After the torchlight red on sweaty faces
 After the frosty silence in the gardens
 After the agony in stony places
 The shouting and the crying
 Prison and palace and reverberation
 Of thunder of spring over distant mountains
 He who was living is now dead
 We who were living are now dying
 With a little patience                         330

 Here is no water but only rock
 Rock and no water and the sandy road
 The road winding above among the mountains
 Which are mountains of rock without water
 If there were water we should stop and drink
 Amongst the rock one cannot stop or think
 Sweat is dry and feet are in the sand
 If there were only water amongst the rock
 Dead mountain mouth of carious teeth that cannot spit
 Here one can neither stand nor lie nor sit               340
 There is not even silence in the mountains
 But dry sterile thunder without rain
 There is not even solitude in the mountains
 But red sullen faces sneer and snarl
 From doors of mudcracked houses
                              If there were water
 And no rock
 If there were rock
 And also water
 And water                                350
 A spring
 A pool among the rock
 If there were the sound of water only
 Not the cicada
 And dry grass singing
 But sound of water over a rock
 Where the hermit-thrush sings in the pine trees
 Drip drop drip drop drop drop drop
 But there is no water

 Who is the third who walks always beside you?             360
 When I count, there are only you and I together
 But when I look ahead up the white road
 There is always another one walking beside you
 Gliding wrapt in a brown mantle, hooded
 I do not know whether a man or a woman
 ?But who is that on the other side of you?

 What is that sound high in the air
 Murmur of maternal lamentation
 Who are those hooded hordes swarming
 Over endless plains, stumbling in cracked earth             370
 Ringed by the flat horizon only
 What is the city over the mountains
 Cracks and reforms and bursts in the violet air
 Falling towers
 Jerusalem Athens Alexandria
 Vienna London
 Unreal

 A woman drew her long black hair out tight
 And fiddled whisper music on those strings
 And bats with baby faces in the violet light              380
 Whistled, and beat their wings
 And crawled head downward down a blackened wall
 And upside down in air were towers
 Tolling reminiscent bells, that kept the hours
 And voices singing out of empty cisterns and exhausted wells.

 In this decayed hole among the mountains
 In the faint moonlight, the grass is singing
 Over the tumbled graves, about the chapel
 There is the empty chapel, only the wind's home.
 It has no windows, and the door swings,                 390
 Dry bones can harm no one.
 Only a cock stood on the rooftree
 Co co rico co co rico
 In a flash of lightning. Then a damp gust
 Bringing rain

 Ganga was sunken, and the limp leaves
 Waited for rain, while the black clouds
 Gathered far distant, over Himavant.
 The jungle crouched, humped in silence.
 Then spoke the thunder                         400
 DA
 Datta: what have we given?
 My friend, blood shaking my heart
 The awful daring of a moment's surrender
 Which an age of prudence can never retract
 By this, and this only, we have existed
 Which is not to be found in our obituaries
 Or in memories draped by the beneficent spider
 Or under seals broken by the lean solicitor
 In our empty rooms                           410
 DA
 Dayadhvam: I have heard the key
 Turn in the door once and turn once only
 We think of the key, each in his prison
 Thinking of the key, each confirms a prison
 Only at nightfall, aetherial rumours
 Revive for a moment a broken Coriolanus
 DA
 Damyata: The boat responded
 Gaily, to the hand expert with sail and oar              420
 The sea was calm, your heart would have responded
 Gaily, when invited, beating obedient
 To controlling hands

                    I sat upon the shore
 Fishing, with the arid plain behind me
 Shall I at least set my lands in order?
 London Bridge is falling down falling down falling down
 Poi s'ascose nel foco che gli affina
 Quando fiam ceu chelidon? O swallow swallow
 Le Prince d'Aquitaine a la tour abolie                 430
 These fragments I have shored against my ruins
 Why then Ile fit you. Hieronymo's mad againe.
 Datta. Dayadhvam. Damyata.
               Shantih  shantih  shantih

《NOTES ON "THE WASTE LAND"》
V. WHAT THE THUNDER SAID
 In the first part of Part V three themes are employed:
 the journey to Emmaus, the approach to the Chapel Perilous
 (see Miss Weston's book) and the present decay of eastern Europe.

