西尾治子 のブログ Blog Haruko Nishio:ジョルジュ・サンド George Sand

日本G・サンド研究会・仏文学/女性文学/ジェンダー研究
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日本AICL会員の皆さまへ

2011年12月19日 | 文学一般 海外
日本AICL会員の皆さまへ

12月11日(2011年)の研究会は、斎藤先生の『雪国』の翻訳の問題、福田先生の堀辰雄『菜穂子』とモーリヤックに関する二つのご発表を得て、非常に充実した内容の会となりました。僭越ながら感想を書かせて頂きましたので、ご一瞥くださいますと幸いです。

 サンデンステッカー、セシル・サカイの翻訳文を逐次比較され、誤訳や微妙なずれを明らかにされた斎藤先生のご発表は、仏文学の翻訳の醍醐味と繊細さが浮き彫りにされ、聴衆に迫るものがありました。「国境」の概念の訳出欠如、駒子が放つ「真面目さ」の本意、「足指のくぼみまで」清潔な様態の訳出の妙など、なめらかで流れるような華麗な文体の翻訳本を出版されておられる先生ならではの貴重なご指摘に、非常に多くを学ばせて頂きました。また、先生が付録とおっしゃって解説された、『赤と黒』のド・レナール夫人が発する「fi donc」の訳出に関する、野崎歓、小林正、桑原武夫・生島遼一、の三翻訳の比較も極めて刺激的で、傾聴者の深い思考を誘うものがありました。

 堀辰雄の「楡の家」およびモーリャックの『蝮のからみあい』に関する福田先生のご発表では、モーリャック研究の第一人者でおられる先生の明晰な作品分析と両作家のロマンの神髄に迫る読みの手法をご教示頂きました。『菜穂子』と「楡の家」の作品の生成過程、「楡の家」と『蝮のからみあい』両作品の近似性に関するご説明、二人の作家の表現形式の相違や『テレーズ・デスケルー』のモーリャックとは異なる作家の創作姿勢についてなど、いずれも明快かつ説得力に富む先生のお話に啓蒙されること多大でした。『蝮のからみあい』における父と子の主題は父に愛されない息子の孤独感や愛と信仰の問題を惹起し、「楡の家」における母と娘の主題は一人の男を愛してしまう母娘の間の微妙なズレや母に投影された娘自身の憎悪を浮かび上がらせ、これらは男女の違いはあるものの、父と母の「死の手記」という文脈と相乗作用を為し、人間存在の奥底に潜む魂の問題を炙り出す。このような登場人物の鋭敏な心理分析を通し作品の底知れぬ魅力を読み解かれる福田先生のご発表は、文学好きの聴衆に新たな深い感銘を残して下さいました。

 研究会後のフレンチレストランでは、美味しいワインとお料理(最後のデザートも圧巻、最高でした!)を囲んで様々な話題に花が咲き、時を忘れるほど大変楽しい忘年会となりました。斎藤先生、福田先生、素晴らしいご発表を本当にありがとうございました。椎名先生、研究会会場とレストランの手配、それにいつもの細やかなお心遣いに感謝いたしております。

 本研究会を立ち上げられたのは、日本のサンド研究の重鎮でおられる長塚隆二先生です。斎藤先生のお話では会が創立されたのは三十年ほど前のことだったそうです。長塚先生は今は引退されて静かに余生を過ごしておられます。海外のサンド研究者の方々から先生の消息を尋ねられることがありますが、この春以降、なかなか先生にお会いしにゆく機会に恵まれないままに時が過ぎております。また折を見て、先生のご様子をお知らせできるようにしなくてはと考えているところです。

 フランスのLeuwers会長から来年三月の国際学会開催のご案内が届きました。日本AICL会員の皆さま方に「Bien sûr, excellentes fêtes et voeux chaleureux pour 2012 !」というメッセージをとのことですのでお伝え申し上げます。

 それでは、皆さま、本年はお世話になりまして、大変、ありがとうございました。

 どうぞよい御年をお迎え下さいますよう。

日本AICL運営担当係
 Haruko NISHIO
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