アブソリュート・エゴ・レビュー

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「女の小箱」より 夫が見た

2016-12-01 22:15:46 | 映画
『「女の小箱」より 夫が見た』 増村保造監督   ☆☆☆★

 日本版DVDを購入して鑑賞。しかしまあ、良くも悪くも昭和っぽいというか、俗悪とサービス精神の間を行きつ戻りつしながら突っ走るような、あざとさと猥雑なエネルギーに溢れた映画である。ドロドロの濃縮昼メロという感じでもある。何かといえば物悲しい旋律が流れてくるのも、昔のメロドラマっぽい。

 まず、いきなり若尾文子の入浴シーンでスタート。最初からこれかい。すりガラスごしにぼんやり全裸が見える演出がいかにもあざとい。なりふり構わぬ淫靡路線である。が、どうやら裸は若尾文子本人ではなく吹き替えらしい。残念。淫靡路線はその後も続き、岸田今日子、江波杏子も参入してエロい雰囲気がムンムン立ち込めるが、ただし当時の映画なので裸は見えません。女性が素っ裸になるシーンはたくさんあるが常に肝心なところは隠れています。

 さて、エリート社員の夫(川崎敬三)との夫婦の営みがもう半年もご無沙汰の若妻(若尾文子)。「誰でもいいから、思い切り抱かれたいわ」などと友人の女医にこぼす。そこへ野心家の悪党(田宮二郎)が現れ、いきなり接吻。「あなたを好きになりました」動揺する若妻。が、悪党には体を張って金を集めてくる情婦(岸田今日子)がいた。彼女を使って金を集め、会社乗っ取りを企んでいる。「この仕事が終われば、結婚してくれるわね」と情婦。風呂上りに体に巻いたバスタオルを自らひろげ、「抱いて。汚い? 私の体…」いやすごいセリフだ。岸田今日子にこんなこと言われたら超ビビる。

 ちなみに田宮二郎が乗っ取ろうとしているのは若尾文子の夫の会社だった。若妻に怪電話。「あなたのご主人には愛人がいます」若妻が現場に乗り込むと、そこにはすっぱだかで女の布団の中にいる夫の姿が。夫は動揺して顔をひきつらせる。昭和の昼メロに必ず出てくるの図だ。こうして夫を嫌悪し、抗いがたく悪党に惹かれていく若妻。が、酔った夫が若妻を押し倒す。「いや、やめて!」「自分の妻を抱いて何が悪い!」いやー、はっはっは。こんな調子で、話は快調に進んでいきます。

 まあ大体の感じは掴んでもらえたと思うが、あざといまでのエロとメロとサスペンスをこきまぜて、観客を飽きさせないようサクサク話が展開していく。エロとメロは若尾文子、川崎敬三、田宮二郎の三角関係で、サスペンスは会社乗っ取り計画である。その他、女スパイ江波杏子と川崎敬三とチンピラの三角関係、そこから派生する殺人事件、更に田宮二郎をめぐる若尾文子と岸田今日子の女の戦いなど、ドロドロに濃縮された人間模様がいやおうなく繰り広げられる。特にえぐいのが岸田今日子で、終盤の中心人物は間違いなく彼女だ。メロドラマのはずが、ほとんどホラーに近くなる。

 まあアーティスティックな感動を得るような映画では全然ないが、これを娯楽として楽しめるかどうかは、もう好みの問題だろう。私の場合、役者たちがみんな達者なのでそれなりに楽しめたが、結局「だから何?」という気がしないでもない。刺激的な場面の連続だけれども、観終わった後に残るものはほぼゼロだ。おそらく本作の弱点は終盤の展開である。あれだけギラギラしていた田宮二郎が突然計画をあきらめて純愛に走るのが嘘くさいし、若尾文子のキャラもメロドラマ的に受動的で、何がしたいのかはっきりしない。そして、いきなりあっけなく終わってしまう。この話の流れだと、もっと腰が抜けるような残酷などんでん返しがあるのかと思った。

 しかしまあ、とりあえず岸田今日子のすごさはよく分かった。色っぽくて、しかも怖い。「動くと死ぬのよ」あの口調が怖く、微笑みが怖い。すごい女優さんである。そして田宮二郎もこういう役がよく似合う。ギラギラした悪党。女には常に自信満々。ちょっとだけ出てくる小沢栄太郎も映画を引き締めている。ドロドロしたえぐい映画を観たくなったら、おススメである。それにしてもタイトルの意味が良く分からない。夫が見た、じゃなくて妻が見た、じゃないだろうか。なんか適当につけた感満点である。
 


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