 357. This is Turdus aonalaschkae pallasii, the hermit-thrush which I have heard in Quebec County. Chapman says (Handbook of Birds of Eastern North America) "it is most at home in secluded woodland and thickety retreats. . . . Its notes are not remarkable for variety or volume, but in purity and sweetness of tone and exquisite modulation they are unequalled." Its "water-dripping song" is justly celebrated.
 360. The following lines were stimulated by the account of one of the Antarctic expeditions (I forget which, but I think one of Shackleton's) : it was related that the party of explorers, at the extremity of their strength, had the constant delusion that there was one more member than could actually be counted.
 367-77. Cf. Hermann Hesse, Blick ins Chaos: "Schon ist halb Europa, schon ist zumindest der halbe Osten Europas auf dem Wege zum Chaos, f臧rt betrunken im heiligem Wahn am Abgrund entlang und singt dazu, singt betrunken und hymnisch wie Dmitri Karamasoff sang. Ueber diese Lieder lacht der B・ger beleidigt, der Heilige
 und Seher ht sie mit Tr舅en."
 402. "Datta, dayadhvam, damyata" (Give, sympathize, control) . The fable of the meaning of the Thunder is found in the Brihadaranyaka-Upanishad, 5, 1. A translation is found in Deussen's Sechzig Upanishads des Veda, p. 489.
 408. Cf. Webster, The White Devil, v. vi:
                           ". . . they'll remarry
   Ere the worm pierce your winding-sheet, ere the spider
   Make a thin curtain for your epitaphs."
 412. Cf. Inferno, xxxiii. 46:
      "ed io sentii chiavar l'uscio di sotto
      all'orribile torre."
 Also F. H. Bradley, Appearance and Reality, p. 346:
 "My external sensations are no less private to myself than are my thoughts or my feelings. In either case my experience falls within my own circle, a circle closed on the outside; and, with all its elements alike, every sphere is opaque to the others which surround it. . . . In brief, regarded as an existence which appears in a soul,
 the whole world for each is peculiar and private to that soul."
 425. V. Weston, From Ritual to Romance; chapter on the Fisher King.
 428. V. Purgatorio, xxvi. 148.
      "'Ara vos prec per aquella valor
       'que vos guida al som de l'escalina,
       'sovegna vos a temps de ma dolor.'
       Poi s'ascose nel foco che gli affina."
 429. V. Pervigilium Veneris. Cf. Philomela in Parts II and III.
 430. V. Gerard de Nerval, Sonnet El Desdichado.
 432. V. Kyd's Spanish Tragedy.
 434. Shantih. Repeated as here, a formal ending to an Upanishad.
 'The Peace which passeth understanding' is a feeble translation
 of the content of this word.

□T.S. Eliot (1888-1965) “The Waste Land” 1922
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 【参考】
【T・S・エリオット】荒地 ~4 水死~
【T・S・エリオット】荒地 ~3 火の説教~
【T・S・エリオット】荒地 ~2 将棋~
【T・S・エリオット】「荒地」 ~1 埋葬~
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【T・S・エリオット】荒地 ~4 水死~

2015年08月13日 | 詩歌
 フェニキア人のフレバス、死んで二週間、
 鴎の鳴き声も、また深海のうねりも
 商売の損得も忘れてしまった。
                         海底の流れは
 ひそひそと死骸をバラバラにした。
 浮き沈みして遂に渦へ巻き込まれるまで
 老いの日若き日のことなど次から次へと
 彼は憶い起した。
        キリスト教徒もユダヤ人でも
 舵をとり風上へ向く者は誰でも
 かつては美男で人なみに背も高かった
 フレバスのことを考えよ。 

