もう九十年も読んできた(祖父の時から数えて)医事新報が全面リニューアルと称して四月から左開きの横書きになってしまった。唯一残っていた右開き縦書きの医学情報誌が無くなってしまったわけだ。三十五年前、医師の必読書として親父から強く勧められ読み始め、当初は右開き縦書きを古くさく感じたのだが、今は欠かせぬ必読書として毎週目を通し、国語の教科書の様な右開き縦書きを楽しんでいたのに、誠に残念だ。恐らく古手の教授の中にも私と同様の感慨を抱く方が居られよう。
「何を馬鹿な」。「それは残念」。と親父や祖父の声が聞こえる気がする。時代の流れ、あなたの気持ちはノスタルジーに過ぎないと言われれば、返す言葉に力が入らないが、何かが失われたのは確かな気がする。あるいはやはりこれは老兵の呟きなのだろうか。
そういえば十年ほど前から一般読者(勤務医や開業医)のエッセイをあまり載せなくなっていた。厚労省から山漁村下町医療事情まで全ての医事を網羅していた医事新報から、先端最新医事へと僅かに舵を切ったのだろうか。それも時代の趨勢、確かに片田舎や下町はもはや何処にもなく、限界集落と貧困無機質の街に変わっているのかもしれない。果たして今幅広い医事の視点が何処に移りつつあるか定かではないが、左開き横書きになっても全ての医師の為の偏らない医事を網羅する精神は失って欲しくない。
ウェブサイトを開けない人用に作ったが、糸脈先生のような読者沢山有り
拝眉の機会がありましたらお渡しすべくバックナンバーを残しています。