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実現しないからこそ美しい、理想の労働組合像

2021-06-30 13:16:13 | 読書ノート
木下武男『労働組合とは何か』(岩波新書), 岩波書店, 2021.

  労働組合論。歴史編と分析編が交互に来る構成となっている。日本では歴史的に企業別の組合が定着したというのが事実だが、本書は企業横断的な組合を理想として掲げている。横断的な組合を実現することによって労働供給をコントロールできるようになり、労働者の厚生が高まるという。

  率直なところ、説得力を感じなかった。全体として、克服すべき問題が十分指摘されていないきらいがある。労働組合の肯定的な面ばかりを描いており、組合が20世紀後半に支持を失っていった経緯の分析がない。また、グローバル化と資本移動の影響についてもあまり考えられていない。仮に日本国内で労働供給がコントロールできたとしても、個別業界の労働者の待遇の改善だけでなく、マクロ経済にどう影響してくるのかの議論がほしいところだ。海外への資本逃避が起こったり、国内全体の生産性が落ちることが予想されるのだが、「それでもよい」というスタンスなのか否かについて明確にしておくべきだろう。

  なお、評者は所属する大学の労働組合員やっている。日大特有の事情ももちろんあるが、そもそも待遇は悪くないので、組合の組織率は低い。多くの教職員は競争社会の勝者(相対的にみての話)として、労働組合にシニカルな視線を向けている。本書は、こういう「労働貴族」に対してあまり期待しておらず、その外にいる層の連帯に期待を寄せるものだ。僕のような正規雇用者は、理想の労働組合に対する「敵」ということになるんだろうな。
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