花の四日市スワマエ商店街

表参道スワマエ商店街会長のひとり愚痴

我が愛しの映画館⑥砂の器

2020年10月07日 | レモン色の町

「清張ミステリーと昭和30年代」藤井淑禎著 文春文庫より

殺された三木健一は生前、伊勢神宮参拝の後、帰る予定を変更して東京へ向かっている。昭和30年代当時は遠距離の移動は必ずと言っていいくらい夜行を使うが、三木の足跡をたどる今西刑事も朝、名古屋に着き、近鉄に乗り換えて伊勢に着いたのは10時頃だった。そして旅館の手がすく頃を見はからって三木が泊まった二見旅館を訪れた。その時の様子を聞くためである。

松本清張原作 映画『砂の器』より

今西栄太郎は、主人か、おかみさんが上がってくるのを、煙草を吸いながら待っていた。窓には屋根ばかりが広がっている。その中にひときは大きく見えるのが映画館だった。

何の変哲もない風景だが、それでも、いかにも昭和30年代らしい眺めではないだろうか。やはり、どこかハイカラでバタくさく、ちょっとノッポだったり、ワイドだったりする、あの映画館の建物だったのではないだろうか。何しろ乱暴に言ってしまえば1万人につき1館、つまり人口10万人の町なら10もの映画館があった時代なのだから。

この後、宿の女中さんから宿泊時の三木謙一の様子を聞いて、夕方映画を観に行ったことを聞かされる。

「退屈だから映画でも見てくる。映画館はどこかと聞かれたので、私が教えました。ほら、この窓から見えるでしょう。あの高い建物です」それは、さきほど今西が窓から覗いて、自分も見ている映画館だった。

 


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