□T・S・エリオット(西脇順三郎・訳)『荒地』(『世界文学全集48 世界近代詩人十人集』所収、新潮社、1963)
□西脇順三郎『T・S・エリオット ~新英米文学評伝叢書~』(研究社、1956)
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 【参考】
【T・S・エリオット】荒地 ~3 火の説教~
【T・S・エリオット】荒地 ~2 将棋~
【T・S・エリオット】「荒地」 ~1 埋葬~

 *

IV. DEATH BY WATER
 Phlebas the Phoenician, a fortnight dead,
 Forgot the cry of gulls, and the deep sea swell
 And the profit and loss.
                      A current under sea
 Picked his bones in whispers. As he rose and fell
 He passed the stages of his age and youth
 Entering the whirlpool.
                     Gentile or Jew
 O you who turn the wheel and look to windward,             320
 Consider Phlebas, who was once handsome and tall as you.

□T.S. Eliot (1888-1965) “The Waste Land” 1922
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【T・S・エリオット】荒地 ~3 火の説教~
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【T・S・エリオット】荒地 ~3 火の説教~

2015年08月12日 | 詩歌
 河のテントはこわれた。指のような最後の葉っぱは
 互いにからみあって濡れた土手に
 沈み、風は音もなく鳶色の野原をすぎる。
 あの妖女たちも去ってしまった。
 美しいテムズよ、静かに流れよ
 わが歌の尽くるまで。
 もう河の上には浮いていない(*21)
 あの空瓶(あきびん)もサンドウィッチの紙も
 絹のハンカチもボール箱もシガレットの吸殻も
 また夏の夜をしのぶ他の証拠品も。
 あの乙女たちも去ってしまった。
 またその男の友達の
 商業区の重役の息子達ののらくらものの連中も去ってしまった。
 宛名も置かずに。
 われレーマン湖の水辺に坐り涙を流しぬ・・・・
 美わしのテムズよ、静かに流れよ
 わが歌の尽くるまで
 美わしのテムズよ、静かに流れよ
 われ声高くも長くも語らざれば。
 だが僕のうしろで
 寒い風につれて骸骨がすれ合う音や
 耳から耳へとひろがってくすくす笑う声がする。
 一匹の鼠が植物のしげみ
 の中を通ってぬらぬらお腹をひきずって
 土手の上を静かに這った。
 わしはその時どんよりした運河で釣り
 をしていた。冬の夕方であった。
 ガスタンクのうしろへ廻って釣をしていた。
 わしの難破した兄の王のことやそれ以前に
 失くなった父の王のことを瞑想しながら(*22)。
 裸の死骸が低い沼地の中で白くさらされたり、
 小さい低い乾いた屋根裏に捨てられた
 骨は毎年鼠の足でカラカラ鳴るばかりだ。
 ところが今は僕のうしろの方で時々自動車(*23)や
 角笛の警笛の音がきこえるが(*24)
 これはスウィーニーという俗物を
 泉に沐浴するポータの細君のところへつれ出すのだ。
 おお月がポータの細君とその娘(*25)
 の上に輝いた
 ソーダ水の中で彼等は足を洗った。
 おおそれから円天井の寺院で歌う少年唱歌隊の声だ(*26)
 チョッ チョッ チョッ
 ジャッグ ジャッグ ジャッグ ジャッグ ジャッグ ジャッグ
 酷くも姿をかえられて。  

 テーレウー
 空虚の都市
 冬の正午、鳶色の霧の中で
 スミルナの商人、不精ひげをはやした
 ユーゲニデス氏は、ポケットに一杯
 乾葡萄のロンドン渡し運賃保険料(*27)
 込みの一覧払手形を所持していたが
 俗悪のフランス語を使って
 キアノン街ホテルのランチにそれからつづいて
 週末はメトロポール・ホテルへ僕を誘い出した。

