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熱心なファン限定、とある欧州レコードレーベルの録音ルポ

2011-09-14 07:15:27 | 映像ノート
DVD "Sounds & Silence: Travels with Manfred Eicher" directed by Peter Guyer and Norbert Wiedmer, ECM, 2011.

  ドイツのレコードレーベル‘ECM’の録音風景を撮ったドキュメンタリー。数々の名盤を産み出してきたそのレーベルと、創業者でプロデューサーのマンフレッド・アイヒャーの仕事ぶりを知らない、または興味が無いという人にはまったく薦めることはできない内容である。以下は少しでも興味のある人向けに記す。

  内容は、レコーディングでのやりとり、アイヒャーやミュージシャンの独白、コンサート、移動風景、ECM本社などである。登場する音楽家は、Arvo Part, Eleni Karaindrou, Nik Bartsch, Anouar Brahem, Dino Saluzzi, Gianluigi Trovesi, Marilyn Mazurらである。

  非ジャズかつ非米国というコンセプトが前面に出ており、キース・ジャレットのようなレーベル最大の貢献者は大物すぎてアレだとしても、米国人は一切出てこないし、欧州系でも典型的なジャズ音楽家は登場しない(一応ガルバレクも登場するがKaraindrouの曲の演奏という文脈においてである)。かといって非常にヨーロッパ的なのかというとそうでもなく、古楽、またはリトアニアやギリシアのような欧州周縁、あるいはアルゼンチンや中近東における「欧州的なもの」、欧州的解釈のファンクといった、微妙に典型的ヨーロッパから外れた音楽を志向している。これが現在のレーベルの方向なのだろう。

  映像は非常に静かかつ淡々と進む。エキセントリックな人物が登場するわけではないので、展開の上で面白みは少ない。また、テクニカルに変わったことをやっているわけでもないので、特に驚きというものもない。地味で堅実なレコーディングの現場を写しながら、上手く行ったときに見せるプロデューサーや音楽家のささやかな喜びの表情を捉えるだけ。そんなの繰り返しである。そうした平坦ながらも誠実な取り組みから、「滅茶苦茶はまる要素は無いのに何度も聴いてしまう」という最近の諸作品のクオリティを産み出す空気感は伝わってくる気がする。

  一つ残念なのは、英語の字幕がしっかりしていないこと。ドイツ語またはスペイン語、アラビア語、イタリア語といろいろな言語が飛び交う内容なのだが、ごく一部しか翻訳していないようである。登場人物が話していることの半分以上は翻訳されていないという印象で、英語が伝える情報がとても断片的である。
  
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