平安夢柔話

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平安朝の父と子 貴族と庶民の家と養育

2015-07-06 10:00:04 | 図書室1
 久しぶりに歴史評論の本を紹介します。

☆平安朝の父と子 貴族と庶民の家と養育
 著者=服藤早苗 発行=中央公論新社・中公新書2044 

商品の内容[要旨]
 歴史上、父と子の強い関係が見え始めるのは平安時代初期のことである。『御堂関白記』は、子をたくさん産み育てることを称揚し家の力を拡大させていった藤原道長の姿を、『小右記』は、子どもを寵愛した藤原実資の日常を伝えている。貴族の日記や説話から見えてくる父と子の絆は、現代の子育てを考えるうえでも多くの示唆を与える。「母と子」「女と男」につづき、歴史から現代の家族を考える三部作の完結篇。

[目次]

 序章 父と子の史料を探して(勘当する父;貴族層の父親像と家)
 第1章 子どもの成長と父(子どもの誕生;生育儀礼と父親;子育てと教育)
 第2章 家の成立過程と父権(家業と子;父権の成立)
 終章 家と父権のゆくえ(父への孝養;父権から育児する父親へ;現代の父親論への視座)

*すでに絶版のようです。興味を持たれた方、古書店か図書館を当たってみて下さい。

 紹介文にありますように、「御堂関白記」「小右記」などの貴族の日記、「今昔物語」「栄花物語」「大鏡」などの古典から貴族と庶民の父子関係、父権から見た家の成立などを論じた本です。

 第1章では主として、父親の子育てについて論じています。

 この章で最も興味を惹かれたのは藤原実資の子育てについてです。但し、有名な千古ではなく、6歳で早世した千古の姉について書かれています。

 彼女の七日のお祝いの時、清原元輔と平兼盛が歌を詠んでおり、この時代の思いがけない人間関係にわくわくしました。逆に言うと実資さん、愛するわが子のお祝いに当代の歌人を総動員したのかもしれませんが。でも、人脈がなければ歌人も動員できませんものね。

 しかしこの娘は体が弱く、実資の日記には心配する様子があちらこちらに書かれていて、切なくなりました。千古に対してもそうでしたが、実資さん、娘に対する愛情はかなり強かったようです。

 その他、菅原道真が太宰府に左遷された際、2人の幼い子供を同行することが許された話も興味深かったです。太宰府では子供たちと食事をしたり、同じ部屋で寝ていたりしたようです。都では多分、部屋は別々だったでしょうから、道真と子供たちは太宰府で、固い絆が出来たのでしょうね。

 えっ?と思ったのは藤原道綱と兼経の場合です。
 兼経の母(源雅信と藤原穆子の娘)は彼を生むとすぐ、世を去ってしまいます。すると道綱は兼経の養育を妻の母、穆子に任せ、自分は源頼光の婿になってしまいます。
 妻が亡くなっても一人で子育てする男性もいたようですが、道綱のような男性も多かったのでしょうね。まさに人それぞれ…。

 第2章では、父権から見た家の成立についてが論じられています。

 特に興味深かったのは摂関家の成立について。
 藤原基経の3人の男子、時平、仲平、忠平の母は光孝天皇の同母弟人康親王の女です。基経と光孝天皇が母方のいとこ同士であることはよく知られていますが、彼らの息子たちもまた、天皇家の親戚だったわけです。
 息子たちの中では結局、忠平が摂関家を継ぐことになるのですが、忠平の子、師輔の母は文徳天皇の孫に当たります。そのことが師輔の地位を高めることに役立ち、その師輔は醍醐天皇の3人の皇女たちを次々と妻に迎えます。こういった天皇家との関係が、摂関家成立に大きな役割を果たしたようです。

 それと、平安中期までは母親の身分が重要だったという話にも興味を惹かれました。

 特に親王の子の場合、母の身分が重要だったようです。
 例えば具平親王が身分の低い雑仕女との間にもうけた頼成は、具平親王に認知されず、家人の藤原伊祐の子として育てられます。
 また「蜻蛉日記」に道綱母の恋敵として登場する町の小路の女も、「さる親王のご落胤」だったようです。多分、母親の身分が低く、認知されなかったのでしょう。道綱母も「取るに足りない身分の女!」と切り捨てていますし。町の小路の女はその後、兼家に捨てられてしまっています。このようにたとえ天皇の孫でも、母の身分が低いと貴族の正式な妻になることも難しかったようですね。

 それが次第に「腹は借り物」という考えが生まれ、母親の身分がそれほど重要視されなくなるのは院政期頃からだそうです。そして父権がさらに強くなっていくのです。婿取り婚から嫁入り婚が主流になっていくのもこの時代ですよね。そして権力も貴族から武士へ…。院政期って歴史の大きな転換点だったのですね。そんなこともこの本を読みながら興味深く感じました。

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