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朝の読書をめぐって

2008-09-29 16:20:37 | 読書ノート
山崎博敏編著『学力を高める「朝の読書」:一日10分が奇跡を起こす;検証された学習効果』メディアパル, 2008.

「朝の読書」の成果についてのおそらく本邦最初の実証研究であり、歓迎したい。「朝の読書」の意義にケチをつける者は多くなかったとはいえ、これまでその効果を伝える報告事例はエピソードの域を超えるものではなかったからだ。

 全体は7章構成であり、1,2章で調査の意義と方法が示される。「朝の読書」に関連する調査データは、3章でと授業との関係から、4章で学校での人間関係との関係から、5章で家庭との関係から、6章で学力との関係から提示されている。7章の結論では、“朝の読書は、学校での授業や学習、学級の雰囲気や教師と児童生徒との人間関係に影響を与えていることは疑いないといえよう”と述べられている。

 以下疑問点。

①すべてのトピックで重回帰分析をすべきではないか? この研究では、授業の工夫や、学校での人間関係の良好さ、親子関係などについて、学校での「朝の読書」の実施の有無を唯一の独立変数とするモデルで検証している。だが、これらに影響すると予想される変数は多く考えられる。実験環境ではない、つまり被験者は他の影響に対してコントロールされていないのだから、変数はもっと多く採るべきだろう。このデータでは、学校のある地域が隠れた変数となっているのではないかという疑問が残る。

②学力についての重回帰分析で二つの重要な独立変数が抜けている。一つは、「家にある本の数」で、TIMSSでも文部科学省での学力調査でも尋ねられている。『ヤバい経済学』でも問題になった項目である。もう一つは親の学歴、特に母親の学歴で、社会学系の調査ではよく重要な項目として採り上げられている。それぞれ学力または学習意欲と相関があることは知られている。
 6章で与えられている独立変数はとても限られており、学力に影響すると想定される変数を十分含んでいない。したがって、結果は「朝の読書」が有意に学力に影響するものであることを示しているものの、その説明力に疑問を残すものとなっている。

③あと、日本の読書教育特有の問題だが、読書の人格形成への影響力が「先生にとって良い」方向に考えられすぎていて、この研究もその影響を強く感じる。欧米の研究では、読書の効果は識字と読解力だと限定されて把握されている。人格がどうなるかは読むものに依存するだろう。だが、日本では、どんな本でも、読書をすれば道徳やコミュニケーション能力において優れた人間となると考えられているようだ。だがこれは過剰な期待のように思える。このような予断は避けるべきだろう。

 以上。
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