
『ガメラ3 邪神<イリス>覚醒』 金子修介監督 ☆☆☆
平成ガメラ三作目、つまりトリロジーの最終作を再見。前作の『レギオン襲来』はこれでもかと自衛隊をフィーチャーした作品だったが、本作では自衛隊色は後退し、そのかわりオカルト色が前面に出ている。オカルトといってホラーではなく、少女の怨念をメインに据えたオカルト・ファンタジー色である。
つまり本作の主人公はガメラによって(一作目のギャオスとの戦いの最中に)両親を殺された少女であり、少女はガメラを恨むあまりイリスという怪獣を育て、イリスにガメラを殺してもらおうとする。もちろんイリスは日本中を破壊して回るわけだから少女は世界を滅ぼそうとしているに等しく、特定個人の内面が世界の運命に直結するという意味で、いわゆるセカイ系アニメのノリと言っていいかも知れない。
ちなみに私はセカイ系と言われる作品は観たことがないのでよく知らないが、こういう発想はオタク的な未成熟性、つまり人間個人など世界の中では無に等しいという認識を受け入れられない幼さの表れなんじゃないか、というネガティヴな印象を持っている。この映画にもそういうオタク性、幼さが濃厚に漂っており、ストーリー的には平成ガメラ三部作の中でもっとも弱いと思う。
さて、映画のアヴァンタイトルでギャオスの大量発生と、ガメラの墓場が描かれる。このガメラの墓場は後のストーリーと関わって来ないようだが、予定されていたエピソードがカットでもされたのだろうか。あるいはガメラは唯一無二の個体じゃないと暗示することで、ガメラの変貌を正当化しているのか。本作におけるガメラの顔つきはまったくもって凶悪で、非常にかっこいい。ぬいぐるみみたいだった一作目とは雲泥の差である。
ガメラを恨む少女は前田愛。ちなみに本作には色んな俳優さんがちょい役で出ていて、三田村邦彦、八嶋智人、上川隆也、生瀬勝久などだが、きわめつきはなんといっても仲間由紀恵だろう。いまや紅白歌合戦の司会である国民的女優が、男を誘って林の中に入りイリスに襲われてミイラになるという、衝撃的なちょい役を演じている。仲間由紀恵ファンは必見である(ホントか?)。
さて、主役の前田愛が洞窟でぬいぐるみ丸出しの子供イリスを育てたりしているうちに、ギャオスとガメラが渋谷に飛来してバトルを繰り広げる。この渋谷崩壊シーンが本作最大のみどころ、というより日本特撮史上最高のビジュアルであることに疑問の余地はない。もんのすごい迫力である。初めて観た時は日本の特撮もここまできたか、と感無量だった。ハリウッドのCGみたいにきれいじゃないが、アングルや構図、見せ方に凝るという平成ガメラの特色を遺憾なく発揮して、技術不足をカバーしている。
燃えながら落下してくるギャオスに始まり、渋谷上空に巨大な回転ジェットが降臨するガメラ登場シーンは過去最高のカッコよさだ。着地前に甲羅がガシガシと組み変わる、ガメラの口から煙が出ている(プラズマ火球を吐いた直後であるため)などディテールも凝っていて、炎をバックに浮かび上がるガメラのシルエットなど映像美も充分。そしてこの場面、ガメラ人間殺しまくりである。もちろん一応ギャオスを狙っているのだが、巻き添えで人間が死んでも全然気にしていない。前二作で見せた、あの人間への気配りはどこへ行ってしまったのか。最後の方で思い出したように子供を一人助けるが、あれだけで人間の味方だと言われても到底納得できるものではない。子供は助けるが、大人はどうでもいいのか。ひょっとしたらこのガメラは前二作とは違う奴で、大雑把な性格なのだろうか。顔も違うし。
やがて成長したイリスとガメラが激突し、夜の空中戦となるが、この場面がまたいい。アニメーションをかなり使ってあるが、CGや実写とうまく融合していて迫力がある。この場面における私のツボは、あの、ガメラが海ガメ飛行から回転ジェットに一瞬で切り替えるところである。超かっこいい。二作目で出したあのダサい海ガメ飛行も無駄ではなかったというわけだ。