 すみれ色の時刻
 眼も背中も机から離れて上の方を向く、
 人間の発動機は、待っているタクシイの
 ようにゴトゴト動悸をうっている時に
 わしはティーレシアス(*28)といって盲人であるが
 男と女の二つの世界の間に生きて
 いる萎(しなび)れた女の乳房のある老人だ。
 このすみれ色の時刻
 人々が家路を競う時
 水夫が海からもどる時には眼が見えるのだ(*29)。
 お茶時に帰ったタイピストは朝飯を
 かたづける、ストーブに火をつけ
 罐詰の食糧をひろげる。
 窓の外へあやうくひろげた
 コムビネーションのパンツは
 夕陽の最後の光に触れている。
 長椅子(夜は彼女のベッド)の上には
 靴下やスリッパ、ジャケツ、コルセットが
 堆積している。
 萎(しなび)れた乳房の老人ティーレシアスなる
 わしにはそうした情景が見えたのだ、
 それから後(あと)のことも皆予言出来たのだ--。
 あのニキビのある赤ら顔の青年
 の彼氏がやって来るのだ。
 彼は家屋周旋屋の勤人、小柄な奴で無作法に
 人を見つめる癖がある
 ブラッドフォドの戦争成金が被る
 シルクハットのように図々しく見える
 生意気な下等な連中の一人だ。
 食後女はものうく退屈になった。
 女を愛撫に引込もうと努力する。
 いやだと思っても、まだ
 たしなめもしないでいる。
 顔を赤らめ決心して、すぐ襲う
 探る手は如何なる防備にも遭遇せず。
 彼の己惚は何等の呼応を必要とせず
 無関心を恣に悪用するのだ。
 (わし、ティーレシアスはこの長椅子
 或はベッドで行われるすべての事は
 予め許しておいたのだ。
 テーベ市は城壁の下に坐っていたり
 死のどん底を歩いたことがあるわしだ。)
 旦那気取りの別れの接吻を与えて
 手さぐりで帰るのだ、階段には明りがなかった・・・・
 女はふり返って鏡をちょっと見る
 愛人の過去を殆ど気づかないで。
 一つの淡い考えがうっかり女の頭に浮かんだ--
 『やれ、やれ、まあまあこれで済んでよかったわ』
 美しい女が馬鹿なまねに身をおとしてから(*30)
 一人で室の中を歩きまわる場合は
 自動的に手で髪を撫でつけ
 蓄音機にレコードをかけるのだ。

 『この言葉は波にのり我が傍(かたわら)を這い(*31)』
 ストランド街からヴィクトリア女王街
 を上がって漂い去った。
 オー・ロンドンの商業街、下(しも)テムズ街の
 居酒屋のわきで美しい哀れなマンドリンの
 泣く声がきこえる、また昼時(ひるどき)には漁夫の
 たまり場から騒々しい笑声と雑談が
 きこえる。そこではマグヌス・マーター寺(*32)
 の壁が壮麗なイーオニャ式の純白と
 黄金の言い難い美を保存している。

      河は油とタール(*33)
      の汗を流す
      荷舟は変わる潮につれて
      漂う
      ヨットの赤い帆は
      よく開いて
      風下へ向かって重い橋の上で揺れる
      荷舟はアイル・オブ・ドッグズ区を通り
      グリニッジ岬を通って
      漂う丸太を流す
       ウェンヤラホイ
       ウェンヤラホイ
      エリザベス女王とレスター伯(*34)
      波をうつ橈(かい)の音
      艫に御座所があった
      金ぱくの貝形船
      紅に黄金
      泡立つうねりは
      両岸に小波をうちよせた
      西南風は
      鐘の響きを
      下流に運んだ
      あれ白い塔がみえる
       ウェンヤラホイ
       ウェンヤラホイ
      「電車、ほこりの木々。
      ハイブリはあたしを生んだ。
      リッチモンドとキューはあたしを亡した(*35)。
      リッチモンドのほとりであたしは
      細長い丸木舟の床に仰むけに
      なり膝を立ててよこたわった」
      「あたしの足はムアゲートに、
      あたしの心は自分の足でふみにじる。
      事のあと
      彼は泣いて『新しい発足』を約束した。
      あたしは何も言わなかった。
      何も怨みません。」
      「マーゲートの海浜で。
      何が何やら思い出せない。
      汚れた手の裂かれた爪。
      家(うち)の人達は何の望もない賤しい人達。」
       ララ
      それから我れカルタゴに来たれり(*36)

