アブソリュート・エゴ・レビュー

書籍、映画、音楽、その他もろもろの極私的レビュー。未見の人の参考になればいいなあ。

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逃亡者

2016-05-18 23:52:46 | 映画
『逃亡者』 アンドリュー・デイビス監督   ☆☆☆☆

 ご存じ、ハリソン・フォード主演の『逃亡者』。1993年公開。知らない人はあまりいないんじゃないかと思うが、なつかしいこの映画をまた観たくなってiTunesのレンタルで再見。今観てもやっぱり面白い。ハリウッド娯楽映画王道のマスターピースと言っていいんじゃないか。

 パーティーの夜、シカゴ記念病院に勤務するキンブル医師(ハリソン・フォード)の妻が何者かに殺される。帰宅したキンブルは片腕に義手をつけた犯人と格闘し、逃げられるが、警察はキンブル医師を犯人と断定する。裁判で有罪判決を受けたキンブルは、護送中に起きたアクシデントを利用して逃亡し、自ら片腕の犯人を見つけ出そうと決意する。一方、連邦捜査官ジェラード(トミー・リー・ジョーンズ)はキンブル医師を逃亡犯として手配、徹底した捜査網をひいて追跡を開始する…。

 主演のハリソン・フォードはこういう役にぴったりだし、主役としての華もあるが、この映画のキーパーソンが連邦捜査官を演じるトミー・リー・ジョーンズであることに誰も異論はないだろう。彼がいなければ、つまりキンブルを追う捜査官が単なる悪役や単なる善意の味方だったら、この映画は凡庸な水準作もしくはそれ以下に成り下がっていたはずだ。トミー・リー・ジョーンズ演じるジェラード捜査官はまさに人間猟犬という言葉がふわさしい男で、断固たる決意とプロ意識と、必要に応じて酷薄にもなれるしたたかさをもってキンブル医師を追う。決して妥協せず、万分の一の可能性まで潰していこうとするその姿勢は他の捜査官達から呆れられるほどである。また、部下を人質にとった犯人を躊躇なく射殺するエピソードでは部下に非難されるが、「おれは犯人とは取引しない」の一言で斬って捨てる。

 ジェラードとキンブルがダムの中で対面した時、キンブルはこう訴える。「私は無実だ」するとジェラードは答える。「おれの知ったことじゃない」そう、ジェラードは獲物を追っている猟犬なのであり、そもそもキンブルが有罪か無罪かには関心がない。そういう意味でジェラードは決してキンブルの味方でも共感者でもなく、敵対者と言えるだろう。有能で容赦ないジェラードにキンブルが追われることで、物語も緊迫し、盛り上がる。

 一方でまた、ジェラードはキンブル医師の単なる迫害者ではない。彼は(シカゴ警察と違って)有能であるがゆえに、キンブルが妻殺しの犯人ではあり得ないことに気づく。終盤、キンブルと真犯人の対決の場にジェラードもやってきてキンブルに告げる。「もう逃げられん、観念しろ」しかしその直後、ジェラードはこうも言うのである。「キンブル、君が無実なのは分かっている」

 それまでのキンブルの汚名と濡れ衣のすべてが雪のように溶けていくのは、この瞬間である。もちろん法的にはキンブルはまだ囚人だし、シカゴ警察は彼を犯人とみなしている。が、ジェラードがこう言えばもう安心だ、と誰もが思うことだろう。これまでジェラードがどんな人間か見てきた私たちは、いったんこう言ったからには、たとえ山を動かすことになろうとも彼がキンブルを無罪にするだろう、と確信するのである。シカゴ警察のボンクラどもが何を言おうと関係ない。

 これほど容赦なく、周りの人間にも精力的に噛みついてばかりのジェラード捜査官だが、どうやらメディア対応は苦手らしく、記者会見では別人のように覇気がない。「それについてはノーコメント」を棒読みのように繰り返すだけ。そんなところも人間くさくて妙に魅力的だ。このキャラクターをこれほど生き生きと演じたトミー・リー・ジョーンズがアカデミー助演男優賞を獲ったのも当然だろう。

 一方で、主演のハリソン・フォードがトミー・リー・ジョーンズに喰われてしまったという評を時々見かけるが、私はそうは思わない。ハリソン・フォードにはやはり主役としての華があるし、無実の罪で追われながらも真犯人を突き止めるというこれまた不屈の男を、魅力的に演じている。なんせインディ・ジョーンズ俳優である、不屈の男は十八番だ。ただし人格高潔で苦悩する役柄であるために、この映画では受けの芝居に回っている。かたやトミー・リー・ジョーンズは明らかに攻めの芝居である。この映画はそれでバランスが取れている。そしてそのバランスの美しさが、この映画の成功の理由である。

 その他、侵入した病院で子供を助けるエピソードや一瞬だけちょい役で登場するジュリアン・ムーア、刑務所でのジェラードとキンブルの追っかけっこ、ラストのホテルの華やかさなど、観客を飽きさせない工夫が凝らされているし、ストーリーを盛り上げる音楽も良い。ラストシーン、マスコミとシカゴ警察で騒然となっているホテルの前からキンブルとジェラードを乗せた車がゆっくりと離れていくところは、壮大な物語が完結したという充足感で観客を満たしてくれるはずだ。


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1 コメント

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オリジナル「逃亡者」  (もののはじめのiina)
2019-08-10 09:35:11
むかし、オリジナルのテレビドラマ「逃亡者」を欠かさずに見ていました。

随分前にNHKがBSで再放送したときは、画像もきれいでしたが、最近はトンと放送してくれません。

再放で第一話を知ることができました。
次は、ナレーションつきです。
http://iina.g3.xrea.com/f1.html

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