ひろの東本西走!?

読書、音楽、映画、建築、まち歩き、ランニング、山歩き、サッカー、グルメ? など好きなことがいっぱい!

だいこん(山本一力)

2005-11-30 12:55:00 | 17:や行の作家
daikon-1だいこん(光文社)
★★★★:80点

食べ物のことを描かせたら抜群の山本一力氏。魅力的な主人公”つばき”を中心に据えて、またまた心あたたまる人情話が出来上がりました。
主人公の”つばき”は良し。飯炊きが素晴らしくうまく、記憶力抜群で商才あり。器量・度胸良し、人を見る目あり、思いやりあり。とくに妹に注ぐ愛情は母親以上か。
恋についてだけがちょっと不器用(?)なのが可哀想だけど、それがまた可愛らしくもあります。

~ハードカバー帯より~

  江戸に心から愛されている一膳飯屋がありました。

  直木賞作家の魅力あふれる細腕繁盛記
 
  知恵を使い、こころざしを捨てず、
  ひたむきに汗を流したおんなの生き方 

自分の才覚で店を繁盛させていくのですが、当然のことながらまわりの人々に支えられ、助けられて多くのことを学んでいく。とくに人生の先輩を大事にするところが素晴らしい。年寄りもまた、つばきから元気をもらうのが好ましい。

口入れ屋の番頭が教えてくれた「人定めのコツ」が良いです。

   笑顔がきれいなひと。
   骨惜しみをせず、腰が軽いひと。
   声が明るいひと。
   好き嫌いを言わず、出されたものは残さずなんでも食べるひと。

さて、自分を振り返ってみると?
まあ明るく楽しいとは言われますね。
好きなことであれば骨惜しみはしませんが、そうでないことに関してはめちゃめちゃ腰が重いです(^_^;
動かざること山のごとしか。
昔は好き嫌いが多かったけど、今はそうでもないですね。でも、牡蠣はダメです・・・。

それはさておき。
なかなか素晴らしい作品なのですが、ラストシーンがあっけなさ過ぎます。山本氏の作品には時折これがあるのですが、話の途中で唐突に終わってしまった感じです。結局、閻魔堂の弐蔵とつばきの関わりは過去だけのものとなったのも何となく不自然でした。雑誌で続編の連載が始まったらしいですが、それの完成を待って合わせて出版してほしかったと思います。

また、山本さんの作品は読みやすく心地いいのですが、若干深みに欠けるきらいがあります。「あかね空」などは、多少の暗さと共に物語に深みもあったと思うのですが。
いつも水準以上のできばえなのですが、全体的に悪役が弱いこともあって、もう少し毒がほしいなあなんて思ったりもします。贅沢かなあ。これって私だけ?
 
参考ブログ:

よしさん
ゆきうさぎさん
gracemomoさん
Rokoさん
トラキチさん
bamseさん




震度0(横山秀夫)

2005-08-17 22:22:00 | 17:や行の作家

sindo0-1震度0(朝日新聞社)
★★★★’(~★★★★):75点(~80点)

未読なのに 横山秀夫新作・名作の予感 と書いた期待の最新作。

雑誌連載時に読んでいなかったので、新聞広告を見たときに題材と言い、これは”傑作誕生か!”と予感させたのだが、期待が大きかっただけに期待度対比で辛目の採点となってしまった。警察の内部抗争を描く横山らしい作品なのだが、あまりにも保身や組織防衛に汲々とする人物が多くて、読んでいる最中に若干興ざめしてしまった。県警幹部ともあろう者が皆こんな考え方しかしていないのか、できないのか。あまりにも幼稚な言動はちょっと誇張が過ぎたのでは?横山さん。ラスト近く、失踪事件の真相が明らかになるあたりはさすが横山と思わせるものがあっただけに、これらの人物像の設定・描き方が残念だった。

横山秀夫の熱心なファンであれば、本作は「クライマーズ・ハイ」と「半落ち」をミックスしたような小説だと感じるだろう。しかし、似ているだけで読後の余韻は全く異なったものであった(私は「半落ち」を世間ほど高くは評価していないが)。阪神淡路大震災と同時並行で物語は進んでいくが、大震災を取り上げた意図・必然性もよく分からなかった。まさか題名のためではないだろうが。「クライマーズ・ハイ」の日航ジャンボ墜落事故は、それが作品を貫く太い幹となっていて物語と決して切り離せないものだったのだが・・・。

