昨年11月に購入した、角田文衞先生の「紫式部伝 ーその生涯と源氏物語」1ヶ月ほど前から読み始めています。専門書なので少し難しい箇所もありますが、面白いです。まだ半分くらいまでしか読んでいないので読了までには時間がかかりそうですが、読み終わりましたら「図書室1」で紹介したいと思っています。
さて、この「紫式部伝」には、紫式部の子孫や親戚について、興味深い記述がありました。そこで「平安時代史事典」でも詳しく調べてみた結果、何と源氏や平氏、北条氏とつながっていることがわかったのです。今回はそのことについて少し書いてみたいと思います。
紫式部の子供は、のちに後冷泉天皇の乳母となって「大弐三位」と呼ばれた藤原賢子一人ですが、「紫式部伝」によると、賢子には3人の子供が確認できるのだそうです。
すなわち、藤原兼隆との間に女子が一人、この娘は醍醐源氏の源良宗との間に源知房をもうけます。中右記に、「源知房は大弐三位の孫」という記述があるので、これはまず間違いないです。
一方、賢子はのちに高階成章と再婚し、男女一人ずつの子をもうけたそうです。娘の方は歌人として有名な大弐の母、息子の方は高階為家です。(なお、以前私が書いた
「大弐三位藤原賢子」では、歌人大弐の母は記述していません。)
このうち、高階為家に関してですが、彼が賢子の息子であるという確かな史料は残念ながら確認できないのだそうです。しかし、為家は後冷泉朝になってから出世のスピードが速くなっているので、後冷泉天皇の乳母子だと考えられることや、為家の「為」の字が曾祖父の為時からとられているのではないかということ、その他色々な理由から、彼は賢子の子と見て差し支えないのではないかということでした。私もそう考えたいと思います。
そして、為家が賢子の息子だった…ということが事実だとすると、彼の子孫は思いがけないところにつながっているのです。つまり、紫式部の血は今でも天皇家に流れていますし、村上源氏をはじめとした貴族たちにも受け継がれています。
何よりも一番びっくりしたのは、平重盛やその息子の維盛・資盛も紫式部の子孫だということでした。
為家には為賢・為章という息子と、二人の娘がいたようです。このうちの一人の娘が源家実との間に息子をもうけます。この男子はおじに当たる高階為章の養子となって高階基章と名乗りました。
そして、基章の娘が平清盛の妻となり重盛をもうけました。文章だけではわかりにくいと思いますので略系図で示してみますね。
藤原為時→紫式部 → 藤原賢子(大弐三位・高階盛章室) → 高階為家 →女子(源家実室) → 高階基章 → 女子(平清盛室) →平重盛 → 平維盛・資盛
というようにしっかりつながっています。すごーい!
ところで、これで驚いてはいけません。紫式部のおばの子孫は、何と源氏や北条氏とつながっているのです。
紫式部の父、藤原為時には、為頼・為長の他、二人の姉妹が確認できるのだそうです。そのうちの一人の姉妹は、桓武平氏の平維将の妻となりました。二人の間には娘が二人おり、紫式部と「姉君」「中の君」と呼び合っていたのはこのうちの妹娘だったようです。
さて、この他にも維将には維時という息子がいました。そして、「平安時代史事典」によると、この維時の母も藤原雅正の女、つまり紫式部と親しかった娘と同母ではないか?とのことでした。これが事実とすると、紫式部と平維時はいとこ同士ということになります。
ところでこの維時は道長に取り入る一方、武門として東国にも勢力を伸ばしていきます。そして、維時の子、直方は清和源氏の源頼義を婿とし、鎌倉の所領を譲ることとなります。頼義と直方女との間に生まれたのが源義家です。つまり、義家や彼の子孫である頼朝や義経は、紫式部のいとこの子孫ということになるのです。
さらに、のちに鎌倉幕府の執権となる北条氏は直方の子孫を称していますので、これが本当だとすると、この血統は北条時政・義時・政子へもつながっていることになります。
では、こちらも略系図にしてみますね。
☆藤原雅正 → 女子(平維将室・為時の姉妹・紫式部のおば) →平維時
☆平維時(紫式部のいとこ) →平直方 →女子(源頼義室) → 源義家 …… 源頼朝・義経
☆平維時(紫式部のいとこ) → 直方 …… 北条時政 →北条義時・政子
もちろん、為家が賢子の子であるという確かな資料が出てこない限り、この事が100%正しいとは確認できませんし、「平安時代史事典」によると高階基章は出自不詳となっていました。維時の母が紫式部のおばという事実も確証はありません。また、北条氏が直方の子孫だという説も異論があるようです。何しろ遠い昔の話ですから、特に女性の系譜に関してははっきりしないことも多いようです。
それでも、重盛が紫式部の子孫であり、頼朝や政子が紫式部の親戚とつながっているという話は夢があってわくわくします。
☆参考文献
「紫式部伝 ーその生涯と源氏物語」 角田文衞 法蔵館
「平安時代史事典 CD-ROM版」 角田文衞監修 角川学芸出版
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