29Lib 分館

図書館・情報学関連の雑記、読書ノート、音楽ノート、日常生活の愚痴など。

告解装置としてのGoogle、庶民の隠し事を握る

2018-06-04 07:22:14 | 読書ノート
セス・スティーヴンズ=ダヴィドウィッツ『誰もが嘘をついている:ビッグデータ分析が暴く人間のヤバい本性』酒井泰介訳, 光文社, 2018.

  いわゆるビッグデータ分析本。Googleに打ち込まれる検索キーワードやFacebookに記入される個人データや記載内容をもとにして、米国における差別の現状や米国人の隠された性的嗜好を明らかにするという書籍である。著者の研究だけでなく、テレビ広告の効果やエリート高校入学の効果などについての他人の研究にも言及があり、あちらこちらに話が飛んでゆく盛りだくさんの内容である。原書はEverybody lies: Big data, new data, and what the internet can tell us about who we really are(Dey Street, 2017.)である。著者は博士号を持つものの大学人ではなく、Googleの元社員で今はライター稼業をやっているとのこと。

  いろいろネタがあるのだが、個人的に衝撃を受けたやつをまず紹介。「人を特定のチームのファンに変えるものは?」と題された節では、フェイスブックを用いて「生涯のいつ頃に好きな球団が形成されるのか」を探っている。ニューヨーク・メッツに対して「いいね」を押しているファンの出生年の分布を調べると、1960年代初めと1970年代後半の二つの山が現れるという。メッツは1969年と1986年にワールド・シリーズで優勝している。他チームのケースも総合すると、8歳前後に身近なチームの優勝があるとその魅力が刷り込まれて生涯のファンになる、と推測されている。心当たりがありすぎる。僕は、あまり熱心ではない中日ドラゴンズファンだが、それでも1982年の優勝は記憶に残っていて、そのとき9歳だった。多くの例外があるので確率の問題ではあるけれども。

  検索のトレンドから効果的なコミュニケーションの方法がわかるというのも面白かった。オバマ大統領が演説しているのと同時間帯の検索キーワードを拾った研究が紹介されている。イスラム教徒によるテロに対して「イスラム教徒への差別は止めましょう」と説くと、「イスラム教徒を殺せ」などの検索が増えたという。お説教は反発を呼ぶのである。しかし、イスラム教徒のスポーツ選手、軍人、警官、医師、教師がアメリカ社会に多く存在することを訴えた演説スタイルを大統領がとると、ヘイト的な検索は減少したという。このほか、米国人の性の悩みや、エリート校進学の影響、ビッグデータを使った消費者の操作、アマゾンのカスタマーレビューを使った本を読了する確率の推定などについての話も興味深い。

  時折「分身分析」なる語が出てくるのだが、いったいどういう統計手法なのだろうか。似たような属性の集団を探してきて、同じ属性を持つ人物の経過・その後を予測するという。これはいわゆる傾向スコアマッチングを使った分析のことなのだろうか(ただし僕もその手法についてよくわかっていない)。こうした分析手法については詳しい記述はなく、一般読者向けに平易にまとめている。
コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« エレクトリック・ギター発展... | トップ | 日本社会にも学歴による分断... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

読書ノート」カテゴリの最新記事