比較的感情移入して読めた人物は、準キャリアの警備部長・堀川と地元ノンキャリアで刑事部長の藤巻。藤巻も保身や組織防衛(主には刑事部の)とは決して無縁ではないのだが、キャリアの冬木と真正面から対決するなど気骨ありで印象的だった。ラスト、人の命を救おうとした2人の姿には救われた気がしたが、果たしてN県警は「激震」から立ち直れるのか。

気に入ったシーン(藤巻の視点で描かれたもの):

   瀧川は礼も残さず飛び出していった。刑事の背中だった。
   曲がった道も真っ直ぐ走るような・・・。
   午後には三沢徹の出頭があるというのに。

せっかくこのようないい味を出しているのに。この路線で書いてほしかったなあ。
お気に入り作家の殿堂入りはまたも保留です。

参考ブログ:

♪ウサギ・絵・花・本・写真・・・♪
多字騒論
黒猫の隠れ処
じゃじゃままのブックレビュー
奥さまは149cm(2007-12-1追加)


梅咲きぬ(山本一力)

2005-08-01 21:28:00 | 17:や行の作家
umesakinu-1梅咲きぬ(潮出版社)
★★★★☆:90点

「欅しぐれ」に続いて、またも素晴らしい作品にめぐりあえました。
江戸屋の女将:四代目秀弥となる玉枝の五歳から四十一歳(四十二歳)までの物語。母である三代目秀弥も主人公の一人なのですが、ここは娘・玉枝の視点を重視します。

****【注意】以下、完全にネタバレあり****

幼い頃から将来の女将としてのしつけ・教育が始まるきびしさ。実は女将としての教育だけではなく、人としていかに生きるべきかを教えられていた。幼い玉枝にとっては泣きたくなるような厳しくつらい日々。それだけに、稽古場に運び込まれたひな飾りのシーンが胸をうつ。母、春雅・福松、厳しくも温かい人生の師が素晴らしい。

板長の謙蔵が仲居がしらの市弥が、そして深川の人々が玉枝を支える。玉枝も私心持たず、江戸屋の若女将・女将として深川の町と人々のために自分がすべきこと、自分ができることを必死で考える。深川の人情の素晴らしさ。自分が苦しいときにこそ皆を元気づけようとし、まわりの人々に救いの手をさしのべる。その心意気や良し。話が前後するが、商いよりも人のこころを重んじる米問屋・野島屋もあっぱれ。

春雅・福松は実に良い夫婦でした。柔らかな口調ながらもピシリと決める春雅の上方訛りが絶品。関西人の私には嬉しいかぎりでした。春雅が病に倒れてから福松が見せる愛情、福松に全幅の信頼を寄せる春雅に涙。この夫婦(めおと)愛はほんまもんですなあ。

八木仁之助との出会いと三十年にも及ぶ恋。縁談を断り続けた八木、婿取りをせずにきた玉枝。結ばれるはずのない身分違いの恋が切ない。しかしそれも定めと心に言い聞かせた二人。会う機会も決して多くなかったが、お互いの心を分かり合えた日々は幸せだったと思いたい。

物語が進むにつれて時の経つのが早くなり、終盤など一気に20年以上の時が流れたのには驚いた。読者は玉枝が過ごしてきた日々に思いをはせたのではないだろうか。決して順風満帆なはずはなく、多くの苦労があり、人に助けられ人を助けて日々懸命に生きてきたはずである。。。また、どうしても愛する人に先立たれた悲しみについても考えてしまう。それだけに今までの山本作品以上に切なさと寂寥感が強かった。氏はこの作品で新境地を開くとともに、また一つの金字塔をうち立てたように思う。

この作品には良いシーンが数多くあるのですが、書き出すときりがありません。
「深川の最中(もなか)」「うなぎ豆腐」をはじめとする料理のシーンは相変わらず素晴らしい。一方、騙りのエピソードでは江戸屋の人々が相手をギャフンといわせる小気味良さはあったものの、悪役が弱いという欠点も相変わらずなのが愛敬か。

***************************

ここのところ忙しくて本を読む時間がなかったのですが、図書館・予約本の取り置き期限が迫ってきたため、急きょ読破。自分は玉枝の1/10も努力・我慢していないなあ。。。日々、安易な方に、楽な方に流されているなあ。。。子供に対してもこれだけの厳しさと愛情をもって接しているだろうか? と反省しきりです。

