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エピソード中心だが異文化摩擦の事例集として面白い

2015-11-18 09:17:32 | 読書ノート
エリン・メイヤー『異文化理解力:相手と自分の真意がわかる ビジネスパーソン必須の教養』田岡恵監修, 樋口武志訳, 英治出版, 2015.

  タイトル通りの書籍であるが、得られる知識はあくまでもビジネススキルを磨くためのもの。外国人との多様な交流の場面が想定されているわけではなく、外国企業との取引や多国籍企業におけるチーム編成などにおける文化摩擦が中心事例である。著者はフランス在住の米国人で、ビジネススクールの教員である。原書はThe culture map : breaking through the invisible boundaries of global business (Public Affairs, 2014.)である。

  文化マップは八つの指標で構成されている。第一に、ハイコンテクストかローコンテクストか。前者は日本、後者はアメリカが代表であるが、これはよく知られている。第二に、ネガティブな評価を率直に伝えるか、それとも表現を柔らかくして伝えるか。前者はオランダが代表で、率直だと思われているアメリカは後者に入るらしい。見過ごされがちな文化的な差異である。このほか、第三に説得方法が原理優先か応用優先か。第四にリーダーが平等主義的か階層主義的か。第五に意思決定が合意志向かトップダウン式か。第六に信頼形成は仕事ベースか関係ベースか。第七に見解の相違が対立的に扱われるか、それとも対立回避を志向するか。第八にスケジュールがガチガチに決まっているかそれとも柔軟な対応が可能となっているか。

  意外な指標もあって新鮮味がある。だが、各国出身者の統計上の平均値を各指標のスケール上に割り振ったという話はあるが、どういう手続きでそれら指標が導出されたのかの説明はない。おそらく著者の経験的なもので、指標が八つになるという裏付けはないのだろう。インタビューを元に因子分析をして六つの指標を取り出してみせたホフステード(参考)より荒っぽいが、アメリカ人らしく役に立てばよいという発想でまとめられているのだと推測する。

  全体的にエピソード中心の記述で、理論的な説明を端折っている点が気になるところだが、そういう点が気になってしまうのは学者の悪い癖なのかもしれない。各エピソードは文化摩擦の実態を伝える興味深い事例であり、読み物としてまず面白い。著者の議論を受け入れて、すぐにビジネスに活かしたいという向きには良い本なのだろう。
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