『魔術師の幻想』 ☆☆☆★
刑事コロンボ第36番目のエピソード。犯人役はもはや常連さんとなったジャック・キャシディ。
今回ジャック・キャシディはマジシャンである。グレート・サンティーニ。「水槽の幻想」という、鎖でぐるぐる巻きにされ水中に吊るされた箱の中から脱出するマジックが売り物で、この上演中にクラブのオーナーを殺す。ジャック・キャシディは『構想の死角』『第三の終章』でも犯人役を演じていて、どっちも実に嫌な奴だった。自己チューで高慢で人を小馬鹿にしていて、コロンボ・シリーズの典型的「憎たらしい犯人」像だ。が、このサンティーニはちょっと違う。結構イイ奴である。こんな風に思うのは私だけだろうか。
一見クールで自信に溢れ、前の犯人像と似ているようだが、客商売のせいかコロンボに対しても一応礼儀正しい。マジック見物に来たコロンボにいい席を都合してあげたりする。それにコロンボが質問に来ると、なんだかんだ言いながらも毎回手品を見せたり声色を使ってみせたりする。実にサービス精神旺盛である。これがイイ奴でなくて何だろうか。激しい言葉の応酬をした後でもちゃんと別れ際には袖からハンカチを出して見せるサンティーニ。殺人の動機も私利私欲ではなく恐喝されて身を守るためにやむなく、という同情できるパターンだ。もともとナチの親衛隊だったのがもういかん、という人もいるかも知れないが、少なくともこの作品の中では恐喝者ジェロームの方が卑劣漢だ。金を持ってこなきゃ過去をばらすぞ、という恐喝に屈せず、自分のマジック技術を活用していちかバチか勝負に出る、というところにも個人的にはある種の美学を感じて好感が持てる。どんな鍵でも開けられるのもかっこいいぞ。
さて本作品の特徴は、やっぱり趣向が盛り沢山ということだろう。マジック・ショーの場面が二度ある他に、『悪の温室』に出てきたウィルソン刑事再登場、コロンボのレインコートが新しいものに変わる、など色々ある。ちなみにコートは途中でまた古いものに戻る。
ウィルソンは、『悪の温室』では間違った人物を逮捕しコロンボにひっくり返される、という単なる引き立て役だったが、今回はコロンボのアシスタントとして充分に活躍する。現場で「殺される直前ジェロームは何をしていたのか」を調べる場面は完全に二人の協調作業だし、最後の詰めもコロンボとウィルソンの二人がかりだ。それに「水槽の幻想」上演中、「サンティーニを見たか?」というコロンボの問いに、「見ませんよ。だってあの中ですから」と水槽を指さしてみせるという大ボケもかましてくれる。
という風になかなか見所は多い本作だが、肝心のミステリ面は弱い。コロンボは鍵を開けたというだけでサンティーニに目星をつけ、あとは無線機だの訛りだのと情報収集をしていくだけだ。鋭い質問をぶつけてサンティーニと丁々発止やり合うということがない。決め手となる証拠も「ああ、なるほど!」となるようなものではなく、「実はここにあった」と何の伏線もなく唐突に出てくる。
それにしても、どうしてサンティーニはあそこで鍵をこじ開けたんだろう。ジェロームに開けさせてさえおけば、コロンボに追いつめられることもなかったのに。サンティーニ・ファンの私としてはそこが惜しまれる。
刑事コロンボ第36番目のエピソード。犯人役はもはや常連さんとなったジャック・キャシディ。
今回ジャック・キャシディはマジシャンである。グレート・サンティーニ。「水槽の幻想」という、鎖でぐるぐる巻きにされ水中に吊るされた箱の中から脱出するマジックが売り物で、この上演中にクラブのオーナーを殺す。ジャック・キャシディは『構想の死角』『第三の終章』でも犯人役を演じていて、どっちも実に嫌な奴だった。自己チューで高慢で人を小馬鹿にしていて、コロンボ・シリーズの典型的「憎たらしい犯人」像だ。が、このサンティーニはちょっと違う。結構イイ奴である。こんな風に思うのは私だけだろうか。
一見クールで自信に溢れ、前の犯人像と似ているようだが、客商売のせいかコロンボに対しても一応礼儀正しい。マジック見物に来たコロンボにいい席を都合してあげたりする。それにコロンボが質問に来ると、なんだかんだ言いながらも毎回手品を見せたり声色を使ってみせたりする。実にサービス精神旺盛である。これがイイ奴でなくて何だろうか。激しい言葉の応酬をした後でもちゃんと別れ際には袖からハンカチを出して見せるサンティーニ。殺人の動機も私利私欲ではなく恐喝されて身を守るためにやむなく、という同情できるパターンだ。もともとナチの親衛隊だったのがもういかん、という人もいるかも知れないが、少なくともこの作品の中では恐喝者ジェロームの方が卑劣漢だ。金を持ってこなきゃ過去をばらすぞ、という恐喝に屈せず、自分のマジック技術を活用していちかバチか勝負に出る、というところにも個人的にはある種の美学を感じて好感が持てる。どんな鍵でも開けられるのもかっこいいぞ。
さて本作品の特徴は、やっぱり趣向が盛り沢山ということだろう。マジック・ショーの場面が二度ある他に、『悪の温室』に出てきたウィルソン刑事再登場、コロンボのレインコートが新しいものに変わる、など色々ある。ちなみにコートは途中でまた古いものに戻る。
ウィルソンは、『悪の温室』では間違った人物を逮捕しコロンボにひっくり返される、という単なる引き立て役だったが、今回はコロンボのアシスタントとして充分に活躍する。現場で「殺される直前ジェロームは何をしていたのか」を調べる場面は完全に二人の協調作業だし、最後の詰めもコロンボとウィルソンの二人がかりだ。それに「水槽の幻想」上演中、「サンティーニを見たか?」というコロンボの問いに、「見ませんよ。だってあの中ですから」と水槽を指さしてみせるという大ボケもかましてくれる。
という風になかなか見所は多い本作だが、肝心のミステリ面は弱い。コロンボは鍵を開けたというだけでサンティーニに目星をつけ、あとは無線機だの訛りだのと情報収集をしていくだけだ。鋭い質問をぶつけてサンティーニと丁々発止やり合うということがない。決め手となる証拠も「ああ、なるほど!」となるようなものではなく、「実はここにあった」と何の伏線もなく唐突に出てくる。
それにしても、どうしてサンティーニはあそこで鍵をこじ開けたんだろう。ジェロームに開けさせてさえおけば、コロンボに追いつめられることもなかったのに。サンティーニ・ファンの私としてはそこが惜しまれる。
半世紀も立っているけど、名作だと思います。
魔術師の演技など、ほかの俳優では出来ません。
素晴らしい俳優だったんですね。
お気に入りのコロンボ作品であります。