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ひろの東本西走!?

読書、音楽、映画、建築、まち歩き、ランニング、山歩き、サッカー、グルメ? など好きなことがいっぱい!

草笛の音次郎(山本一力)

2005-07-02 10:49:00 | 17:や行の作家
otojirou草笛の音次郎(文芸春秋)
★★★★’:75点

今戸の貸元・恵比寿の芳三郎の名代として、生まれて初めて江戸を離れて旅立つ音次郎。
音次郎の成長物語とも、明るさと軽みのある爽やかな股旅青春ものともいえます。
母およしとの親子の情愛も良し。
また、仁義の切り方や様々なしきたりなど渡世人の世界がわかりやすく描かれていました。

渡世人だけではなく旅で出会う多くの人々が、音次郎の真っ直ぐな人柄、いざというときの勇気、頭の良さ、気っ風の良さに惹かれ心を通わせていく。同宿となった大店の主・鎌倉屋隆之介、佐倉宿の同心・岡野、江戸北町奉行所の与力・寺田たちとの身分・立場・年齢を超えた不思議な心のつながりや同い年である銚子の祥悟郎との友情良し。

道中に音次郎の舎弟となった昌吉と真太郎の年上コンビが傑作で、作品にほどよいユーモア感を与えています。特にとぼけた味のある真太郎には笑わせられます。

芳三郎も気づいていなかった音次郎の良さをしっかりと見抜いていた代貸の源七。
「あれは見かけとは違って、はらがしっかりと据わってやす」
親分にいずれ組を任せると言われた男だけのことはあります。男気もある素晴らしい人物。

他の登場人物もそうですが、どんな世界でも人の上に立ち引っ張っていける人物は立派ということですね。

さてさて全編にさわやかさが溢れているのは好ましいのですが、逆に一度、ラストにほろ苦さの残るような小説も読んでみたいものです。





ルパンの消息(横山秀夫)

2005-06-27 23:10:00 | 17:や行の作家

rupanルパンの消息(カッパノベルス)
★★★★’:75点

サントリーミステリー大賞(1991年)佳作となった横山秀夫の“幻の処女作”。
約15年前の作品を改稿したとのことですが、後年の傑作群と比較すると、やはり全体の深み・味わい・ムードといった点に乏しいでしょうか。人物の描き込みにもそれが当てはまります。
3億円事件も重要なファクターなのですが、ちょっと扱い方が変則的で散漫になったような気も。
但し、これがなかったら薄っぺらな事件(各種設定にもかなり無理あり)とも言えるのですが。

しかし、終盤の謎解きとドンデン返しは見事でした。いったんこれで解決かと思わせておいて・・・。鑑識のヤナさんのひとことで事件が再び動き出す。そしてとっくに時効になった3億円事件にもあっと驚く新展開が・・・。
このあたりはなかなかの追い込みで、さすがは横山秀夫と思わせるものあり。もう少し緊迫感とムードが伴っていたら、より一層盛り上がったと思います。
秋間幸子については、全く考えも予想もせず完敗。お見事。

以下、参考ブログにあげた”ゆきうさぎさん”とは異なった観点で刑事たちを中心に感想を書いてみると、

班長の溝呂木は、「第三の時効」の3人の凄腕班長(朽木、楠見、村瀬)の強烈なキャラクターに比べると全然物足りなかったです。しかし、事件が煮詰まってくると小部屋に一人こもって誰も寄せ付けず誰の意見も聞かず、一人で考えて考えて考え抜くという「六角堂」のエピソードは良かったです。部下のコントロールはさすが。

上野で巣鴨で、重要な2人を見つけた谷川(溝呂木班の末席刑事)と新田(所轄の新米刑事)。「ルパン」「ルパン三世」といったひねりもあっただけに、ここはもうちょっとじっくりと描いてほしかったところ。
大抜擢で鮎美の取り調べをまかされた谷川。それまで二人の被疑者の取り調べ競争にカリカリきていた寺尾。谷川の補佐役に回された寺尾の焦り・やっかみが秀逸でした。「ウタうな!」

