今回も、最近読んだ奈良時代を扱った歴史小説を紹介します。
☆万葉の華 ー小説 坂上郎女
著者=三枝和子 発行=読売新聞社
☆内容
朝廷の権力争いの渦中で、家刀自(女あるじ)として大伴家を支えた旅人の異母妹。万葉集の編集に情熱を燃やした美貌の歌姫の波乱の物語。書き下ろし歴史長編小説。
*すでに絶版のようです。興味を持たれた方図書館か古書店を当たってみて下さい。
文字通り、女性では万葉集に一番多くの歌を残した歌人、大伴坂上郎女の生涯を描いた小説です。著者によるあとがきによると、万葉集の編集に坂上郎女が深く関わっていたのではないかという仮説に基づいて書かれたのだそうです。
この小説は、五つの章に分かれています。
第一章では、若い頃の郎女の姿が描かれます。
物語は和銅六年(713)、郎女が14歳の時、穂積皇子に見初められて入内するところから始まります。
そして、2年後に皇子が亡くなり、その後、藤原麻呂の恋人になるが、母の薦めで異母兄の宿奈麻呂と結婚、2人の娘をもうけますが、数年後に死別します。第一章で早くも宿奈麻呂まで亡くなってしまってびっくりしましたが、先を読み進めてみました。
第二章は、主に太宰府が舞台になっていました。太宰府に赴任した異母兄の旅人の妻が亡くなり、主婦替わりとして郎女が太宰府に下るのですが、そこで起こった出来事が描かれます。
第三章は、旅人の死、大伴家の家刀自として、娘たちの将来について計画を立てる郎女の姿が描かれます。
第四章では、藤原四兄弟の死、広嗣の乱、それに続く聖武天皇の都移りを背景に、結婚した甥の家持と娘の大嬢の様子、母と娘の心のすれ違いなどが描かれています。
第五章は、家持の越中守る在任時から始まり、藤原仲麻呂の乱の直後くらいまでが、郎女の視点で描かれています。
読んだ感想は、不幸にも負けず、大伴家の家刀自として、家を守ろうと努力する郎女の姿に頼もしさを感じました。
でも、家刀自としての郎女の姿が強すぎて、ちょっとついて行けない部分もありました。大伴家くらいの家格では自由恋愛は皆無の時代ですが、娘たちの将来をすべて決め、支配してしまうというのはどうなのでしょうか?(これは現代的な視点かもしれませんが)
なので大嬢と心がすれ違ったり、乙嬢の結婚が不幸な結果を招いたりしたのでしょう。娘たちから「大伴、家のためという考えは古い」と言われても、郎女は果たしてどのくらい、そのような考えを理解していたのでしょうか。この小説、もう少し、郎女の恋愛の部分、ことに穂積皇子、麻呂、宿奈麻呂との恋愛にスペースを割いても良かったように思えました。
そんな意味でも、私が持っている郎女について書かれた他の本、『裸足の皇女(永井路子著 文藝春秋 「恋の奴 以下四編)』『人物日本の女性史1(円地文子監修 大伴坂上郎女の部分)』なども読んでみたいと思いました。
すみません、ちょっと批判的なことを書いてしまいましたが、この小説、時代考証もきちんとしていますし、人物の性格の書き分けもわりとはっきりしています。特に、ほんのちょっとしか登場場面がないのですが、穂積皇子と大伴池主が印象的でした。
穂積皇子は、かなりの好人物に描かれていますし、彼に『古事記』や『日本書紀』の歌を教えてもらったことが、後に郎女が『万葉集』を編集するきっかけとなったと描かれています。なのでこの小説では、穂積皇子は重要人物だと思います。
池主は、家持の越中守時代の部下で、弟の書持を見舞うために家持から奈良の都に遣わされるのですが、そのとき、郎女と歌について色々と会話します。郎女は、池主のことを好ましく思うのですが、私は、「ああ、郎女はこういう頭が良くて、歌について色々会話が出来る人を求めていたのか。こういう人に会えて良かったね」と思いました。
それと、最後に光を放っているのが郎女の次女、乙嬢です。以下、ネタばれ注意です。
乙嬢も姉と同じく、母の決めた大伴一族の男性と結婚するのですが、夫は橘奈良麻呂の変に連座してしまいます。夫は死んでしまったという知らせを受け、乙嬢は尼になって寺に入ってしまうのですが、実は生きていて、他の女性と逃げていたことが最後にわかるのです。何かすごく切なかったです。この時代の女性は、こうした哀しい運命を背負った人が多かったのでしょうね。
それに比べると郎女は、夫と早く死別したけれど、大伴一族の家刀自として権力を振るうことも出来たし、歌の才能も発揮できたし、編集に関わったとされる万葉集を後世に残すことも出来たのですから、幸せな人と言えるかもしれませんね。
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☆万葉の華 ー小説 坂上郎女
