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おもしろうてやがて悲しき米国自己啓発本のコンパクトなガイド本

2024-06-11 08:00:00 | 読書ノート
尾崎俊介『アメリカは自己啓発本でできている: ベストセラーからひもとく』平凡社, 2024.

  米国産の自己啓発本の歴史と分類。著者は愛知教育大学所属の米国大衆文学の研究者で、当ブログでは『ホールデンの肖像』を紹介したことがある。学者の世界では「自己啓発本」など完全無視すべきものであり、敢えて取り上げるときは馬鹿にするときだけだ。だが、著者は敢えてそれらを大量に読み込み、大衆の間で支持され続ける理由を探っている。

  最初に挙げられるのがベンジャミン・フランクリンの『自伝』である。あれは「自己啓発本」として米国で読まれたのだという。その後は「引き寄せ系」「ポジティブ系」「お金持ちになる系」「父から息子への手紙系」「日めくり箴言系」「スポーツ+コーチング系」といった分類のもと、代表的な自己啓発本の特徴についてまとめている。各章の最後にあるコラムでは日本における自己啓発本が紹介されている。

  小ネタもなかなか楽しい。スペンサー・ジョンソン『チーズはどこに消えた』がベストセラーになった理由の一つは、米国企業が大量に買って解雇した社員の餞別にしたからだという。そのメッセージとは「この会社にはチーズはもうないのだから、別の環境で探しなさい」というものだ。また、駄目な日本産自己啓発書として江本勝『水は答えを知っている』が紹介されているが、なぜか英訳されて米国でベストセラーになっているという。

  著者は自己啓発書に対して肯定的である。しかし、個人的には本書をかなり楽しめたとはいえ、紹介されている個々のタイトルまで手にして読むところまではいかない。個々のタイトルが持っている語り口を剥いで単純化してしまえば、それらはいつの世にも共通する処世術でありまた幸福論である。読んだ人にアドバンテージをもたらす特別な知識や情報が提供されているわけではない、という点が興味をそそらないのである。
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