事件が(一応)解決した後、同じ溝呂木班の主任刑事でありライバルでもある寺尾と大友の会話も味がありました。
  「寺尾-」「ん?」「何か食いに出るか」
         :
  「大友-」「なんだ?」「病院に行ってみるか」
         :
  「いや、ラーメン屋だ」
このシーンは「第三の時効」の第4話(密室の抜け穴)での東出と石上の会話を思い出させてくれました。東出と石上の方がもっとライバル心むき出しでしたが。

刑事訴訟法225条(その他の理由による時効の停止)は結構有名かもしれませんが、これも「第三の時効」で再び取り上げられています。

傑作と信じてやまない「第三の時効」につながるエピソードが幾つかあったとして、これは高く評価しましょう(^_^)。
また、横山の持ち味である警察内部のドロドロした部分もきちんと描かれていました。

ああ、また長文かつまとまりなし。
感想文ではなく、書評らしい文章を書けるのはいつの日か。。。

参考ブログ:ゆきうさぎさんの♪ウサギ・絵・花・本・ケータイ写真・・・♪
        本の虫さんの”本の虫” (5/10追加)


いっぽん桜(山本一力)

2005-06-19 10:30:00 | 17:や行の作家
ipponzakuraいっぽん桜(新潮社)
★★★★☆:90点

これぞ山本一力ワールド。素晴らしいです。
絶対のオススメ。
なかでも「萩ゆれて」はこれまでに読んだ山本作品の中でも最高・極上の部類。
通勤の電車内で不覚にも涙がこぼれそうになりました。

良いシーンが多すぎると、かえって感想が書きづらいですね。

兵庫とりくが夫婦になる決心をする前後が非常に感動的なのですが、あえて主人公以外を少しだけとり上げると、

   母や親族から祝福されない兄の祝言。
   その席にただ一人列席し、懸命に相手側の客をもてなす妹の
   雪乃。
   そんな雪乃の姿を見て、彼女が一緒に暮らすなら、
   娘(りく)は幸せになれると安堵する両親(玄蔵とおはま)。

   自分が拒んでいる嫁・りくのひたむきな優しさに思わず高枕を
   濡らす志乃。
   「そなたにはつらい思いをさせましたが、詫びを伝えることは
   間にあいました。」

人(家族、好きな人、友・・・)を思う心、思いやる心が実に丁寧に
描かれた作品です。
土佐弁も味わいあり。

「いっぽん桜」
   現代のサラリーマンにも当てはまる物語。
   自分が長年勤めた大店への未練、執着、つまらないプライド。

「そこに、すいかずら」
   三千両の”ひな飾り”。
   二度の火事で両親を失い、店も焼け落ちてただ一人残された
   娘・秋菜。
   紀文、再登場。良い味を出しています。

「芒種のあさがお」
   決まり事にうるさい姑が亡くなって・・・。
   この作品も良いのですが、全体のレベルが高くてちょっと割を
   食った感じですか。

山本作品は偉大なマンネリと評されることもあるようですね。
それも結構。僕は断然山本作品を支持です。

これからも一力はんについて行きます。



深川黄表紙掛取り帖(山本一力)

2005-06-12 22:59:00 | 17:や行の作家
hukagawakibyoushi深川黄表紙掛取り帖(講談社)
★★★★:80点

様々なやっかいごとの解決請負を裏稼業とする4人組。
ただし、裏稼業といっても殺人などとは無縁で、頭脳とアイデア勝負なのが小気味良し。
主人公は蔵秀であろうが、裏稼業グループ4人組にしたことは面白い反面、かえって各人の個性の際だち等が若干書き込み不足と感じらましれた。その点で物足りなさあり。
登場人物(親分・猪之吉:山本作品ではかなり重要な役どころとなってきました)や題材(金貨の改鋳)など、他の作品と結構色々な面でつながりがあります。

