新・ほろ酔い気分

酔っているような気分のまま、
愚にもつかない身辺雑記や俳句で遊んでおります。
お目に留めて下されば嬉しいです。

身につまされる話

2008年11月01日 06時52分06秒 | 身辺雑記

 昨日の朝、東京駅でタクシーに乗った。15分程度の道程だった。

 珍しく、ドライバー氏から話しかけてきた。

「これからお勤めですか?」 ドライバー氏は、後ろを振り返りながら、そんなことを訊いてきた。

「いやあ、ちょっと野暮用があってね……」 いきなりの質問に、正直な答えもできない。

「Yさん、元気そうだねェ」 私も儀礼上の言葉を吐いた。ほとんどの場合、私はドライバー氏を苗字で呼ぶことにしている。ダッシュボードの左上に、「乗務員者証」が掲示されていて、苗字はすぐに知ることができる。

「元気は元気なんですけど、まァ歳ですから……」 

「幾つ?」 こうなれば、年齢を聞くことになってしまう。

「73歳のイノシシですよ」 さすがに70歳以上ともなると、干支まで言ってくれる。

「それにしては若く見えるよ。どう見たって60代にしか見えないよ」 私の言葉は、決してお世辞ではない。私よりもずっと若く見えた。

 そんなヤリトリをしている内に、Yさんの身の上話が始まった。

 かいつまんで言えば、次のとおり。

 Yさんはさる大手の出版会社に勤めていたのだが、65歳でそこを辞めたそうだ。

 すぐさま退職金と年金証書を細君に渡した。細君もYさんの労を心からねぎらってくれたそうだ。

 年金は2ヶ月で45万円。細君は自分の年金が、2ヶ月で15万円だそうだ。

「しかし、女なんて分からないもンで、2年も過ぎない内から、喧嘩ばっかりですよ」

 細君にとっては、毎日家にいるYさんが、とても鬱陶しくなったようだ。

 元気なのに、男が家でゴロゴロしているなんてみっともない。兄弟からも色々言われていて、とてもやりきれない。どこか働き口を探したらどうか。

 こんなやりとりの毎日だったので、試験を受けてドライバーになったのだという。年金は全額細君の管理下にあり、ほとんど小遣いはないとのこと。タクシー会社からの給料も、全額細君に渡し、そこから小遣いをもらっている。

 一方の細君は、女性仲間との旅行会や、自分たちの「兄弟会」もやっているとのこと。

「いままで何のために頑張ってきたのか、情けなくってしょうがないですよ!」

 Yさんの言葉には、嘆いているよりも怒っている雰囲気があった。

「離婚すればいいではないですか」 私は刺激的な言葉をぶっつけてみた。

「それも考えましたよ。でも、私の息子も女房の兄弟も、みんな女房の味方なんです。私はやられっぱなしです」 Yさんは、すっかり諦めている様子なのだ。

「弁護士にでも相談したらどうですか?」

「息子は弁護士なんです。その息子があっちに付いているんで、どうにもならないんです。私も悪いところはあったのでしょうが……」 終わりは小さい声。

 目的地に到着するまで、Yさんの愚痴は延々と続いた。

 目的地でタクシー代金を払う私に、
「朝から愚痴ばっかり言って、申し訳ありませんでした。どうもありがとうございました。お忘れ物などございませんように」 と、Yさんは言った。

 最後なって、やっと、タクシー・ドライバーの職業的な言葉となった。

 わざわざ料金を払って、朝から愚痴を聞かせてもらったようなものだ。

 世の中には、色々な人がいる。色々な夫婦がある。Yさんの話のどこまが本当かはしらないが、身につまされる話ではあった。

 聞いた範囲では、Yさんにとても同情できた。、しかし、裏側にどんな真実が隠されているのか、私には見当がつかない。

 若い頃のYさんは、放蕩三昧を繰り返していたのだろうか。

 元気を出して、恒例の外出です。

 ランキングに参加しております。応援のクリックをお願いします。

   ↓  ↓

  にほんブログ村 シニア日記ブログへ                                          


             

             

 

コメント (16)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする