何という小説、何という人物(李歐)!
読んでいる間、ずーっと微熱を感じるような不思議な味わい・雰囲気の小説だった。
ちょっと自分では理解しきれない部分があったり、細かい描写をやや飛ばし気味に読んだ箇所があったりで、採点は85~90点という微妙なものとなりました。”そらさん”、ゴメンm(_ _)m
男性と女性ではこの小説のとらえ方・感じ方がやや異なるかもしれない。特に、李歐と一彰、原口と一彰の関係をどうとらえるかといった点で。ただし、男性だから分かるといったことではないのですが。
しかし・・・、二人の人物の15年にわたる友情というか心のつながりをこんな形で描くとは!こういう描き方があるのか!高村薫恐るべし。この驚きを評価すると90点とすべきかも。
【注意:以下、めちゃ長!&ネタバレあり】
モチーフとしての桜が非常に印象的。守山工場に咲く桜。守山耕三が作業の手を止めて始終眺めていた桜は、毎年、近所の人が花見に集うそれは見事な老木だった。耕三の死後は一彰が同じように眺めて様々なことを考え、感じる。そして、中国の大地に咲く5千本の桜。李歐が想いをこめた桜が一彰を中国へといざなう。
読んでいるときに、ふと”狂気の桜”? いや、違うな・・・などと考えていたが、文中に出てきた”桜の妖気”あるいは”そらさん”が書かれていた”桜の精気”がまさしくピッタリだった。私がこの作品に感じた微熱も、桜の妖気のせいかもしれない。
この本も感想を書くのが非常に難しいので、思いつくままに書かざるを得ない。
守山工場とそこを舞台とする生活描写(技術はあるけれど商売下手な町工場・・・)や人物描写(耕三、娘・咲子、一彰、一彰の母 etc.)は見事のひとこと。従業員や近所の人々とのつながりも丁寧かつリアリティを持って描かれていたと思う。何となく最後はみんな言葉少なくなってしまう花見のシーンが素晴らしい。李歐・耕三・一彰の”最後の晩餐”も妙に明るく、それ故に味わいがあった。これらの描写は一見簡単そうに見えるが、高村薫の観察力・筆力の賜物だろう。
また、一彰の機械や油の匂いに対する親しみ、名人芸の仕事で作られた作品(拳銃もそうなのだが)に対する憧れ・思い。原口と一彰の刑務所時代からの銃を共通項とした不思議な付き合いも面白かった。
さて、李歐なのであるが、小説でもこんな人物に出会ったことがない。
華麗に舞うかと思えば、あっという間に5人を射殺する非常な殺し屋。いい加減で無謀で大雑把なのに、呆れるほど悠々として拳銃大量横取りという大仕事をこなしてしまう剛胆さ。共産ゲリラとして密林に潜みながら、ケインズやサミュエルソン、国際経済や債権先物取引市場などの本を読み、ファイナンシャル・タイムズにも目を通す知識人。一彰に見せる屈託のない笑顔(アイルランド人の司祭に託した写真と言葉が胸をうつ)などなど。
一体全体、どのようにして李歐という人物が形成されたか、作品中にある程度の説明はあるのだが、やっぱり理解できない・・・。しかし、惹かれてしまうんですよね。
かつては李歐を使って(?)人を殺させた笹倉が、自分の手首を切り落とされても李歐の夢の実現のために配下になったのも印象的だった。
一彰はこれからもゆっくりと李歐の話を聞くことができるのだが、読者は李歐その人については依然分からないことだらけ。一彰のことは事細かに書き込まれているだけに対比が鮮やかで、後は読者の想像に委ねられているともいえるのであるが、若干もどかしさがある。
これまで読んだ高村薫の作品では、「マークスの山」「リヴィエラを撃て」は高く評価しますが、「黄金を抱いて翔べ」「レディ・ジョーカー」は気に入りませんでした。いずれも色んな賞を受賞しているのですけれど。
一彰の息子・耕太の姿に「リヴィエラを撃て」のリトル・ジャックのことを思い出しました。
少年よ(青年よ)、大志を抱け!
