語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【詩歌】財部鳥子「凍りついて」

2015年08月19日 | 詩歌
 冬がすべてをのみこんだ
 死者に痛みはないとロシヤの作家はいった
 庭の枯れたブナの木はどんな色をして
 匂わないで乾いたか
 わたしは知らなかった

 霜と北風がかこんでいる
 大過去はストーヴへしずみこむ
 呼びかえす声は
 冬の飾りに凍結しようとしている
 トナカイは姿を消す

 夢のなかで夢は凍りかたまった
 わたしは獣のように爪でひっ掻く
 戸の内側も外側もひっ掻く
 吠えろ吠えろ 戸をこわせ!
 ヒズメの激しい音はなりやまない

 閉ざされている部屋で薪はもえる
 オオカミのないている間に
 たき火は一握の灰になり
 わたしの髪の毛も灰色になり
 たちまち夢に封じこめられてしまう

 スンガリーが動かなくなる
 大地が凍りはじける
 まつ毛はかたまり日は傾いてみえる
 小さな死体が凍る
 恐ろしいマローズの到来だ!

□財部鳥子「凍りついて」(『腐蝕と凍結』、地球社、1968)
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 【参考】
【詩歌】財部鳥子「いつも見る死 --避難民として死んだ小さい妹に」




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