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緩い人力演奏からシンセ音をバックに歌い上げる路線に転換

2020-09-16 20:57:52 | 音盤ノート
Bebel Gilberto "Agora" Pias, 2020.

  MPB。ブラジルの歌姫、ベベウ・ジルベルトの6年ぶり新作となるが、大きな路線変更のある問題作である。前の二作ではバックバンドがいたが、今作には参加していない。代わりにシンセサイザーが全編で導入されており、しかもそのシンセ音はダンサブルなものではなく、アンビエント~ドリームポップ系の浮遊感のあるゆったりとしたアレンジである。打楽器も入るがスローで弱め。その上をジルベルトがじっくり丁寧に歌唱する。録音メンバーは本人と鍵盤奏者兼プロデューサーのThomas Bartlettだけ。ただし収録曲の半分に人力で打楽器奏者が入る(また、一曲だけゲストボーカルの入る曲がある)。

  昔からの聴き手ならばボサノバやMPB的要素が大きく後退していることに面食らう。ならば、新たに打ち出されたこの浮世離れしたこの音世界に浸れるかだ。しかしながら本作「浮世離れ感」は十分に徹底されていない。浮世離れ感を醸し出すためには、ボーカルの音量を小さめにしてエコーやリバーブをかけて歌うという音響処理がテンプレとなる(そうすると天上から聞こえてくるような感覚をもたらす)。だが、本作ではボーカルはエフェクトなしであり明瞭に聞こえるし、かつ表現力がありすぎる。このため、歌自体は生々しく現実的である。うーん、聴く側の僕にこの音をうまく位置付けるための文脈が欠けているので、勘所がよくわからない。

  というわけで評価に困る作品である。思い起こせば、前作の"Tudo"(Sony, 2014)ものんびりした歌唱の作品だったから、緩い雰囲気という点ではそう変わらないのかもしれない。バックがシンセ音に代わっただけだ、とも言える。でもアコギ音や細かく刻むリズム隊は欲しいというのはある。あと、レーベルがPIASってインディーズに戻ったということ?。
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