その後ガメラとイリスは京都に着地し、最後の決戦となる。日本的な京都の町並みと怪獣の組み合わせはなかなか面白い。ちなみにイリスの造形はもうすっかりファンタジー的、非生物的で、美しいといって評価する人もいるようだが私としては全然いただけない。生物的な生々しさがなく、存在感が薄い。色も派手過ぎて、ちょうど『ウルトラマンA』の頃の超獣みたいだ。
さてビジュアル的にはここまで三部作最高の出来だったこの『ガメラ3』、最後の決戦で急にボルテージが下がってしまう。はっきり言って地味だ。怪獣が京都駅の構内に入ってからは、もはや怪獣同士の戦いではなく少女の葛藤がメインになってしまう。前田愛がイリスに吸収され、それをガメラが助ける。少女を人工呼吸する中山忍をガメラが上からじっと見守る、などというわけわからない図まで出てくる。うーん、やっぱりセカイ系的にまとめに来たか。ガメラも渋谷ではあれだけ好き放題殺しておきながら、「おれも心配してるっす」みたいになっちゃって。一体どういうわけだ。
最後はギャオスの大群が襲来し、ガメラ一人戦いに赴く、というところで終わる。このラストは余韻があってなかなかいい。
ところで本作には山咲千里と手塚とおるのオカルト・コンビが登場し、易経の言葉を引用したりする。金子監督の怪獣映画には、いつも聖書や易経から自由自在に引用できる人が登場するが、本作ではこの二人がその役割を負っている。オカルト担当である。それにしても山咲千里はセリフ棒読み、手塚とおるはルックスから言動からほとんど冗談で、このコンビに本作の欠点が集中しているように思う。いきなり前田愛を誘拐したりするが、一体何をしたいのか全然分からない。この二人をばっさり削り、前田愛はイリスの犠牲になって途中で死に、最後はイリスとガメラの激烈なバトルで締めてくれれば、この『ガメラ3』もだいぶましになったんじゃないだろうか。
まあいずれにしろ、色んな意味で行き着くところまで行った作品ではある。特撮のビジュアルに燃える人にはお薦めだが、ストーリーを気にしてはいけない。
平成ガメラ三作目、つまりトリロジーの最終作を再見。前作の『レギオン襲来』はこれでもかと自衛隊をフィーチャーした作品だったが、本作では自衛隊色は後退し、そのかわりオカルト色が前面に出ている。オカルトといってホラーではなく、少女の怨念をメインに据えたオカルト・ファンタジー色である。
つまり本作の主人公はガメラによって(一作目のギャオスとの戦いの最中に)両親を殺された少女であり、少女はガメラを恨むあまりイリスという怪獣を育て、イリスにガメラを殺してもらおうとする。もちろんイリスは日本中を破壊して回るわけだから少女は世界を滅ぼそうとしているに等しく、特定個人の内面が世界の運命に直結するという意味で、いわゆるセカイ系アニメのノリと言っていいかも知れない。
ちなみに私はセカイ系と言われる作品は観たことがないのでよく知らないが、こういう発想はオタク的な未成熟性、つまり人間個人など世界の中では無に等しいという認識を受け入れられない幼さの表れなんじゃないか、というネガティヴな印象を持っている。この映画にもそういうオタク性、幼さが濃厚に漂っており、ストーリー的には平成ガメラ三部作の中でもっとも弱いと思う。
さて、映画のアヴァンタイトルでギャオスの大量発生と、ガメラの墓場が描かれる。このガメラの墓場は後のストーリーと関わって来ないようだが、予定されていたエピソードがカットでもされたのだろうか。あるいはガメラは唯一無二の個体じゃないと暗示することで、ガメラの変貌を正当化しているのか。本作におけるガメラの顔つきはまったくもって凶悪で、非常にかっこいい。ぬいぐるみみたいだった一作目とは雲泥の差である。
ガメラを恨む少女は前田愛。ちなみに本作には色んな俳優さんがちょい役で出ていて、三田村邦彦、八嶋智人、上川隆也、生瀬勝久などだが、きわめつきはなんといっても仲間由紀恵だろう。いまや紅白歌合戦の司会である国民的女優が、男を誘って林の中に入りイリスに襲われてミイラになるという、衝撃的なちょい役を演じている。仲間由紀恵ファンは必見である(ホントか?)。
