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ジャズは悪所と悪人とともに育った、それでも音楽は素晴らしい

2024-05-06 14:24:26 | 読書ノート
二階堂尚『欲望という名の音楽:狂気と騒乱の世紀が生んだジャズ』草思社, 2023.

  ジャズをめぐる歴史エッセイ。興行につきもの(?)となっているドラッグや裏社会と、ジャズとの関係を探っている。初出はArban(https://www.arban-mag.com/)というサイトの連載記事で、著者はフリーライターとのこと。

  全六章構成で、前半の三章は日本におけるジャズ普及の裏面史。1940年代半ばに誕生したビバップ──我々が現在思い浮かべる標準的なジャズであるが、当時は地下音楽だった──が、GHQ占領下で占領軍経由で日本に輸入された。日本におけるその黎明期の録音として、1954年のモカンボ・セッションというのがある。参加者は、秋吉敏子や渡辺貞夫のように真摯なジャズ音楽家となっていたグループと、ハナ肇と植木等のように芸能人化していったグループに分かれた。この大枠のなかで、売春、覚醒剤、ヤクザ(山口組)との付き合いといった話が挟まれる。

  後半の三章は米国ジャズ黎明期を扱っている。クレオールの音楽だったニューオリンズ産ジャズを、黒人の音楽として発展させた都市が、シカゴとカンザス・シティであると著者は記す。というのも禁酒法が敷かれた1920年代、二つの都市はギャング(アル・カポネ)または悪徳政治家(トム・ペンターガスト)に支配されていた。二つの都市では非合法な酒場の営業が続けられ、そこで黒人音楽家らが腕を磨くことができた。20世紀前半は、イタリア系またはユダヤ系といった非WASP白人層もまた差別された。彼らは黒人の奏でる音楽に共鳴した。フランク・シナトラやジョージ・ガーシュウィンがそうだという。

  これらの話のほか、美空ひばりやアントニオ・カルロス・ジョビンといった非ジャズ音楽家、ハリー・トルーマンにジョン・F・ケネディという二人の米国大統領も登場する。

  全体として、ジャズが悪人と悪所に結びついてきたことをまざまざと理解させる内容となっている。けれども糾弾調とはならず、その出自の不遇さを嚙み締めつつも、ジャズが持つ音楽としての魅力に対しては微塵も疑うことはない。個々の音楽家の評価も説得力があると感じた。まあでもジャズファン向けではある。
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