全5編中、中盤の3編「水晴れの渡し」「夏負け大尽」「あとの祭り」がなかなかの出来映え。
「そして、さくら湯」では何と柳沢吉保が登場。
これも良かったのですが、やや味わいに乏しかったかな。

爪田屋鹿助、番頭の靖兵衛、船宿のあるじ善右衛門、冬木屋正左衛門・・・。
この作品では主人公の蔵秀たちよりも、彼らの人となり、考え方・行動の方が印象的でした。
特に、自分だけがぬけがけすることを恥じ、仲間のために大金をはたいて大勝負にかける善右衛門が良かったです。

紀文こと紀伊國屋文左衛門登場。
成り上がりの彼は、深川の伝統と粋の素晴らしさを見せつけられ、くやしい思いもしますが、
何とか深川にとけこもうとする姿がいじらしい。
彼も重要人物になっていくようです。

大田屋精六、由之助父子の強欲さと負けっぷり(まだ完全に負けと決まった訳ではありませんが)が見事。






深川駕籠(山本一力)

2005-06-05 15:14:00 | 17:や行の作家
hukagawakago深川駕籠(祥伝社)
★★★★’~★★★★:75~80点

深川の駕篭かき・新太郎と尚平を取り巻く人情物語。
トータルでは、ひとつ前に読んだ「はぐれ牡丹」よりも若干上の評価をしました。
一力さんは私にとって殿堂入り作家の一人です。大好きな作家ですが、”殿堂入り”レベルだけに最近は評価基準も少~し厳しめに設定しています。

全7編中では、二人がふと立ち寄った飯屋で”おゆき”という魅力的な女性が登場する「今戸のお軽」がベスト。
そして、深川の駕籠かき・新太郎、千住の駕籠かき(永遠のライバルですが、ナイスガイ)・寅、鳶の源次、飛脚の勘助、4人の足自慢が意地と誇りをかけた駆けくらべをする「紅白餅(めおともち)」が次点でしょうか。
「紅白餅」は題材としては非常に面白かったのですが、ランナーの私としては”走り”についてもう少し熱く激しく深く描いてほしかったところです。

おゆき。
彼女が出てきて物語が急に明るくなった気がしました。
彼女が営む(?)飯屋で出された料理(と言っても粗末なものなのですが・・・)の描写が、おゆきの人柄・話し方とも相まって非常に印象的でした。

  「煮豆に糠漬けと味噌汁で、ひとり三十文だけどいいですか?」
  「井戸が自慢なんです。もう一杯注ぎましょうか」
  「山椒を少し散らしていただくと、香りが立っておいしいですから」
  「ありがとうございます。その糠漬けも評判がいいんですよ」

心のこもった料理、もてなしということが良く分かります。
新太郎じゃないのですが、私も僅か2ページだけでおゆきに惚れやした。

一力さんの作品は、直木賞受賞作「あかね空」での豆腐をはじめとして、料理・食べ物・食事などの描写が生き生きとしていて素晴らしいですね。

てっきり物語の最後には○○とおゆきが結ばれることになるのでは?
と予想していたら・・・おゆきが選んだのは◎◎でした。
○○が可哀想。

やはり「今戸のお軽」で出てきたのですが、駕籠で速く走るには、客の乗り方も関係するというのが興味深かったです。

娘が世話になった芳三郎は客を装って二人の駕籠に乗り、思いっきり飛ばさせる。

  かき手と客の息が合わされば、駕籠は幾らでも早駆けできる。
  この朝の客は、乗り方が見事だった。
  揺れに合わせて身体を動かし、かき手の足を邪魔しない。
           :
           :
  「たいした走りだ、感心したよ」
  「お客さんもてえしたもんだ。久々に気持ちよく担がせてもれえやした」

ここも良いシーンでした。

色々と書き出してみると、素晴らしいシーンが結構たくさんありますね。
80点でも良かったかな?