29Lib 分館

図書館・情報学関連の雑記、読書ノート、音楽ノート、日常生活の愚痴など。

地理的辺境の音と電子音を取り込んだ欧州美の世界

2016-09-05 09:42:38 | 音盤ノート
Tigran Hamasyan, Arve Henriksen, Eivind Aarset, Jan Bang "Atmospheres" ECM, 2016.

  ジャズ。幽玄な室内楽的演奏+少々フリーインプロという内容。ティグラン・ハマシアンのECM録音は二作目(参考)で、他レーベルでの録音(参考:1 / 2)と異なっていて、かなり大人しい。他の三人のメンバーはいずれもノルウェー人で、電子音を使ったアンビエント系のサウンドを得意としている。二枚組。

  収録曲は四人の共作(フリーインプロ)と、Komitasなる19世紀末から20世紀初頭に活動したアルメニア人作曲家の作品である。演奏は侘び寂び的で、耽美な世界である。前景で聴こえるのは、ハマシアンによる隙間多めに奏でられるピアノと、アルヴェ・ヘンリクセンによる尺八のような渋い音のトランペットである。これだけだと音が薄く感じられるだろう。だが、背景をモノトーンで染めつつ微妙に変化を付けるような音を出すアイヴィン・オールセットのギターと、ヤン・バン担当のサンプリングとコンソール操作を用いた背後で鳴り響く持続音とが、全体を重厚なサウンドに仕上げている。クラシックに通ずる欧州美の世界であり、メロディにおいてもその他のハマシアンのリーダー作ほどエキゾチックに感じない。

  以下妄想。これはかなり政治的な音楽であり、音の拡大EUである。異種の音楽を混交させているような感覚はない。ドイツのレーベルが、アルメニア人をリーダーにして、北欧の非主流派ジャズ音楽家と組ませて、アルメニア人の曲を演奏させながら、最終的には音をヨーロッパ色に染め上げるという形態となっている。「アルメニアはヨーロッパですよ」と宣言しているわけだ。最近のECMは、ヨーロッパ周辺の音楽あるいはヨーロッパでも非主流の音楽を採りあげできた(参考)。まあそれが駄目だというわけではないが。なお、出来はとてもよい。聴き手はズブズブにこの美に溺れることができる。
コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 春日部市にある巨大団地・武... | トップ | わざわざ確定申告に行ったに... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

音盤ノート」カテゴリの最新記事