今回は、「源氏物語の時代 ー一条天皇と后たちのものがたり」の著者、山本淳子先生が編集なさった「紫式部日記」の本を紹介いたします。
☆紫式部日記(ビギナーズクラシックス 日本の古典)
著者=紫式部/山本淳子・編 発行=角川学芸出版・角川ソフィア文庫
価格=700円
本の内容紹介
平安時代の宮廷生活を活写する回想録。華麗な生活に溶け込めない紫式部の心境描写や、同僚女房やライバル清少納言への冷静な評価などから、当時の後宮が手に取るように読み取れる。道長一門の栄華と彰子のありさまが鑽仰の念をもって描かれ、後宮改良策など、作者が明確に意見を述べる部分もある。話しことばのような流麗な現代語訳、幅広い話題の寸評やコラムによる、『源氏物語』成立の背景を知るためにも最適の入門書。
[目次]
1 出産まで
2 敦成親王誕生
3 豪華な祝い事
4 一条院内裏へ
5 消息体
6 年次不明の記録たち
7 寛弘七年記録部分
「紫式部日記」は文字通り、紫式部が著した日記で、寛弘五年の中宮彰子の出産前後の記録をはじめ、女房勤めのあれこれ、同僚女房たちやライバル清少納言の評価などを綴ったバラエティーに富んだ日記です。
私は5年ほど前に、講談社学術文庫から出ている「紫式部日記 全訳注(宮崎荘平 校注)」を読んだことがあります。その時の感想は、「面白いけれど、何か話があちらこちらに飛んでいて不思議な日記」でした。なので、「紫式部日記」をやさしく解説したような本があったら読んでみたいとその頃から思っていました。
それで最近、山本淳子先生の編集なさった「紫式部日記」が出版されたという情報を聞き、ぜひ読んでみたいと思って購入してみました。わかりやすい訳と詳しい解説で、とても読みやすい1冊でした。
この本の構成は、確章段ごとにまず現代語訳が掲載されていて、その次に原文が掲げられ、続いて山本先生によるその章段の解説が掲載されています。ただ、現代語訳と原文は全文ではなく抜粋です。それでも、解説が充実しているので、これだけ読めば「紫式部日記」のだいたいの内容がわかると思います。
それで、この本の読みどころはやはり、山本先生の解説だと思います。とにかくわかりやすく、的確で詳しいです。
例えば、道長が初登場している章段の解説では、道長の生涯、天皇の外祖父になるということの大変さがわかりやすく解説されていて、初心者にも興味が持てるように工夫されています。でも、このような平安時代の基礎知識的な内容だけでなく、「なるほど」という事項も色々と解説されていました。その例を少し挙げてみますね。
私がこの本で楽しみにしていた章段の一つが、敦成親王生誕五十日の祝の段です。そうです、あの有名な、藤原公任の「あなかしこ、 このわたりに若紫やさぶらふ」が出てくる章段です。
この段では、めでたいお祝いの席だけあって、列席の貴族たちはみんな酔っぱらっていて、いつもとは違う顔をのぞかせています。紫式部は、その一人一人を細やかに描写しているのですが、最も好感を持って描いたのは藤原実資だったのではないかと思います。紫式部はこの時、実資のことを「感じのいい人」と思って話しかけてもいるのですから…。
ただ、この時の実資も酔っぱらっていて、女房たちの衣の枚数を数えたりしていたようなのですよね。やはり実資さんも酒の席では羽目を外すのね…と、私は今まで思っていたのですが、山本先生は全く違う解釈をされていました。
実はこの時期の帝、一条天皇は質素倹約を重んじており、自らもそれを実行していました。なので貴族たちにも倹約令が出ていたのです。そのため実資は、女房たちがしっかりと倹約令を守っているかどうか、着ている装束の枚数を数えて確認していたというのです。やはり神経質で几帳面な実資さん、やることが違いますね。これには「なるほど」とうならされました。
その他、紫式部が清少納言を批判していた理由も解説されていました。
つまり、控えめであまり仕事の出来ない女房の多かった彰子の後宮に比べ、定子の後宮の女房たちは機知に富み、明るく華やかだった。そのため、定子の後宮をなつかしむ貴族たちがとても多かったようなのです。そのようなわけで、彰子を一条天皇の真のナンバーワンの后にするため、紫式部にとっては清少納言と「枕草子」は超えなければならない大きな壁であり、清少納言と「枕草子」を否定することにより、彰子を持ち上げようとしたようなのですよね。
ところで、山本先生も強く強調されていることなのですが、私はこの本で今まで気づかなかったことに気づかされました。それは、紫式部の女房としての成長です。寛弘五年頃は、引っ込み思案で、行事の日に遅刻ぎりぎりに出仕し、弘徽殿女御に使えていたことのある左京の馬をからかっていた紫式部が、寛弘七年には行事の日は早々と出仕し、何よりも、彰子の後宮を改良しようと真剣に考えています。そして、彰子の信頼をしっかりと勝ち得ていますよね。やっぱり紫式部はただ者ではないです。