さて、主役の前田愛が洞窟でぬいぐるみ丸出しの子供イリスを育てたりしているうちに、ギャオスとガメラが渋谷に飛来してバトルを繰り広げる。この渋谷崩壊シーンが本作最大のみどころ、というより日本特撮史上最高のビジュアルであることに疑問の余地はない。もんのすごい迫力である。初めて観た時は日本の特撮もここまできたか、と感無量だった。ハリウッドのCGみたいにきれいじゃないが、アングルや構図、見せ方に凝るという平成ガメラの特色を遺憾なく発揮して、技術不足をカバーしている。
燃えながら落下してくるギャオスに始まり、渋谷上空に巨大な回転ジェットが降臨するガメラ登場シーンは過去最高のカッコよさだ。着地前に甲羅がガシガシと組み変わる、ガメラの口から煙が出ている(プラズマ火球を吐いた直後であるため)などディテールも凝っていて、炎をバックに浮かび上がるガメラのシルエットなど映像美も充分。そしてこの場面、ガメラ人間殺しまくりである。もちろん一応ギャオスを狙っているのだが、巻き添えで人間が死んでも全然気にしていない。前二作で見せた、あの人間への気配りはどこへ行ってしまったのか。最後の方で思い出したように子供を一人助けるが、あれだけで人間の味方だと言われても到底納得できるものではない。子供は助けるが、大人はどうでもいいのか。ひょっとしたらこのガメラは前二作とは違う奴で、大雑把な性格なのだろうか。顔も違うし。
やがて成長したイリスとガメラが激突し、夜の空中戦となるが、この場面がまたいい。アニメーションをかなり使ってあるが、CGや実写とうまく融合していて迫力がある。この場面における私のツボは、あの、ガメラが海ガメ飛行から回転ジェットに一瞬で切り替えるところである。超かっこいい。二作目で出したあのダサい海ガメ飛行も無駄ではなかったというわけだ。
その後ガメラとイリスは京都に着地し、最後の決戦となる。日本的な京都の町並みと怪獣の組み合わせはなかなか面白い。ちなみにイリスの造形はもうすっかりファンタジー的、非生物的で、美しいといって評価する人もいるようだが私としては全然いただけない。生物的な生々しさがなく、存在感が薄い。色も派手過ぎて、ちょうど『ウルトラマンA』の頃の超獣みたいだ。
さてビジュアル的にはここまで三部作最高の出来だったこの『ガメラ3』、最後の決戦で急にボルテージが下がってしまう。はっきり言って地味だ。怪獣が京都駅の構内に入ってからは、もはや怪獣同士の戦いではなく少女の葛藤がメインになってしまう。前田愛がイリスに吸収され、それをガメラが助ける。少女を人工呼吸する中山忍をガメラが上からじっと見守る、などというわけわからない図まで出てくる。うーん、やっぱりセカイ系的にまとめに来たか。ガメラも渋谷ではあれだけ好き放題殺しておきながら、「おれも心配してるっす」みたいになっちゃって。一体どういうわけだ。
最後はギャオスの大群が襲来し、ガメラ一人戦いに赴く、というところで終わる。このラストは余韻があってなかなかいい。
ところで本作には山咲千里と手塚とおるのオカルト・コンビが登場し、易経の言葉を引用したりする。金子監督の怪獣映画には、いつも聖書や易経から自由自在に引用できる人が登場するが、本作ではこの二人がその役割を負っている。オカルト担当である。それにしても山咲千里はセリフ棒読み、手塚とおるはルックスから言動からほとんど冗談で、このコンビに本作の欠点が集中しているように思う。いきなり前田愛を誘拐したりするが、一体何をしたいのか全然分からない。この二人をばっさり削り、前田愛はイリスの犠牲になって途中で死に、最後はイリスとガメラの激烈なバトルで締めてくれれば、この『ガメラ3』もだいぶましになったんじゃないだろうか。
まあいずれにしろ、色んな意味で行き着くところまで行った作品ではある。特撮のビジュアルに燃える人にはお薦めだが、ストーリーを気にしてはいけない。
とくに最近の方。
回転して飛んでくるのは
インパクトありますよね
ゴジラもそういった工夫があれば
好きになるかなぁ・・・