      燃える燃える燃える燃えている(*37)
      おお天主よあなたは私を救い出されます(*38)
      おお天主よあなたは救い出されます

      燃えてる

【原註】
 (*21) スペンサの『結婚歌』
 (*22) シェイクスピアの『テムペスト』1ノ2場
 (*23) マーヴェルの『はにかむ女へ』参照
 (*24) デイの『蜂の会議』「みみかたむけていると、急に角笛を吹き猟りする音がアクテーオンを泉に浴すダイアーナへさそい出し、そこでは皆は裸の女神を見る時分に」
 (*25) これ等の諸行を取って来た俗謡の原本は知らないが、オーストラリアのシドニーから報知を受けたのだ。
 (*26) ヴェルレーヌの『パルシファル』
 (*27) 乾葡萄はロンドンまで運賃と保険なしで相場が附けられていた。それから船荷証券などは一覧払の手形の支払の時に買手に手渡されることになった。
 (*28) ティーレシアスは実は、詩中の登場人物ではなく単に傍観者として出しているのであるが、最も重要な役割をつとめているというのは、他の人物をも結合してもたせているのだ。丁度あの乾葡萄売りの一つ眼の商人がフィニキア人の水夫の中へも解け込んでいるし、またその水夫はナポリの公爵のファーディナンドとも完全に区別が出来なくさせているように、ここに出てくる女は皆一人の女に総合させて考えることも出来、またティーレシアスの中に男女の両性を合致させている。実はティーレシアスの観察することはすべて、この詩全体の主要部分ともなるのだ。オヴィッドからの引用全文は原始文化研究として非常に興味あるものだ。「話によると、或る時、ジョーヴの神は酒に酔って、朗らかな気持になって、つれづれのままに、ジューノーの女神に冗談を云いかけた。『房事に関してはあなた方女の快楽の方が男が感じる快楽よりも大きいと思う』。しかし女神は正反対の意見であった。それでその判断は賢明なティーレシアスにやってもらうことにした。彼は房事については両方の側のことを知っていた。かつて、彼はみどりの森で交合している二匹の大きな蛇を棒でなぐりつけた。そうすると、驚くべきことには、ティーレシアスは男から女になってしまった。その後7年間女として暮らした。8年目に彼はまた同じ蛇を見た時に言った。『お前たちをなぐったことは、なぐった人の性を変えてしまうという魔力を持っているのだから、わしは、もう一度お前をなぐって見よう』と云いながら、蛇をなぐりつけたところが、また生まれた時の性と同じ男にもどった。そこでティーレシアスはその神々の冗談の論争を裁くことを依頼された時はジョーヴの神の方へ味方した。そうすると、女神はことの如何にもかかわらず、意外にも怒って、その裁判者を一生めくらにしてしまった。けれども神がなしたことを他の神がこれを取り消すことができないので、全知全能のジェーヴの神はティーレシアスの失明を気の毒に思って、その代わりに未来を予言する力を与えた。そうした名誉によってその刑罰を軽減したのであった。
 (*29) この行はサップホーの詩として正確に出したのではなく、日暮れに帰る近海漁夫または平底軽舟による漁夫を考えていたのだ。
 (*30) ゴウルドスミスの『ウェイクフィールドの牧師』の中の歌
 (*31) 『テムペスト』以上と同じ
 (*32) 聖マグヌス・マータ寺の内部は自分の考えでは、レンの建造になる寺院の内部で最も美しいものの一つである。『都内19箇所の教会の取り毀しに関する建言書』 (ピー・エス・キング社出版)参照
 (*33) 三人のテムズ河娘の歌はここから始まる。(434頁上段8行)から(434頁下段2行)まで彼等は交代に話す。『神神の薄明』の第三部の「ライン河の娘」参照
 (*34) フルードの『エリザベス』の第1巻4章中にある「スペインのフィリップに寄せたデ・カードラの手紙」参照。「午後私たちは屋形船に乗って水上の競技を見物していた。女王はひとりロバート卿と私自身と一緒に船尾におられた。その時雑談が始まった。ロバ-トは遂に口をすべらせて、私のいるところで、『女王がお召しなら結婚しても差支えない』と言った」
 (*35) 『神曲、煉獄篇』5ノ133
 「ラ・ピーアであるわたしのことを思い出してくれ。シエナはわたしを産み、マレンマは私を殺した」
 (*36) 聖オーガスティンの『信仰告白』の中の「私はそれからカルタゴへ来た、そこで私は耳のところで不浄な色欲の大鍋がやかましく煮え立っていた」
 (*37) 仏陀の『火の説教』(これはキリスト教の山上の訓戒に当たる重大なものである)からこれ等の言葉を取って来た。その完全なテクストは故ヘンリ・クラ-ク・ウォレンの『仏教翻訳』(ハーヴァード東洋叢書)に出ている。ウォレン氏は西洋に於ける仏教研究の偉大な先駆者の一人であった。
 (*38) 聖オーガスティンの『信仰告白』からまた取ったもの。東洋と西洋の禁欲主義の二つの代表的なものを並べてみたのであったが、これはこの詩のこの部分の終極の目的を表現するためにしたことで、決して偶然に並べたのではない。