著者=三枝和子 発行=読売新聞社
☆内容
朝廷の権力争いの渦中で、家刀自(女あるじ)として大伴家を支えた旅人の異母妹。万葉集の編集に情熱を燃やした美貌の歌姫の波乱の物語。書き下ろし歴史長編小説。
*すでに絶版のようです。興味を持たれた方図書館か古書店を当たってみて下さい。
文字通り、女性では万葉集に一番多くの歌を残した歌人、大伴坂上郎女の生涯を描いた小説です。著者によるあとがきによると、万葉集の編集に坂上郎女が深く関わっていたのではないかという仮説に基づいて書かれたのだそうです。
この小説は、五つの章に分かれています。
第一章では、若い頃の郎女の姿が描かれます。
物語は和銅六年(713)、郎女が14歳の時、穂積皇子に見初められて入内するところから始まります。
そして、2年後に皇子が亡くなり、その後、藤原麻呂の恋人になるが、母の薦めで異母兄の宿奈麻呂と結婚、2人の娘をもうけますが、数年後に死別します。第一章で早くも宿奈麻呂まで亡くなってしまってびっくりしましたが、先を読み進めてみました。
第二章は、主に太宰府が舞台になっていました。太宰府に赴任した異母兄の旅人の妻が亡くなり、主婦替わりとして郎女が太宰府に下るのですが、そこで起こった出来事が描かれます。
第三章は、旅人の死、大伴家の家刀自として、娘たちの将来について計画を立てる郎女の姿が描かれます。
第四章では、藤原四兄弟の死、広嗣の乱、それに続く聖武天皇の都移りを背景に、結婚した甥の家持と娘の大嬢の様子、母と娘の心のすれ違いなどが描かれています。
第五章は、家持の越中守る在任時から始まり、藤原仲麻呂の乱の直後くらいまでが、郎女の視点で描かれています。
読んだ感想は、不幸にも負けず、大伴家の家刀自として、家を守ろうと努力する郎女の姿に頼もしさを感じました。
でも、家刀自としての郎女の姿が強すぎて、ちょっとついて行けない部分もありました。大伴家くらいの家格では自由恋愛は皆無の時代ですが、娘たちの将来をすべて決め、支配してしまうというのはどうなのでしょうか?(これは現代的な視点かもしれませんが)
なので大嬢と心がすれ違ったり、乙嬢の結婚が不幸な結果を招いたりしたのでしょう。娘たちから「大伴、家のためという考えは古い」と言われても、郎女は果たしてどのくらい、そのような考えを理解していたのでしょうか。この小説、もう少し、郎女の恋愛の部分、ことに穂積皇子、麻呂、宿奈麻呂との恋愛にスペースを割いても良かったように思えました。
そんな意味でも、私が持っている郎女について書かれた他の本、『裸足の皇女(永井路子著 文藝春秋 「恋の奴 以下四編)』『人物日本の女性史1(円地文子監修 大伴坂上郎女の部分)』なども読んでみたいと思いました。
すみません、ちょっと批判的なことを書いてしまいましたが、この小説、時代考証もきちんとしていますし、人物の性格の書き分けもわりとはっきりしています。特に、ほんのちょっとしか登場場面がないのですが、穂積皇子と大伴池主が印象的でした。
穂積皇子は、かなりの好人物に描かれていますし、彼に『古事記』や『日本書紀』の歌を教えてもらったことが、後に郎女が『万葉集』を編集するきっかけとなったと描かれています。なのでこの小説では、穂積皇子は重要人物だと思います。
池主は、家持の越中守時代の部下で、弟の書持を見舞うために家持から奈良の都に遣わされるのですが、そのとき、郎女と歌について色々と会話します。郎女は、池主のことを好ましく思うのですが、私は、「ああ、郎女はこういう頭が良くて、歌について色々会話が出来る人を求めていたのか。こういう人に会えて良かったね」と思いました。
それと、最後に光を放っているのが郎女の次女、乙嬢です。以下、ネタばれ注意です。
乙嬢も姉と同じく、母の決めた大伴一族の男性と結婚するのですが、夫は橘奈良麻呂の変に連座してしまいます。夫は死んでしまったという知らせを受け、乙嬢は尼になって寺に入ってしまうのですが、実は生きていて、他の女性と逃げていたことが最後にわかるのです。何かすごく切なかったです。この時代の女性は、こうした哀しい運命を背負った人が多かったのでしょうね。
それに比べると郎女は、夫と早く死別したけれど、大伴一族の家刀自として権力を振るうことも出来たし、歌の才能も発揮できたし、編集に関わったとされる万葉集を後世に残すことも出来たのですから、幸せな人と言えるかもしれませんね。
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