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ジョブ型雇用を想定する民法と現実のメンバーシップ型雇用とのあいだ

2011-12-21 16:21:48 | 読書ノート
濱口桂一郎『日本の雇用と労働法』日経文庫, 日本経済新聞, 2011.

  日本の雇用システムと、対する労働法制の二つについて解説する新書版。必要な情報について、レベルを落とさずに241ページの中にぎっちり詰め込んであるものの、そのせいで難解になっているということはない。むしろ、明快な図式が冒頭に示されているので、労働関連法規や、事件またはそれをめぐる判例の解釈が理解しやすい。

  まず理解すべきなのは、日本で正規雇用されるということがメンバーシップ契約を結ぶことだということである。“ジョブ型”とされる欧米での雇用契約では仕事の範囲が決まっているのに対して、メンバーシップ契約では職場のメンバーとして終身雇用が認められる代わりに、無制限な労働時間や転勤の受け容れ、職場のあらゆる仕事をすることが求められる。日本の雇用は、特定分野のプロフェッショナルとしてのアイデンティティではなく、組織人としてのアイデンティティを涵養するような雇用慣行となっている。一方で正規雇用者と、メンバーシップを持たない非正規雇用労働者との溝は大きい。

  加えて、上の次に重要なことが、日本の民法が念頭においている雇用は欧米式のジョブ型雇用であり、その適用に際しメンバーシップ型が普通である現状とはギャップがあるという指摘である。民法は、決まった仕事に対して労働力を切り売りするのが雇用契約であるというモデルを持っているという。このギャップを埋めるのが判例や行政主導の政策立法であり、本書は特にそうした判例を例示して解雇や労働時間などをめぐる諸問題を整理している。歴史的な観点も加えられており、雇用慣行の成立過程や変化もわかる。

  以上のように、本書は日本で働く人すべてに勧められる内容である。経済学者のように単純化した労働市場観から現実を一刀両断することもなく、法学者のように個々の労働者の権利にこだわって労働市場の大局を見失うこともない、非常にバランスの取れた記述である。こういうスタンスは、管見の限りではこれまでありそうでなかったもので、説得力のあるものだと思える。
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