曠野の果てから野犬のように風が走ってくる
と書いて その言葉に好ましくないものを感じた
それがむだな修飾だったからだろう
暁暗の曠野を風ともつかぬ野犬ともつかぬものが走ってくる
これが最初の目撃を言葉にしたものだ
事実は曠野の果てから風のように野犬が走ってきた
数頭の餓えた野犬がかたまりになって走ってきたのだ
風は毛ものの匂いがする
風は得体の知れない毛をなびかせている
風は獰猛にぶつかりあう
風は赤児のまわりに渦巻いて低くうなっている
風はその甘く柔らかいものを浚って走る
まだ夜は明けないから
犬はつむじ風のようにも見えたのだ
片付け切れない難民の死骸がそこに転がっているとしよう
犬より風のほうがいくらか「詩的」だろうか
いくらか自己救済になるのだろうか
結局 赤児は野犬に食われてしまうのである
そういう現実があるとしても
私は風と野犬を区別したくない
どちらも毛をなびかせて走るではないか
□財部鳥子「修辞の犬」(『中庭幻灯片』、思潮社、1992)
↓クリック、プリーズ。↓
【参考】
「【詩歌】財部鳥子「西湖風景 --白娘子に」」
「【詩歌】財部鳥子「龍 --杭州で」」
「【詩歌】財部鳥子「凍りついて」」
「【詩歌】財部鳥子「いつも見る死 --避難民として死んだ小さい妹に」」
と書いて その言葉に好ましくないものを感じた
それがむだな修飾だったからだろう
暁暗の曠野を風ともつかぬ野犬ともつかぬものが走ってくる
これが最初の目撃を言葉にしたものだ
事実は曠野の果てから風のように野犬が走ってきた
数頭の餓えた野犬がかたまりになって走ってきたのだ
風は毛ものの匂いがする
風は得体の知れない毛をなびかせている
風は獰猛にぶつかりあう
風は赤児のまわりに渦巻いて低くうなっている
風はその甘く柔らかいものを浚って走る
まだ夜は明けないから
犬はつむじ風のようにも見えたのだ
片付け切れない難民の死骸がそこに転がっているとしよう
犬より風のほうがいくらか「詩的」だろうか
いくらか自己救済になるのだろうか
結局 赤児は野犬に食われてしまうのである
そういう現実があるとしても
私は風と野犬を区別したくない
どちらも毛をなびかせて走るではないか
□財部鳥子「修辞の犬」(『中庭幻灯片』、思潮社、1992)
↓クリック、プリーズ。↓
【参考】
「【詩歌】財部鳥子「西湖風景 --白娘子に」」
「【詩歌】財部鳥子「龍 --杭州で」」
「【詩歌】財部鳥子「凍りついて」」
「【詩歌】財部鳥子「いつも見る死 --避難民として死んだ小さい妹に」」