駅前糸脈

町医者をしながら世の中最前線の動きを感知、駅前から所見を発信。

聴診器一本鞄に入れて

2021年03月06日 | 人生
         
 
 包丁一本晒しに巻いてという歌があった。私も聴診器一本鞄に入れて、どこへ行っても生きていける職業で、実際に故郷を離れていわゆる関連病院に就職し、幼馴染の居ない土地で開業してしまった。人生は一度しかないが、地図を見ながらネットを散策しながらここに住んでみたらどんなだったろうと夢想する。どちらかと言えば暑さよりも寒さの方が苦手なのだが北の国志向がある。
 北国出身の患者さんも多いので時々雪の話をしたりするが、みなさん雪を憎んでおられるかのように雪なんてとんでもないと言われる。
 まあ内科系の医師は慢性疾患が主体だから、どうしても一か所に長く居ないと仕事の醍醐味は味わえない。そこへ行くと外科医はそれこそどこへ行っても手術で自分の能力が出せ、やりがいを見出すことができるだろう。一昨年、近くの総合病院にやってきた外科医T氏は四十代後半で脂の乗った年頃なのだが、今まで東京、富山、山梨、山形と各地を転々とメス一本で渡り歩いてきた人で、前任地は山形の酒田という。あまりプライベートなことは聞きにくくご家族などどうしたのか分からないが、酒田はどんなところと聞いたら、独特の文化があって一味違うように言われた。良いところだが中に入り込むのは難しかったそうだ。どうも山が好きらしいのだが、当地には大した山はなく、今度は暖かいところが良いとでも思われたのだろうか、どうも腰が落ち着かなくてと笑っておられた。
 私も色々な所で働いてみたいと思わないでもなかったが、家族も居たし開業すると動きにくい。隣の芝生は青く見える。人生色々と言っても、一人で色々は欲張りというものらしい。
コメント (2)
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