□T・S・エリオット(西脇順三郎・訳)『荒地』(『世界文学全集48 世界近代詩人十人集』所収、新潮社、1963)
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 【参考】
【T・S・エリオット】荒地 ~2 将棋~
【T・S・エリオット】「荒地」 ~1 埋葬~

 *

III. THE FIRE SERMON
 The river's tent is broken: the last fingers of leaf
 Clutch and sink into the wet bank. The wind
 Crosses the brown land, unheard. The nymphs are departed.
 Sweet Thames, run softly, till I end my song.
 The river bears no empty bottles, sandwich papers,
 Silk handkerchiefs, cardboard boxes, cigarette ends
 Or other testimony of summer nights. The nymphs are departed.
 And their friends, the loitering heirs of city directors;        180
 Departed, have left no addresses.

 Line 161 ALRIGHT. This spelling occurs also in
 the Hogarth Press edition? Editor.

 By the waters of Leman I sat down and wept . . .
 Sweet Thames, run softly till I end my song,
 Sweet Thames, run softly, for I speak not loud or long.
 But at my back in a cold blast I hear
 The rattle of the bones, and chuckle spread from ear to ear.
 A rat crept softly through the vegetation
 Dragging its slimy belly on the bank
 While I was fishing in the dull canal
 On a winter evening round behind the gashouse              190
 Musing upon the king my brother's wreck
 And on the king my father's death before him.
 White bodies naked on the low damp ground
 And bones cast in a little low dry garret,
 Rattled by the rat's foot only, year to year.
 But at my back from time to time I hear
 The sound of horns and motors, which shall bring
 Sweeney to Mrs. Porter in the spring.
 O the moon shone bright on Mrs. Porter
 And on her daughter                           200
 They wash their feet in soda water
 Et O ces voix d'enfants, chantant dans la coupole!

 Twit twit twit
 Jug jug jug jug jug jug
 So rudely forc'd.
 Tereu

 Unreal City
 Under the brown fog of a winter noon
 Mr. Eugenides, the Smyrna merchant
 Unshaven, with a pocket full of currants                210
 C.i.f. London: documents at sight,
 Asked me in demotic French
 To luncheon at the Cannon Street Hotel
 Followed by a weekend at the Metropole.

