ひろの東本西走!?

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蔵(宮尾登美子)

2009-03-11 23:27:36 | 16:ま行の作家

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蔵(中公文庫) *ブックカバー画像は角川文庫のものです
★★★★☆:90点

「序の舞」を読んだ後、コメント欄で”Love Vegalta”のほっそさんにオススメ頂いた「蔵」。期待に違わぬ素晴らしい作品でした。

*********************** 中公文庫のブックカバー背表紙より ***********************

雪国新潟、旧家にして蔵元の田之内家に娘・烈は生まれた。父意造、母賀穂、叔母佐穂らに見守られ健やかに成長した烈には、失明という過酷な運命が待っていた。烈と家族それぞれの、苦悩と愛憎の軌跡を刻む渾身の長編

「あの蔵を全部、烈に下せ」・・・・打ち続く不幸に酒造りへの意欲も失った父意造に、烈は見えぬ目に必死の願いをこめて訴えた。女ながら蔵元を継いだ烈は、さらに蔵人・涼太への愛をまっしぐらに貫き、喜びの結末を迎える

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幼くして目を患らった烈。
ぼんやりと感じていた光すら消えていき、自分の回りが次第に夜のみとなっていく恐怖。

楽しみにしていた小学校も目のために勉強で遅れをとることは耐えられないと自ら拒否し、内にこもってわがままにもなる烈。しかし、幼い頃から自分の田乃内家での生き方・暮らし方を真剣に考え、しかも、微妙な立場にある叔母の佐穂のことまでもきちんと考える思慮深さに唸った。

老いてからできた最愛の総領息子を不慮の事故で亡くし、失意のどん底に沈む父・意造。そんな父の姿に、目が見えないことをものともせず、次の家長として蔵元になることを宣言して叱咤激励する烈。過酷な運命に悲嘆にくれたこともあったが、それを克服しての強さ、逞しさ!田乃内家やそこで働く者すべてに活気を与える明るさ・エネルギー。蔵人・涼太への熱い想いをストレートに口にする若い輝きも素晴らしい。

終盤、物語が急展開し、ラストは唐突に終わった感も否めない。しかし、作者付記としてのその後の描き方も余韻があって味わい深かった。また、本編ラストで佐穂が意造から分かれ家で一緒に暮らしてくれないかと言われるシーンも実に印象的。

意造が亡き妻・賀穂の後妻に年若い”せき”を選び、その祝言の朝に田乃内家を出ていった佐穂。彼女が唯一自分の意志を見せたシーンが哀切であっただけに、年月がかかったとはいえ、意造への想いが報われた幸せが胸をうつ。

「序の舞」で、主人公・松翠(津也)の母が素晴らしい人物だったのであるが、烈の祖母・むらも素晴らしかった。東大出の息子・意造の嫁として、美しく学もある賀穂をその実家に何度も何度も足を運んで三顧の礼のような形で迎え入れる。しかし、賀穂はむらに請われて田乃内家に入ったものの、子供を次々と流産や死産または夭折で失い、ようやく無事に成長したと思った烈は失明という不運に見舞われる。が、むらはそんな賀穂を責めたりせず、病弱な賀穂に代わって自ら老骨にむち打って烈の目が治る願をかけて越後三十三ケ所詣りに出るが・・・。そしてまた賀穂も三十三ケ所詣りに出て・・・。

烈の生き方・生き様、祖母・むらの生き方、母・賀穂の生き方、父・意造の生き方、叔母・佐穂の生き方、義母・せきの生き方。それぞれの生き方について深く考えさせられた。自分の境遇を不幸だと嘆いて過ごすか、それを素晴らしいものに変えるかは本人の考え方と意志次第であるということなのだろう。
 
46歳で亡くなった烈だが、精一杯力強く生き、涼太への愛を実らせ、輪太郎という素晴らしい息子にも恵まれて、短くも幸せで素晴らしい人生だったのだろうと思う。また、佐穂も控えめな生き方ではあるが、最後には意造と寄り添うようにして烈と輪太郎をしっかりと見守って生き、これまた幸せな人生だったと思う。読後は明るさや爽やかさも感じられて良かった。

宮尾登美子さんが描く人物、特に女性はみんな存在感が素晴らしい。また、感想には書けなかったのであるが、酒づくりの奥深さや難しさ、蔵人たち、田舎の旧家の風習やしきたり、意造もなかなかうち破れなかった古くからの頑迷な考え方などについても実によく描かれていた。とにもかくにも凄い小説でした。


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4 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
☆ほっそさんへ  (ひろ009)
2009-03-15 21:09:46
☆ほっそさんへ 

早速のご紹介ありがとうございます!次はぜひ「きのね」か「天涯の花」を読みたいと思います。宮尾さんは私にとっても大切な作家さんになりそうです。
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再び失礼します。 (ほっそ)
2009-03-14 10:45:00
再び失礼します。
ここで、先生の自伝的作品(「櫂」「春燈」「朱夏」「仁淀川」)にいくか、迷いますけど、ここは歌舞伎役者の世界が舞台の「きのね」いかがでしょう? または四国の徳島や剣山が舞台「天涯の花」はいかがでしょう。
「きのね」は「序の舞」と同様、モデルになる方がいるそうです。「天涯の花」については、「蔵」と同様、作者の創作です。
歴史ものがお好きなら、篤姫のほか、何作かありますよ。また感想を楽しみにしています。
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☆ほっそさんへ (ひろ009)
2009-03-12 22:37:03
☆ほっそさんへ

素晴らしい作品でした。
おすすめ頂いて本当にありがとうございました。

「作者付記」で、かえって読者はその後の烈たちの人生について自分で色んなことを想像したのではないでしょうか。

さて、宮尾作品、次は何が良いでしょうか?
また御指南をよろしくお願い致します。


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こんにちは。このような素晴らしい感想を読ませて... (ほっそ)
2009-03-12 13:02:08
こんにちは。このような素晴らしい感想を読ませていただき、私自身感激しています。先生の作品の魅力を充分、表現されていると思います。
わがままいっぱいに育った烈が、自立していく姿。思い出してもうるうるします。またこの作品では、あとがきといえる「作者付記」も好き。これだけでもう一作、書けそうな内容でした。
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