好んで読む著者は少しづつ増えて二十人近くになった。ごく最近では梯久美子さんと黒木亮さんが加わった。梯さんは十五歳も年下なのだけれども年上のように感じることがある不思議な人だ。勿論、意図してはおられないと思うが、どこか微かに人を諭すようなところがあるせいかもしれない。人をというよりご自身をと言った方がよいだろうか、それが読み手には自分も諭されているように感じられてしまうのかもしれない。
梯さんの読み手のように書いてしまったが実は「好きになった人」「サガレン」「廃線紀行」の三冊しか読んでいない。それでも梯さんを地図好き仲間のせいか、勝手にとてもよく理解できたと思っている。
「散るぞ悲しき」など渾身の著書は読んでいない。梯さんは事実に正面から向き合うことのできる人と感じているが、それは並の人間には必ずしも容易なことではない。多くの人が忘れ去ろうとしている八十年前の戦争に向き合い、巻き込まれ生きた人の中に好きになった人を見出し書き起こされているようだが、果たして戦争を知らない世代がそれを読み継いで行けるだろうか、難しい宿題のような気がする。父が従軍し戦後の気配を記憶する私にも少し重く感じられ読みあぐねている。
サガレンの中に林芙美子と北原白秋が出てくる。川本三郎さんが林芙美子と北原白秋のことを書いておられたのを思い出し不思議な符合を感じた。