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デジタルアーカイブの現状とその進展を阻む壁

2015-10-23 15:16:23 | 読書ノート
長尾真監修『デジタル時代の知識創造:変容する著作権 / 角川インターネット講座3』KADOKAWA, 2015.

  タイトルにある「知識創造」ではなく「デジタルアーカイブ」についての論集だと考えたほうがよい。元国立国会図書館館長である監修者のほか、著作権関連の論考では中山信弘と名和小太郎、電子書籍および出版関連の論考ではで萩野正昭と歌田明弘と仲俣暁生、デジタルアーカイブ論で岡本真、杉本重雄、社会学的な考察では遠藤薫、吉見俊哉という構成。名前を聞いたことのある人が多くて豪華な執筆陣である。

  一つ一つの論考はそれぞれ面白く、ためになる情報も多い。のだけれども、各論考の間で微妙にトピックが重なっているのが気になるところ。ほとんどの論考の結論も、政府はアーカイブに金を出せ、アーカイブに対しては著作権の適用を緩めよ、というところに落ち着きがちである。執筆者にお題だけだしてあとは自由に書かせたのだろうけれど、編集者側がもうちょい扱うべきトピックを指定したほうが良かったと思う。ちともったいない。

  それでも執筆者らに通底する危機感みたいなものは共有できる。政府の無理解と著作権の壁が、文化財の保存および日本のデジタルアーカイブの歩みを遅らせている。ならば、政府を動かすために誰にどうそのメリットを説明したらよいのだろうか(民間がお金を出してくれるのならばそれでもいいが)。本書にもヒントはなく、僕にもよくわからない。「文化」だとか「ナショナルアイデンティティ」とか言っても、踊ってくれる人はあまり多くないんだよなあ。
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