アブソリュート・エゴ・レビュー

書籍、映画、音楽、その他もろもろの極私的レビュー。未見の人の参考になればいいなあ。

アリバイのダイヤル

2014-12-13 15:58:17 | 刑事コロンボ
『アリバイのダイヤル』   ☆☆

 コロンボ12作目のエピソード。犯人役は『指輪の爪あと』に続いて二度目の登板、常連俳優ロバート・カルプ。『指輪の爪あと』でも短気な犯人像をうまく演じていたが、今回は輪をかけて短気な男だ。題材はアメリカン・フットボール。冒頭スタジアムが映ってチアガールが踊ったり、なかなか華やかである。

 が、個人的にはかなり弱いエピソードだと思う。観終わった後の印象が非常に薄い。私がコロンボ鑑賞の副読本としている『コロンボ完全捜査記録』によると、これほど多くの重要な事柄が画面の外で起きているエピソードはない、ということだが、確かにそれもあるかも知れない。しかしやはり、コロンボと犯人ポール・ハンロンの絡みと対決のテンションが低いことが主要な理由だと思う。ハンロンはコロンボに腹を立てていることは分かるが、ただそれだけで、他の秀逸なエピソードのように優越感を持ったり、侮ったり、どこか親しみを感じたり、というやり取りがない。薄っぺらい。

 コロンボの突っ込みポイントも、プールサイドに水道水が撒かれていることに不審を持つのは良いが、他にハンロンにぶつけるネタはアイスクリームの車の件ぐらいだ。ハンロンがコロンボとの会話中にゲームの中継を切った、という指摘も面白いけれども、それに対してハンロンが弁明し、またそれにコロンボが反論する、というようなキャッチボールに発展しないのである。

 実はコロンボもなかなか面白い点に着目はしていて、たとえば、アリバイ作りのために呼び出されたコーチの話ではゲーム前半の展開が悪かったのにハンロンの機嫌が直っていたこと、ゲームが佳境の時にわざわざ被害者に電話したこと、などはいかにもコロンボ的な「心理的な不自然さ」で面白い。二日でクビになった秘書の話も、ちょっと小耳に挟んだ話をコロンボがしっかり覚えていて、あとでちゃんと活きてくる。ところが、こういう点が全部ハンロンのいないところで会話されるだけなのである。これはもったいない。やはりここは、もっとネチネチとハンロンに食い下がっていって欲しかった。

 そして最大の不満は、あの結末。アリバイの証拠である電話のテープにある音が入っていないという、この手のミステリドラマでは定番といっていい手法だが、それはいいとして、あれじゃただハンロンが電話の時にオフィスにいなかったというだけで、犯人である立証にはまったくならない。ハンロンにアリバイがない、というだけだ。ハンロンの容疑が濃厚で電話のアリバイだけが頼りだったというならまだしも、コロンボがハンロンにアリバイを聞いたのは、アイスクリームの車がスタジアムからも乗れるというただそれだけの理由だった。つまり、誰が犯人でもおかしくない。動機も弱い。

 ちなみに、『古畑任三郎』にさんまが登場した「しゃべりすぎた男」でも似たような場面があり、そこではやはり電話の音からオフィスにいなかったことを証明されたさんまが、「実は他の場所にいた。ただ、秘密の依頼人だからこれ以上は喋れない」ととぼけていた。コロンボ通の三谷幸喜のことだから、これはきっと『アリバイのダイヤル』のラストの改変バージョンなんだな、と思ったのを思い出す。



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2 コメント

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Unknown (本屋)
2016-02-16 07:48:33
ワーグナー邸がすきです。
この豪邸はコロンボの撮影で
かなり何度も使われていますね。

このシーンでの(コロンボが花屋と
登場するシーン)モーツァルトがいいね、とムスメと話しました。
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ワーグナー邸 (ego_dance)
2016-02-21 23:12:41
コロンボへのコメントをたくさんいただきましたので、いくつかピンポイントでレスさせていただきます。

撮影では同じ豪邸を何度も使っているのだろうと思ってはいましたが、あまり気づいたことがありません。これはプールも出てきていかにもビバリーヒルズの豪邸ですね。また、娘さんとコロンボ鑑賞ができるとは羨ましい限りです。
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