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『時代区分は本当に必要か? 〔連続性と不連続性を再考する〕』

2017年01月04日 | サンド・ビオグラフィ




『時代区分は本当に必要か? 〔連続性と不連続性を再考する〕』

ジャック ル=ゴフ (著), Jacques Le Goff (原著), 菅沼 潤 (翻訳)

単行本: 214ページ
出版社: 藤原書店 (2016/7/26)
言語: 日本語

中世とルネサンス、揺らぐ境界
先月久しぶりにフィレンツェを訪れ、ミケランジェロが設計した二つの小さな建築空間があまりに素晴らしく、合計5時間も観察した。イタリアのルネサンス期は革新的なデザインの方法論が創造された。実際、この時代は美術や文化の分野で多くの天才が輩出したことが知られていよう。一般的な歴史の時代区分でもルネサンスは中世から断絶する、近世の始まりとして位置づけられている。だが、こうした見方に異を唱えるのが本書の目的だ。

中世史を専門とする著者は、政治的な事件や偉人から歴史を解釈することを批判し、社会の諸要素や民衆の生活などに注目したアナール学派の研究者である。本書はまず時代区分のパターンを整理し、「中世」や「ルネサンス」の概念が歴史的にどのようにつくられたかを検証したうえで、中世が「闇の時代」とされてきたことに疑問を投げかけ、最後に「長い中世」という考え方を提示する。

彼によれば、ルネサンス期の特徴とされる変化はさかのぼって中世にも指摘しうる。逆に魔術が実際に始まるのは15世紀で、“新大陸の発見"などの新しい状況も、本当に影響を及ぼしたのはもっと後の時代だった。すなわち、中世とルネサンスは不連続性よりも連続性が強く、両者は重なっており、長い中世において複数のルネサンスが発生したという独自の歴史観が示される。そして中世から近代への決定的な断絶は、産業や学問が大きく変わり、フランス革命が起きた18世紀に見出(みいだ)すことができる。

フランス人だけに自国びいきに見えなくもないが、日本も敗戦したからといって、社会のすべてがいきなり変わったわけではない。グローバリズムやIT化の潮流も同様だろう。ラディカルな断絶がもたらされることもあれば持続しつつ緩やかに動いていくこともある。本書は歴史をヘンに単純化して理解するのではなく、複眼的に認識するまなざしを与えるだろう。

評者:五十嵐太郎(建築批評家・東北大学教授)

(週刊朝日 掲載)
内容紹介
人間の歴史認識において「時代区分」はいかなる意味を持つのか?
我々の歴史認識を強く束縛する「時代」という枠組みは、いかなる前提を潜ませているのか。
アナール派中世史の泰斗が、「闇の時代=中世」から「光の時代=ルネッサンス」へ、という史観の発生を跡付け、「過去からの進歩」「過去からの断絶」を過剰に背負わされた「時代」概念の再検討を迫る。
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はじめに
序 論
古い時代区分
中世の出現
歴史、教育、時代
ルネッサンスの誕生
今日から見たルネッサンス
中世は「闇の時代」か
長い中世
おわりに

謝辞
参考文献一覧
訳者あとがき
人名索引

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