P.S.一彰が通っていた大学と学部、非常に親近感を覚えました(^_^)
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出版社/著者からの内容紹介
李歐よ君は大陸の覇者になれぼくは君の夢を見るから――
惚れたって言えよ――。美貌の殺し屋は言った。その名は李歐。平凡なアルバイト学生だった吉田一彰は、その日、運命に出会った。ともに22歳。しかし、2人が見た大陸の夢は遠く厳しく、15年の月日が2つの魂をひきさいた。『わが手に拳銃を』を下敷にしてあらたに書き下ろす美しく壮大な青春の物語。
とめどなく広がっていく夢想のどこかに、その夜は壮大な気分と絶望の両方が根を下ろしているのを感じながら、一彰は普段は滅多にしないのに、久々に声に出して李歐の名を呼んでみた。それは、たっぷり震えてかすれ、まるで初めて恋人の名を呼んだみたいだと、自分でも可笑しかった。――本文より
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◎参考ブログ:
そらさんの”日だまりで読書” ※4回に分けて感想を書いておられます。
すかいらいたあさんの”無秩序と混沌の趣味がモロバレ書評集”
さがみの日記さん(?)の”さがみの日記”
ざれこさんの”本を読む女。改訂版”(2008-9-10追加)
高村薫の世界らしくリアリティのある人物たちの織り成すストーリーに酔いしれました。
私はまだ彼女の作品は「黄金を抱いて翔べ」と「レディ・ジョーカー」しか読んでいないので、他の本が楽しみです。
コメント&TBありがとうございました。
そちらのコメントにも書かせて頂いたのですが、高村作品の魅力を簡潔な文章で見事に表現されていると思いました。素晴らしいです。
私の感想なんてダラダラ長いだけですので。
李歐その人は私の理解の範囲を超越していましたが、全編を通じて人物造形とその書き込みが凄いと思いました。
「黄金を抱いて翔べ」と「レディ・ジョーカー」は私にはフィットしませんでしたが、高村薫さんが凄い作家であることは誰もが認めるところですね。
「マークス」「リヴィエラ」は自信を持ってオススメします。
ひろさん、さすが!
ひろさんの感想読んで、『李歐』のこと、そうだ、そうだといろいろ思い出しました(*^_^*)
私、4回も書いていたんだね。
その割には何も書いてなくて、あらま。なのです。
この作品は、どうしても「分からない」部分がついて回るので、(李歐のことも、それから一彰と李歐の関係も、理解の及ばないところにありますよね~)そこがひろさんの減点対象だったんだなぁと、それもひろさんらしい気がします(なんかエラそうだ、私^^)
私はね、男じゃないから、分からなくても当たり前!みたいな開き直りがあったから(いや、男だから分かるってもんじゃないと思うけど^^;)、
こんなのもありなのかな~なんて。
それより、桜の妖気!
桜って、確かに妖しいほどの「気」を感じるけれど、
その「気」が漂う作品でしたよね~♪
桜の季節にまた読み直したいな~なんて、改めて思いました。
ラストシーンが心に残っています。
確かにリトルジャックを思い出すね。
李歐が遙か遠く離れた地で瀕死の重傷を負ったときに、それが一彰の夢に出てきたシーンなど、ちょっと高村薫さんのイメージと違うなあなどと思ったりもしました。
李歐自身、その存在が魅惑的であるので、幻想的なシーンもありかなとは思いますが、私としては高村作品にはリアリティを求めたいもので。
ですが、この作品の不思議なエネルギーには魅了されました。
桜の妖気が凄かったです。
ま、夢って、それ自体不思議なものだし、
一彰の夢の話も、実話として同じような体験をした人の話を結構聞いていたりしたので、私はリアリティーのない話だとは思わなかった…という部分があるんでしょうね。
ま、高村さんがそういう、「ホントかよ」と思うシーンを入れたこと、考えてみれば、ちょっと異色かもしれないね。
ふむふむ。。。と思ったのでしたマル
日本人は桜が好き…ってよく言われるけれど、どうして桜に妖気を感じるんだろうね。
ほかの国の人たちは感じないのかなぁ。
そこも、なんか不思議だなぁと思ったのでした。(いえ、ど~でもいい話♪)
追加コメントありがとうございます。
>一彰の夢の話も・・・ (中略、失礼) ま、高村さんがそういう、「ホントかよ」と思う
>シーンを入れたこと、考えてみれば、ちょっと異色かもしれないね。
そうですね。
リアリティうんぬんは後付けの理由で、私が勝手に持っていた高村薫さんのイメージと違う感じがして異色だなあと思ったのかもしれません。
日本人は桜が好き…、ほんと不思議ですね。
パッと咲いて潔く散る”もののあわれ”的なところが日本人の感性にマッチしているのかな?
”もののあわれ”がそういうことを表しているのかはよく知らないのですが。
高村作品をあまりよく知らなかったので、『李歐』もなんの情報もなく読み始めてびっくりしましたのよ。
李歐……かっこよくて、セリフがいちいち殺し文句で、や、惚れました。今でも桜の季節になると読みたい一冊です。
また『李歐』のもとになった『我が手に拳銃を』という小説の方もおもしろかったです。
再度のお越し、ありがとうございます。
高村作品は数冊読んでいましたが、私も「李歐」は予備知識ゼロで読み始めました。
李歐、いやはやカッコ良かったです。
桜の妖気にクラクラ?
原作とでも言うべき『我が手に拳銃を』、異なった味わいがあるみたいですね。
これもまた読もうっと。