平安夢柔話

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小説 出雲王朝挽歌

2010-04-23 21:57:19 | 図書室3
 今回は、最近読んだ古代史小説の紹介です。

☆小説 出雲王朝挽歌
 著者=三枝和子 発行=読売新聞社

内容
 女郷長に近づき、鉄を作り、うるしの技法を学び、周辺各国を手中におさめた須佐之男の情熱と勇気、そして息子大国主の努力と実行によって繁栄した出雲王朝の謎に迫る長編書き下ろし考古学小説。

*図書館で借りた本なので画像はありません。また、視覚障害者用の録音図書だったため、登場人物の漢字表記については調べられず、そのため、須佐之男と大国主以外の登場人物の表記はすべて、片仮名にさせていただきました。ご了承下さい。
*この本は、平成8年に読売新聞社から単行本が出版されましたが、現在では絶版のようです。興味を持たれた方、図書館か古書店を当たってみて下さい。


 私たち夫婦の新婚旅行は、三泊四日の大阪・鳥取・松江・出雲旅行でした。
 特に3日目は松江市内を観光し、四日目には出雲大社を訪れ、古代の息吹が感じられる出雲の地を堪能しました。
 松江や出雲大社を訪れたことで、それまでほとんど興味がなかった日本神話、特に出雲神話に強く心を引かれました。それから20年以上経った今でも、「出雲」という単語には反応してしまいます。なので出雲王朝をあつかったこの本、とても興味深く読みました。

 この本は、須佐之男の八岐大蛇退治から、大国主の国譲りまでの出来事を「古事記」や「出雲風土記」などをもとに小説化したものです。

 姉の結婚によって故郷を追われた須佐之男は、ふとしたことから八岐大蛇の妻にされることを深く嘆いている出雲の郷長の娘、クシイナダヒメと知り合います。そこで須佐之男は、八岐大蛇(実は、出雲のあちらこちらの里を征服しようとしていた8人の製鉄業者でしたが)を退治し、クシイナダヒメを妻にして出雲に住み着くことになります。

 しかし、当時は一夫多妻の世、須佐之男はやがて旅に出て、出雲のあちらこちらの女郷長ととの間に何人かの子供をもうけ、次第に自分の勢力範囲を拡大していきます。そして、オオイチノヒメという女郷長との間にもうけた子、大国主(実は、大国主はオオイチノヒメが別の男との間にもうけた子だという書き方をしてありましたが、須佐之男は彼を自分の子と認めていました)と、クシイナダヒメとの間にもうけた娘、スセリヒメとを結婚させます。そのため大国主が実質的に須佐之男の跡継ぎとなったのでした。

 こうして須佐之男と大国主が造った出雲はさらに拡大し、豊かな国となっていきました。

 しかし、西の方から起こった倭が次第に強大になり、出雲に使者を送って来たり、貢ぎ物を要求したりするようになります。そして倭は瀬戸内海を東に進み、紀伊半島から上陸してあちらこちらの郷を征服し、半島の中央の盆地に落ち着きます。いわゆる神武東征ですね。

 あくまでも倭との合戦を避けたい大国主はついに国譲りを決心。自らは大きな社を建ててそこにこもることを決意する…、以上が、この小説の大まかなストーリーです。

 この本を読んだ感想は、ほとんど何も実証されていない出雲王朝を神話をもとに、これほど躍動感のある物語に仕立てた作者の力量に感服したということです。
 須佐之男や大国主というと、「神様」というイメージが強いのですが、この小説では、ごく普通の人間として描かれています。彼らは普通に人を愛したり憎んだり、喜んだり悩んだりしています。何か親しみが持てました。

 それから、女性たちがとても個性的に描かれていました。

 八岐大蛇の妻になることを嘆いて泣いていた15歳のクシイナダヒメは、小説のラストでは須佐之男を支える立派な妻であり、国譲りを決心した大国主の良き相談相手となる頼もしい女性に成長しています。
 また、最初は少しわがままでやんちゃなスセリヒメは、初恋に敗れたことで成長し、大国主や出雲国を支える立派な女性になっていきます。
 オオイチノヒメを初めとする個性的な女郷長も何人か登場します。

 著者の三枝さんはもしかすると、出雲神話をもとにした須佐之男や大国主のお話を描きながら、彼らを支えたたくましい古代の女性たちのことを描き、よりよい国を造るには女性の力も大切なのだということを訴えたかったのかもしれません。

 少し古い本で、文庫化もされていないようなのでなかなか手に入りにくいかもしれませんが、お薦めの1冊です。

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