(1)「ビオレU泡ハンドソープ」(花王)をはじめ、日本の薬用せっけんの多くに使用されている殺菌成分「トリクロサン」が、ヨーロッパで使用禁止となることが決まった。
2015年6月25日にEUの専門機関、欧州化学機関(ECHA)が、人の肌や頭皮の殺菌効果を目的とする衛生用品(せっけんやシャンプーなど)へのトリクロサンの使用を禁止する決定を下したのだ。
(2)薬用石けんの殺菌効果については、疑問が出ていた。「薬用:殺菌・消毒」と表示され、あたかも殺菌成分がないと効果がないように思わせている。
しかし、海外で行われた数百人規模での薬用石けんと普通の石けんを使い続けたグループを比べた4件の調査で、風邪や下痢などの感染症の発症具合を調べた結果、いずれも普通の石けんと差は見られなかった。
普通の石けんでも、流水でよく洗うことで、細菌やウイルスは洗い流されるので、十分効果があるのだ。
効果に差がないだけならまだマシだが、これらの調査では、殺菌成分による細菌の抗生物質耐性を増やす可能性も示されている。
(3)こうした研究を受けて、米国では食品医薬品局(FDA)が石けんに使用されるトリクロサンの見直しに乗り出した。
2013年12月16日には、殺菌作用をうたったハンドソープやボディウォッシュを販売し続ける意向がある企業に対して、普通の石けんよりも感染予防などの効果がある、という証拠の提出を求めた(現在評価継続中)。
(4)石けんに殺菌成分を入れる必要性が疑問視される一方、安全性にも問題が出てきた。
EUの消費者商品に係る科学委員会のリスク評価では、トリクロサンを含む化粧品やパーソナルケア商品をすべて使用した場合の体内への吸収量は、安全摂取量を超える、という結果が出ている。
そのため、EUでは、商品中のトリクロサン上限量を下げる対策がとられてきた。
さらに、トリクロサンには甲状腺をはじめとする内分泌攪乱(環境ホルモン)作用が指摘されている。ちなみに、薬用固形石けん「ミューズ」に使われている「トリクロカルバン」もトリクロサンと構造が類似し、環境ホルモン作用が指摘されている。
ヨーロッパでは、環境ホルモン作用には安全な摂取量は定められないと判断されているため、今回の禁止措置が決定されたものであろう。
(5)海外では、消費者団体や環境団体が使用禁止を求めるキャンペーンも盛んだ。そのため、P&GやJ&Jなどの海外の大手トイレタリー企業や、AVONなど化粧品企業は、いち早くトリクロサンの使用中止を表明している。
(6)日本では、一部の企業間で対応が進められている模様だが、成分変更を発表しないので、全体の把握は困難だ。
脇の下に塗るデオドラントやボディローションなどの化粧品、ボディシャンプーなど、皮膚からの吸収量が高くなる商品におけるトリクロサンの使用はすでに変更されている様子だ。
一部残っているのは、「薬用ビオレU」(花王)などのハンドソープや、「ルシード」(マンダム)など薬用シャンプーに限られるようだ。
トリクロサンの使用の有無は、商品の「配合成分」の表示を見ればわかる。購入前にチェックするとよい。
□植田武智(科学ジャーナリスト)「薬用せっけんの殺菌剤「トリクロサン」 ヨーロッパでは使用禁止に」(「週刊金曜日」2015年8月21日号)
↓クリック、プリーズ。↓