☆コメントを下さる方は掲示板へお願いいたします。
☆トップページに戻る
☆紫式部日記(ビギナーズクラシックス 日本の古典)
著者=紫式部/山本淳子・編 発行=角川学芸出版・角川ソフィア文庫
価格=700円
本の内容紹介
平安時代の宮廷生活を活写する回想録。華麗な生活に溶け込めない紫式部の心境描写や、同僚女房やライバル清少納言への冷静な評価などから、当時の後宮が手に取るように読み取れる。道長一門の栄華と彰子のありさまが鑽仰の念をもって描かれ、後宮改良策など、作者が明確に意見を述べる部分もある。話しことばのような流麗な現代語訳、幅広い話題の寸評やコラムによる、『源氏物語』成立の背景を知るためにも最適の入門書。
[目次]
1 出産まで
2 敦成親王誕生
3 豪華な祝い事
4 一条院内裏へ
5 消息体
6 年次不明の記録たち
7 寛弘七年記録部分
「紫式部日記」は文字通り、紫式部が著した日記で、寛弘五年の中宮彰子の出産前後の記録をはじめ、女房勤めのあれこれ、同僚女房たちやライバル清少納言の評価などを綴ったバラエティーに富んだ日記です。
私は5年ほど前に、講談社学術文庫から出ている「紫式部日記 全訳注(宮崎荘平 校注)」を読んだことがあります。その時の感想は、「面白いけれど、何か話があちらこちらに飛んでいて不思議な日記」でした。なので、「紫式部日記」をやさしく解説したような本があったら読んでみたいとその頃から思っていました。
それで最近、山本淳子先生の編集なさった「紫式部日記」が出版されたという情報を聞き、ぜひ読んでみたいと思って購入してみました。わかりやすい訳と詳しい解説で、とても読みやすい1冊でした。
この本の構成は、確章段ごとにまず現代語訳が掲載されていて、その次に原文が掲げられ、続いて山本先生によるその章段の解説が掲載されています。ただ、現代語訳と原文は全文ではなく抜粋です。それでも、解説が充実しているので、これだけ読めば「紫式部日記」のだいたいの内容がわかると思います。
それで、この本の読みどころはやはり、山本先生の解説だと思います。とにかくわかりやすく、的確で詳しいです。
例えば、道長が初登場している章段の解説では、道長の生涯、天皇の外祖父になるということの大変さがわかりやすく解説されていて、初心者にも興味が持てるように工夫されています。でも、このような平安時代の基礎知識的な内容だけでなく、「なるほど」という事項も色々と解説されていました。その例を少し挙げてみますね。
私がこの本で楽しみにしていた章段の一つが、敦成親王生誕五十日の祝の段です。そうです、あの有名な、藤原公任の「あなかしこ、 このわたりに若紫やさぶらふ」が出てくる章段です。
この段では、めでたいお祝いの席だけあって、列席の貴族たちはみんな酔っぱらっていて、いつもとは違う顔をのぞかせています。紫式部は、その一人一人を細やかに描写しているのですが、最も好感を持って描いたのは藤原実資だったのではないかと思います。紫式部はこの時、実資のことを「感じのいい人」と思って話しかけてもいるのですから…。
ただ、この時の実資も酔っぱらっていて、女房たちの衣の枚数を数えたりしていたようなのですよね。やはり実資さんも酒の席では羽目を外すのね…と、私は今まで思っていたのですが、山本先生は全く違う解釈をされていました。
実はこの時期の帝、一条天皇は質素倹約を重んじており、自らもそれを実行していました。なので貴族たちにも倹約令が出ていたのです。そのため実資は、女房たちがしっかりと倹約令を守っているかどうか、着ている装束の枚数を数えて確認していたというのです。やはり神経質で几帳面な実資さん、やることが違いますね。これには「なるほど」とうならされました。
その他、紫式部が清少納言を批判していた理由も解説されていました。
つまり、控えめであまり仕事の出来ない女房の多かった彰子の後宮に比べ、定子の後宮の女房たちは機知に富み、明るく華やかだった。そのため、定子の後宮をなつかしむ貴族たちがとても多かったようなのです。そのようなわけで、彰子を一条天皇の真のナンバーワンの后にするため、紫式部にとっては清少納言と「枕草子」は超えなければならない大きな壁であり、清少納言と「枕草子」を否定することにより、彰子を持ち上げようとしたようなのですよね。
ところで、山本先生も強く強調されていることなのですが、私はこの本で今まで気づかなかったことに気づかされました。それは、紫式部の女房としての成長です。寛弘五年頃は、引っ込み思案で、行事の日に遅刻ぎりぎりに出仕し、弘徽殿女御に使えていたことのある左京の馬をからかっていた紫式部が、寛弘七年には行事の日は早々と出仕し、何よりも、彰子の後宮を改良しようと真剣に考えています。そして、彰子の信頼をしっかりと勝ち得ていますよね。やっぱり紫式部はただ者ではないです。
☆コメントを下さる方は掲示板へお願いいたします。
☆トップページに戻る