人生とは?生き方とは?しつけ・教育とは? 色々なことを考えさせられます。
一力ファンでなくとも必読の書。

参考ブログ:
*Happy Light*(よしさん)
ついてる日記(Rokoさん)
歯医者さんを探せ!(bamseさん)
のほ本♪(ゆこりんさん)

※素晴らしい感想、参考にさせて頂きました(よしさんのブログからたどらせて頂きました)。



横山秀夫新作・名作の予感

2005-07-14 21:38:14 | 17:や行の作家
sindo-0横山秀夫の新作「震度0」が発売ですね。

~amazonより~

 2002年『半落ち』、2003年『クライマーズ・ハイ』、
 そして2005年――。
 横山“警察小説”の集大成的長編サスペンス! 
 謎の失踪を遂げた警務課長を巡って巻き起こる、県警幹部たちの
 虚々実々の駆け引きと足の引っ張り合い……。
 県警本部長以下、キャリア組エリート警務部長、準キャリア警備部長、
 叩き上げの刑事部長など入り乱れての情報戦の結末は? 
 真実はどこに!? 著者ひさびさの本格長編小説。

出ました。バリバリの警察内幕もの。”虚々実々の駆け引きと足の引っ張り合い”を書かせたら横山秀夫の右に出るものはいないはずです。
最近、横山作品には留保をつけるものが多かったのですが、これは期待・大!

このところ本はもっぱら図書館で借りているのですが、待ちきれないですね。
久々に新刊本を買うか!

未読なのに書いてしまった。。。


欅しぐれ(山本一力)

2005-07-08 12:50:00 | 17:や行の作家

keyakishigure欅しぐれ(朝日新聞社)
★★★★☆’:85点

深川の老舗大店である履物問屋・桔梗屋のあるじ太兵衛と賭場の貸元・猪之吉。
ふとしたことで知り合った二人は交誼を結び、月に一度の語らいを楽しむ。商人と渡世人といった世間での立場など一切関係なし。友情というには軽すぎる。もっと深く、お互いが自分にはない素晴らしさを相手に認め、全人格を受け入れ、尊敬し、大事に思う。

太兵衛と猪之吉が出会い、重い病を煩っている太兵衛が店の大事を猪之吉に託す序盤。太兵衛が亡くなるまで様々な混乱がある中盤。猪之吉の下、一度はうまい儲け話に引っかかった番頭・手代・小僧、桔梗屋のすべての人々が心をひとつにして乗っ取りという店の危機に立ち向かう終盤。息も継がせぬ展開が素晴らしい。

実は私がこの作品で一番印象に残り、胸を強くうたれたのが頭取番頭・誠之助だった。太兵衛の後、店を仕切ることができるのは自分しかいないという自負。しかし、店の危機に際しては自負などかなぐり捨てて猪之吉に頭を下げて助力を請う。奉公人としてただ一人、主の重い病、店の危機、猪之吉のことといった秘密を知る誠之助は、時には太兵衛の胸のうちを思って涙しながらも自分の努めを精一杯果たそうとする。

猪之吉が差配した通夜の見事なこと。香典返しの桔梗屋特製の雪駄に込められた意地と絶対に負けないという強い意志。治作の脅しにも頑として口を割らない頭取番頭・誠之助。夫亡き後、気丈に振る舞いながらも店の者を思いやる太兵衛の妻・しず。すごい人たちである。

ラストの大団円でもっと凄い対決があると思っていたのが意外にあっさりで、そこが物足りず。せめてあと20ページくらいほしかったところ。また、本作も善人に比べて悪役が人間的魅力に乏しく迫力不足。その他の内容面でも消化不良といった欠点はあるが、人の思い・意志の強さを鮮やかに描ききった素晴らしさを堪能した。”偉大なマンネリ”に拍手。

猪之吉が船宿からくすねた湯呑み。そこに亡き太兵衛の思いが重なる余韻が絶品の味わい。

読後かなり日数が経ってしまいあまり細部を覚えていませんが、やはり”人”を描いた部分が非常に印象に残りました。
要再読の作品です。

参考ブログ:♪ウサギ・絵・花・本・写真・・・♪
                     日々のつぶやき 一緒に人生楽しもうぜ
        ちびちびさんの”奥様は149cm”