厚さ1センチのカーシート

 快適性は度外視し、専らホールド性能だけを追求したレース用のシートは別だけれど、一般的な乗用車用の坐り心地の良いシートを作ろうとすればどうしてもクッションは厚くなるものだと思っていたが、こう云う固定概念はどうやら過去のものになりつつあるようである。

 ホンダが東京モーターショー2009用に製作したコンセプトカー、SKYDECK(スカイデッキ)のシートの厚みは僅か数センチ。この数センチと云うのはアルミ製のシートフレームの厚みであり、実質的なシート部分の厚みはホンの1ミリ。つまり表皮しかないのである。つまり、SKYDECKのシートにはスプリングも「あんこ」もない。

 確かに最近、オフィスチェアの分野では座面・背面共にクッションを持たず、樹脂製のネット一枚というものが出回って来ている。郷秋<Gauche>も会議などの時にお世話になることもあるけれど、坐り心地は特に違和感がないどころか、腰痛持ちの郷秋<Gauche>にはレカロのスポーツシート並みのサポートで、その上通気性もよいので実に快適なのである。

 そんなネット一枚で座面・背面を構成したシートを、ホンダはクルマに持ち込んだのである。これを画期的と云わずして何と云おう。つまりだ、これまで15センチあったシート背面の厚みが2センチになったとすると、前後2席分で26センチを節約できることになるのだ。同じ車内空間を確保しながら全長が26センチ短いクルマを作ることが出来る、あるいはこれまでと同じ全長でリムジンのような車内空間を持ったクルマを作ることが出来るようになると云うことである。

 全長が26センチ短いクルマと云うことは、まずはボディシェルが軽くなる。勿論シート自体も軽量化されるから、エンジンも小さいものでよいことになる。ボディやエンジンが軽くなると云うことはサスペンションやブレーキも小型軽量の物で良くなる。結果として車両重量を大幅に軽量化することが出来る。つまり燃費も良くなる。

 シートフレームをアルミではなく、例えば「天童木工」が得意とするような合成合板を使えば、それ自体の「しなり」によってより快適なシートになるかも知れないし、原材料を国内に求めることが出来るようになるかも知れない。まったくもっていいこと尽くめではないか。

 エンジンをガソリンエンジンやディーゼルエンジンとのハブリッドにする、電気モーターだけにする、バッテリーじゃなくて燃料電池を使うなど、僕たちはエンジン部分での近未来化に目を奪われがちだが、こういう地味な部分の変化についても見逃すべきではないし、こう云うところにまでドラスティックな変化を求めるホンダは、やはりホンダ、さすがだなぁと、郷秋<Gauche>は思う。


 例によって記事本文とは何の関係もない今日の一枚は、昨日に続いて北鎌倉、東慶寺の秋明菊(しゅうめいぎく)。
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