ひろの東本西走!?

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序の舞(宮尾登美子)

2009-01-27 23:12:04 | 16:ま行の作家

序の舞(朝日文庫)
★★★★☆:85~90

今年最初の読了本は、美人画の画家・上村松園をモデルにした主人公・島村松翠(本名:島村津也)の生きざまと最高峰(日本人女性初の文化勲章受章)に登りつめるまでを描いた伝記小説の力作だった。宮尾登美子の小説を読んだのは「天璋院篤姫」に次いで確か2作目と思うが、素晴らしい!のひとこと。

まだ男尊女卑の気風も根強い明治~大正~昭和という3つの時代を、脇目もふらずひたすら絵を描くことによって駆け抜けた島村松翠(津也)。その人を見事に描ききった力作といえよう。もちろん、日本画やその世界(画壇の閉鎖性、流派の争い、東京画壇vs京都画壇の対抗意識、展覧会?での審査員と入選者の関係etc.)についても丁寧に描写されているが、やはり本質は人を描いた小説といえる。

物語の主人公は津也であるが、母の勢以が素晴らしい。ある意味では津也以上の芯の強さと逞しさを持った女性である。女手ひとつで茶舗「ちきりや」を切り盛りし、娘二人を育てる。そして、津也には世間から何と言われようと好きな絵に専念させ、自分は苦しい家計をやりくりし、彼女をひたすら支えることに徹する。言葉で書くと簡単なようであるが、その覚悟のほどの凄まじさ。三重苦を克服した「奇跡の人」の真の主人公はヘレン・ケラーではなく、奇跡を引き起こした家庭教師のアニー・サリバンなのかもしれない・・・というようなことを思い出させた。勢以の覚悟に応えた津也の生き方もこれまた凄まじい。恩師の松渓や西内太鳳。彼らとの微妙な師弟関係と男女の関係。徳二・桂三との激しくも実らなかった恋。松翠は恋多き女(ひと)というよりも恋深き女・情深き女だったか。その中にあって姉の志満は、いつもぼんやりとしてあまり何もできない人というイメージであったが、島村家の人々とっては、「つうさん、やっぱりえらいなあ。。。」と言うそのほんわかしたムードに心やすらかになったのであろう。また、後に出てくる嫁のます子も素晴らしい人物だった。

津也が2人目の赤ん坊を身ごもり、出産したときの勢以の態度・言葉が素晴らしかった。前途多難としか考えようのない津也と産まれてくる子供。しかし、その不安を押し隠して産むべきと言い切り、女の子であっても男の子であっても津也にはとにかく良いことだけを言おう、話してやろう、産まれてくる子供を心から祝福してやろうとの親心。母(祖母)としては当たり前かもしれないが、島村家を取り巻く厳しい環境を考えると、心ない非難は全て私が受け止めるというその覚悟のほどが見事である。

勢以-津也・志満-孝太郎(津也の息子)という三代の人物を描いているが、三代ものの小説には面白いものや秀作が多いのではないだろうか。三世代の家族を描くにはそれだけの年数の経過を描く必要があり、自然とボリューム感や深みが出る。また、どうしても幾人かの生と死が出てくるため、時の流れや時代の変化を感じると共に寂寥感なども出てくる。従って、どんな人物の場合でも、一大叙事詩といった趣が出るのだろう。例えば、大昔に読んだ船山馨の「石狩平野」。これは女三代記で(案外四代記だった?)細かな内容は全く覚えていないのであるが、凄かった。。。との印象は今も残っている。そうそう、最近も引き合いに出した桜庭一樹の「赤朽葉家の伝説」も女三代記の凄い小説でした。

私はライトな小説よりもどちらかと言えば読み応えのある小説が好きだ。本作のような伝記小説や歴史小説・時代小説などを書く場合、作者は登場人物だけではなく、背景となる歴史や地理、風土や風俗などを丹念に調べなければならず、その入魂の作品には頭が下がる思いである。本作のような小説を読む場合、こちらにも相当の気合いが要求されるが、それだけの価値あり。

◎参考ブログ:

  ほっそさんの”Love Vegalta” に、

    親子3代は物語になるなあベスト3(本) として、

      佐々木譲「警察の血」
      桜庭一樹「赤朽葉家の伝説」
      宮尾登美子「序の舞」

    が挙げられていました。「警察の血」は図書館で予約中ですが、順番が
    回ってくるのはまだずっと先やろなあ。。。


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4 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
はじめまして。すごい充実しているブログですね。... (ほっそ)
2009-02-02 19:44:10
はじめまして。すごい充実しているブログですね。そんなブログに「参考ブログ」って書いていただき、恐縮です。
私は、宮尾先生の作品を20年以上読んでいます。先生の作品はほんとに素晴らしく、読んでいなかったら私の人生、変わっていただろうと、いつも思います。
どの作品も好きですが、私はどちらかというと自伝的な小説より、「一代記」のほうが好きです。「蔵」「きのね」「天涯の花」の三作品が、私の好みです。
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☆ほっそさんへ (ひろ009)
2009-02-03 22:08:30
☆ほっそさんへ

コメント&TBありがとうございます。
長文が多いので一見すると重厚そうに見えるかもしれませんね。でも、充実なんてとんでもないです。
宮尾登美子さんの小説はまだ2作しか読んでいませんが、筆者の姿勢というか情熱というか、凄いものが感じられました。自分の人生に影響を与える作家さんって凄いし、素晴らしいですね。

とりあえず、次は「蔵」をマークしております。
よろしければ時々遊びに来てください。
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再び失礼します。「警官の血」が正しい本のタイト... (ほっそ)
2009-02-10 19:35:33
再び失礼します。「警官の血」が正しい本のタイトルでした。恥ずかしながら、訂正します。ずっと勘違いしていて、最近ドラマ化のあと、ブログを書いてから、気が付き、先ほど訂正しました・・・
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☆ほっそさんへ (ひろ009)
2009-02-11 01:03:13
☆ほっそさんへ

わざわざ訂正頂き、ありがとうございました。
私もタイトルの勘違いはよくやります(汗)。
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