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日本社会にも学歴による分断線があるという

2018-06-08 09:54:04 | 読書ノート
吉川徹『日本の分断:切り離される非大卒者(レッグス)たち)』光文社, 2018.

  社会学。世代(壮年/若年)・性(男/女)・学歴(大卒/非大卒)を基準に、日本人を8グループに分け、それぞれが就いている職の業種や雇用形態、所得、婚姻状況、社会参加や文化活動などの志向を探っている。データはSSM調査とSSP調査を使っているとのこと。後者のSSP調査は初耳だが、著者が科研費を使って始めた意識調査のようだ。第一回が2015年である。

  さまざまなグラフが出てきて「若年女性グループは、学歴と無関係に生活満足度が高い」「若年大卒男性はイクメン意識が高い」などの事実が示される。しかし、もっとも重要な知見は、大卒/非大卒のところで日本人の分断線があるらしい、ということである。非大卒者の客観的境遇は大卒者のそれと比べて劣っている。特に若年非大卒男性は、厳しい境遇に置かれているにもかかわらず、政策的に無視されやすくなっている。日本政府の教育・社会保障政策は「大卒者優遇」になっている(例えば「給付奨学金」など進学の私的負担の軽減策など)。しかしながら、若年層を比較すると、非大卒者は男女ともに大卒者より多く子どもを産み育てている。日本の将来のために、彼ら軽学歴男性(lightly educated guys略してLEGs)が、大卒者と比べて不公平とならない政策を採るべきだ、と議論が展開してゆく。

  学歴による社会の分断に関する議論としては、パットナムの『われらの子供』を踏襲するものである。しかしこの地点から、社会が投資すべき対象は大卒者ではなく非大卒者である、と議論が展開する点がなかなか斬新だった。非大卒者はそもそも進学を望んでいないというのと、彼らのほうが子どもを作るという二つの理由からである。大学進学を不平等の処方箋としがちな最近の言説のカウンターとして興味深い。ただ、支持者を広げるには彼らの代弁者となる人物が出てくる必要があるのだが。
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