 At the violet hour, when the eyes and back
 Turn upward from the desk, when the human engine waits
 Like a taxi throbbing waiting,
 I Tiresias, though blind, throbbing between two lives,
 Old man with wrinkled female breasts, can see
 At the violet hour, the evening hour that strives            220
 Homeward, and brings the sailor home from sea,
 The typist home at teatime, clears her breakfast, lights
 Her stove, and lays out food in tins.
 Out of the window perilously spread
 Her drying combinations touched by the sun's last rays,
 On the divan are piled (at night her bed)
 Stockings, slippers, camisoles, and stays.
 I Tiresias, old man with wrinkled dugs
 Perceived the scene, and foretold the rest?
 I too awaited the expected guest.                    230
 He, the young man carbuncular, arrives,
 A small house agent's clerk, with one bold stare,
 One of the low on whom assurance sits
 As a silk hat on a Bradford millionaire.
 The time is now propitious, as he guesses,
 The meal is ended, she is bored and tired,
 Endeavours to engage her in caresses
 Which still are unreproved, if undesired.
 Flushed and decided, he assaults at once;
 Exploring hands encounter no defence;                  240
 His vanity requires no response,
 And makes a welcome of indifference.
 (And I Tiresias have foresuffered all
 Enacted on this same divan or bed;
 I who have sat by Thebes below the wall
 And walked among the lowest of the dead.)
 Bestows one final patronising kiss,
 And gropes his way, finding the stairs unlit . . .

 She turns and looks a moment in the glass,
 Hardly aware of her departed lover;                   250
 Her brain allows one half-formed thought to pass:
 "Well now that's done: and I'm glad it's over."
 When lovely woman stoops to folly and
 Paces about her room again, alone,
 She smoothes her hair with automatic hand,
 And puts a record on the gramophone.

 "This music crept by me upon the waters"
 And along the Strand, up Queen Victoria Street.
 O City city, I can sometimes hear
 Beside a public bar in Lower Thames Street,               260
 The pleasant whining of a mandoline
 And a clatter and a chatter from within
 Where fishmen lounge at noon: where the walls
 Of Magnus Martyr hold
 Inexplicable splendour of Ionian white and gold.

    The river sweats
    Oil and tar
    The barges drift
    With the turning tide
    Red sails                             270
    Wide
    To leeward, swing on the heavy spar.
    The barges wash
    Drifting logs
    Down Greenwich reach
    Past the Isle of Dogs.
      Weialala leia
      Wallala leialala

    Elizabeth and Leicester
    Beating oars                            280
    The stern was formed
    A gilded shell
    Red and gold
    The brisk swell
    Rippled both shores
    Southwest wind
    Carried down stream
    The peal of bells
    White towers
      Weialala leia                         290
      Wallala leialala

 "Trams and dusty trees.
 Highbury bore me. Richmond and Kew
 Undid me. By Richmond I raised my knees
 Supine on the floor of a narrow canoe."

 "My feet are at Moorgate, and my heart
 Under my feet. After the event
 He wept. He promised 'a new start'.
 I made no comment. What should I resent?"
 "On Margate Sands.                           300
 I can connect
 Nothing with nothing.
 The broken fingernails of dirty hands.
 My people humble people who expect
 Nothing."
    la la

 To Carthage then I came

 Burning burning burning burning
 O Lord Thou pluckest me out
 O Lord Thou pluckest                          310

 burning

NOTES ON "THE WASTE LAND"
III. THE FIRE SERMON
 176. V. Spenser, Prothalamion.
 192. Cf. The Tempest, I. ii.
 196. Cf. Marvell, To His Coy Mistress.
 197. Cf. Day, Parliament of Bees:
    "When of the sudden, listening, you shall hear,
    "A noise of horns and hunting, which shall bring
    "Actaeon to Diana in the spring,
    "Where all shall see her naked skin . . ."
 199. I do not know the origin of the ballad from which these lines
 are taken: it was reported to me from Sydney, Australia.
 202. V. Verlaine, Parsifal.
 210. The currants were quoted at a price "carriage and insurance
 free to London"; and the Bill of Lading etc. were to be handed
  to the buyer upon payment of the sight draft.
Notes 196 and 197 were transposed in this and the Hogarth Press edition,
  but have been corrected here.
 210. "Carriage and insurance free"] "cost, insurance and freight"-Editor.
 218. Tiresias, although a mere spectator and not indeed a "character,"is yet the most important personage in the poem, uniting all the rest. Just as the one-eyed merchant, seller of currants, melts into the Phoenician Sailor, and the latter is not wholly distinct from Ferdinand Prince of Naples, so all the women are one woman,
 and the two sexes meet in Tiresias. What Tiresias sees, in fact, is the substance of the poem. The whole passage from Ovid is of great anthropological interest:
    '. . . Cum Iunone iocos et maior vestra profecto est
    Quam, quae contingit maribus,' dixisse, 'voluptas.'
    Illa negat; placuit quae sit sententia docti
    Quaerere Tiresiae: venus huic erat utraque nota.
    Nam duo magnorum viridi coeuntia silva
    Corpora serpentum baculi violaverat ictu
    Deque viro factus, mirabile, femina septem
    Egerat autumnos; octavo rursus eosdem
    Vidit et 'est vestrae si tanta potentia plagae,'
    Dixit 'ut auctoris sortem in contraria mutet,
    Nunc quoque vos feriam!' percussis anguibus isdem
    Forma prior rediit genetivaque venit imago.
    Arbiter hic igitur sumptus de lite iocosa
    Dicta Iovis firmat; gravius Saturnia iusto
    Nec pro materia fertur doluisse suique
    Iudicis aeterna damnavit lumina nocte,
    At pater omnipotens (neque enim licet inrita cuiquam
    Facta dei fecisse deo) pro lumine adempto
    Scire futura dedit poenamque levavit honore.
 221. This may not appear as exact as Sappho's lines, but I had in mind
 the "longshore" or "dory" fisherman, who returns at nightfall.
 253. V. Goldsmith, the song in The Vicar of Wakefield.
 257. V. The Tempest, as above.
 264. The interior of St. Magnus Martyr is to my mind one of the finest among Wren's interiors. See The Proposed Demolition of Nineteen City Churches (P. S. King & Son, Ltd.) .
 266. The Song of the (three) Thames-daughters begins here.
 From line 292 to 306 inclusive they speak in turn.
 V. Gutterdsammerung, III. i: the Rhine-daughters.
 279. V. Froude, Elizabeth, Vol. I, ch. iv, letter of De Quadra
 to Philip of Spain:
 "In the afternoon we were in a barge, watching the games on the river.
  (The queen) was alone with Lord Robert and myself on the poop,
  when they began to talk nonsense, and went so far that Lord Robert
  at last said, as I was on the spot there was no reason why they
  should not be married if the queen pleased."
 293. Cf. Purgatorio, v. 133:
    "Ricorditi di me, che son la Pia;
    Siena mi fe', disfecemi Maremma."
 307. V. St. Augustine's Confessions: "to Carthage then I came,
 where a cauldron of unholy loves sang all about mine ears."
 308. The complete text of the Buddha's Fire Sermon (which corresponds in importance to the Sermon on the Mount) from which these words are taken, will be found translated in the late Henry Clarke Warren's Buddhism
 in Translation (Harvard Oriental Series) . Mr. Warren was one of the great pioneers of Buddhist studies in the Occident.
 309. From St. Augustine's Confessions again. The collocation of these two representatives of eastern and western asceticism, as the culmination of this part of the poem, is not an accident.

□T.S. Eliot (1888-1965) “The Waste Land” 1922
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【T・S・エリオット】荒地 ~2 将棋~
【T・S・エリオット】「荒地」 ~1 埋葬~
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